長期休暇を前に、夫と相談して海外旅行を計画していた私。普段は離れて過ごす時間が長いからこそ、家族で過ごせる時間はとても貴重でした。
娘も幼稚園で仲の良い友だちができ、毎日楽しそうに通っていました。私自身もその娘の友だちのママたちと自然と仲良くなり、穏やかな日常が続いていたのです。
そんななかで、ひとりだけ頭を悩ませていた存在がいました。それは、転園してきたばかりのあるママ友です。
関わりたくないママ友の存在
そのママ友は何かにつけて、自分が優位に立とうとする人でした。
ある日、お迎えの際に「今夜はハンバーグにするの」「うちは生姜焼きかなぁ」などと話していたときのこと。例のママ友はいつの間にか会話に入ってきて、「みんな質素な夕飯ね。うちはA5ランク黒毛和牛のサーロインステーキにする予定」と当然のように言い放ったのです。
私も含め、みんなできるだけ関わらないようにしていましたが、同じ幼稚園、同じ生活圏ということもあり、顔を合わせないわけにはいきませんでした。
別の日のお迎えの際、私の服装をじろじろと見てきた例のママ友。
「珍しいお洋服ね。どこのブランド?」
その言い方には明らかな含みがありました。私が「近所で買ったノーブランドの服ですよ」と答えると、彼女は続けて「へぇ……うちは家族みんな上質な一流ブランドの服しか着ないから、近所で適当に買う感覚がわからないなぁ」「明日から、お買い物のためにヨーロッパへ行くの」と自慢げに話してきたのです。
そのとき、横で話を聞いていたうちの娘が無邪気に言いました。
「私も明日から旅行に行くよ。ヨーロッパ!」
一瞬、彼女は驚いたような顔をしましたが、すぐに笑みを浮かべて言いました。
「日本でもヨーロッパっぽいところはたくさんあるものね」
「本当のヨーロッパとは全然違うけど……あなたたちには十分なんじゃない?」
どうやら、ヨーロッパの雰囲気を味わえる国内の観光スポットに遊びに行くのだろうと決めつけているようです。私は苦笑いを浮かべ、その場をやり過ごすしかありませんでした。
空港での再会
翌日、空港で搭乗を待っていると、例のママ友と出くわしてしまいました。彼女は驚きのためか一瞬目を見開いたあと、腕を組んで鼻を鳴らし、こう言ってきたのです。
「本当に海外旅行に行くの? 無理してるんじゃない?」
「もしかして宝くじでも当たった?」
さらに彼女は自分の搭乗券をひらひらと見せて、「私たちはビジネスクラスだから、ゆったり過ごせるけど……エコノミーはさぞかし窮屈なんでしょうね」「まぁ、お金がない人には、一生ビジネスクラスとは無縁ね!」と言ってきました。
正直、言い返す気にもなれませんでした。私が黙っているのを見て、彼女は満足そうに去っていったのです。
やがて搭乗口で「Group1のお客様を飛行機へご案内いたします」というアナウンスが流れました。私と娘がゲートへ向かおうとすると、横から例のママ友が慌てて割って入ってきたのです。
「ちょっと! あなたたち、どこへ行くつもり? エコノミーはまだ呼ばれてないでしょ。恥ずかしいわねぇ」
周囲の注目を集めるほど大きな声で私を引き止める彼女。しかし、私が黙って提示した「Group1」と印字された搭乗券を見たゲートの係員さんは、丁寧な会釈とともに私たちを通してくれました。
あっけにとられる彼女を後に、私たちは一足先に機内へ。
私たちが座席で荷物を整理していたときです。後から搭乗してきた彼女が、ビジネスクラスの座席より前方にいる私たちの姿を見つけ、信じられないといった様子で声を張り上げました。
「ちょっと! あなたたち、何やってるの!? そっちはファーストクラスよ! 勝手に座ったら大変なことになるわよ!」
彼女は、私たちが座席を間違えていると思い込んだようでした。
ママ友にそう言われたタイミングで、姿を現したのは私の夫。実はこの便の運航に夫が乗務しており、私たち家族は夫の福利厚生でファーストクラスに搭乗することになっていたのです。パイロットの制服を着た夫の姿を見て、私は思わず安心したのを覚えています。
「パパかっこいい!」と娘。娘は飛行機の中で夫に会えることをとても楽しみにしていたのです。
軽く私たちに向かって手を振り、「到着したらゆっくり過ごそう」と声をかけてくれた夫。そのやり取りを通路から見ていたママ友は、ひどくショックを受けたような顔をしていました。
そして、「旦那がパイロットだって、どうして黙ってたのよ! どうせビジネスクラスの私のことをバカにしてたんでしょ!?」と捨て台詞を残し、そのまま逃げるように自分の席へと戻っていったのでした。
再び穏やかな日常へ
後日、ほかのママ友から例のママ友の話を聞いたのですが……旅行中に高額な買い物を重ねたことで家計の問題が表面化し、夫婦間で大きなトラブルに発展したそうです。話し合いの末、別居という形になったと聞きました。
以前から周囲とのトラブルが絶えなかったお子さんも、旦那さんに引き取られて転園。幼稚園の雰囲気は、以前のような穏やかさを取り戻しました。子どもたち同士のトラブルも減り、娘も安心して通える環境になったと感じています。
人と比べて優位に立ったところで、小さな優越感を覚えて終わるだけ。今回のような狭い世界では、ただの井の中の蛙になってしまいます。
今回の出来事を通して、私は改めて「自分たちのペースで生活することの大切さ」を実感しました。無理に張り合うのではなく、適度な距離を保ちながら関わること。それが、日々を穏やかに過ごすためには大切なのだと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。