結婚式まであと2カ月に迫ったころ、私の職場の同僚がささやかな食事会を開いてくれました。
せっかくだからと、私は彼も誘って参加することに。あのときは、まさかこの日がすべての始まりになるとは思っていませんでした……。
軽い一言が引き金に
「先輩の彼氏、すごくタイプです♡」
そう言って笑ったのは、私が教育係として指導していた後輩でした。仕事では遅刻やミスが多く、フォローに追われることも少なくなかった相手です。
場の空気を考えない発言に、苦笑いするしかなかった私。一方、彼はまんざらでもなさそうな様子でしたが、そのときは少し違和感を覚えた程度でした。
違和感が確信に変わった瞬間
それからしばらくすると、彼は急に「仕事が忙しい」と言うようになり、式場の打ち合わせもたびたびキャンセルするように……。一緒にいてもスマートフォンばかり見ていて、会話も上の空。
さすがにおかしいと感じた私は、ある日、彼の帰宅後の行動を確認することにしました。
すると、彼は定時で退社し、そのまま自宅へ。そして彼の帰宅からほどなくして、見覚えのある女性が部屋に入っていきました。それは――あの後輩でした。
迷った末にインターホンを押した私。出てきたのは彼ではなく、後輩でした。
「あ、バレちゃいました?」
軽い口調でそう言われた瞬間、頭の中が真っ白になりました。問い詰めると、2人はすでに交際しているとのこと。後輩は彼の部屋に頻繁に出入りしていることも認めました。
「君はひとりでも生きていけるだろ? でも彼女は放っておけないんだ」と彼。その言葉を聞いたとき、彼への愛情は一気に冷めました。
退職の覚悟と予想外の連絡
翌日、上司に事情を説明し、退職の意向を伝えた私。後輩と顔を合わせながら仕事を続けることは、どうしてもできなかったのです。
上司との話し合いでは「とりあえず有給休暇を消化する」「それでも気持ちが変わらなかったら退職届を上司に託し、後日人事に提出してもらう」ということで話がまとまりました。
引き止めてくれる同僚もいましたが、気持ちは変わりません。
荷物をまとめているとき、後輩は笑いながら近づいてきてこう言いました。
「仕事までなくなっちゃって、大丈夫なんですか~?」
「私は寿退社するから、それまで待ってくれればいいのにぃ」
最後まで態度を改めなかった後輩。私は何も言い返さずに会社を後にしました。
その後は、結婚式のキャンセルや関係各所への連絡、慰謝料請求の準備などに追われる日々。法的な手続きについては弁護士に相談しながら、冷静に進めることにしました。
一通り落ち着いたころ、会社の上司から連絡がありました。「一度話がしたい」とのことで、私は1週間ぶりに会社へ。
久しぶりの社内は想像以上に混乱していました。例の後輩は重要な打ち合わせに遅刻し、資料のミスも重なり、取引先からの信頼を大きく損なっていたそうです。さらに、無許可での備品の持ち出しや社用車のプライベート利用、不正な経費申請など、社内ルールに反する行為も複数発覚していました。
上司は「教育係だった君がどこまで知っているかを聞きたい」という名目で私を呼び出したのですが、本来の目的は別にあったようでした。
「もし君さえよかったら、戻ってきてくれないか」
復帰してくれるなら今後の体制を見直すこと、例の後輩についても、就業規則に基づいて適切な対応を取る方針だということ。私はしばらく考えた末、仕事に戻ることを決めました。
過去の私と今の私
私が職場に復帰した日は、後輩の退職日となっていました。周りは私が後輩と会わないように配慮してくれていましたが、偶然廊下で出くわしてしまったのです。
そのとき、後輩は青ざめた様子で「先輩、助けてください」と言ってきましたが、私は返答しませんでした。後輩に厳しい処分が下されたことは後から知りました。
それからしばらくして、元婚約者の会社は倒産。彼の会社は、私の勤めている会社との取引に大きく依存していたようです。私の会社のほうで取引条件の見直しなどがおこなわれた結果、取引は終了に。
後輩もまた、予想していたものとは大きくかけ離れた生活を送っていると風の噂で聞きました。
私は現在、上司や同僚とともに新しいプロジェクトに取り組んでいます。職場の人たちにも恩返ししたいので、しばらくは恋愛よりも仕事に集中しようと考えています。
振り返ってみると、あのとき裏切りに気づけたことは、結果的に良かったのかもしれません。もしそのまま結婚していたら、もっと大きな問題に直面していた可能性もあります。
つらい出来事ではありましたが、今は少しずつ前を向けています。これからは、自分にとって本当に大切なものを見極めながら、一歩ずつしっかりと歩んでいきたいと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。