「中卒だから」と押し付けられた役割
入社して間もないころ、歓迎会を兼ねて行われるバーベキュー大会が開かれました。会場では、営業課長のA田課長が中心となって準備を進めていました。今回使用する肉は、今後取引拡大を検討している精肉店から提供されたもの。単なる懇親会ではなく、取引先との関係づくりも兼ねた場だったのです。
その中で、私はある違和感を覚えました。営業部に配属されたばかりの新人・B子さんだけが、ひとりで肉を焼き、配膳まで任されていたのです。他の新入社員たちは席に座って食事や歓談をしているのに、彼女だけがずっと動き回っています。
私が「少し休んだら?」と声をかけると、B子さんは困ったように笑って答えました
「大丈夫です。現場を学ぶのも仕事だからって言われているので……」
その言葉に引っかかりを覚えた私は、理由を確認することにしました。
「教育」という名の不公平な扱い
私はA田課長に直接尋ねました。するとA田課長は当然のように答えたのです。
「あの精肉店は今後、重要な取引先になる予定だからな。営業なら現場感覚を覚えないと」
ここまでは理解できます。ですが、なぜB子さんだけが動いているのか。そう聞くと、A田課長は声を潜めながら言いました。
「他の新人は大卒だから基礎はできてる。でも彼女は中卒だろ? まずは下働きから覚えさせないと」
私は耳を疑いました。同じ採用試験を受け、同じように入社した社員です。学歴だけで扱いを変える理由にはなりません。しかも、肉の扱いを任せながら、本人にはほとんど食べさせてもいない状況でした。
「商品を知るなら、実際に食べて理解することも必要ではないですか?」
そう指摘した直後、会場に新任社長のC美社長と、精肉店の次期店長であるD山さんが到着しました。D山さんは、B子さんが丁寧に肉を扱っている様子を見て笑顔で言いました。
「しっかり商品を大事に扱ってくれる方なんですね。こういう人が担当なら安心できます」
さらにC美社長も、「現場をきちんと見て動ける人は貴重です」と評価。A田課長は気まずそうに黙り込んでいました。
数字だけでは築けない信頼
その後、B子さんは正式に営業業務にも関わるようになりました。実際に一緒に働いてみると、彼女はとても誠実で、取引先からの信頼も厚い人でした。
それから数カ月後、台風の影響で物流が乱れ、複数の取引先との調整が必要になるトラブルが発生しました。A田課長は、データだけを見て仕入先の変更を進めようとしましたが、それによって現場はさらに混乱。新しい取引先とも連携がうまくいかず、供給体制が不安定になってしまったのです。
そんな中、B子さんは既存の取引先へ1軒ずつ連絡を取り、状況説明や納品調整を丁寧に進めていきました。私も他部署と連携しながら対応に追われましたが、取引先の多くが「いつも誠実に対応してくれているから協力したい」と言ってくださったのです。
私は改めて感じました。営業は、数字だけで成り立つ仕事ではない。日ごろの信頼関係こそが、会社を支えてくれるのだと。
積み重ねた信頼が会社を変えた
その後、今回の対応はC美社長から高く評価され、B子さんは営業部の中心メンバーとして新たな業務を任されるようになりました。私自身も、企画部と営業部をつなぐ役割として、取引先との関係改善により深く関わることになりました。
一方でA田課長は、現場との連携不足や一方的な判断を問題視され、管理体制の見直しを求められることに。
会社全体も、「効率だけを優先する営業」から、「人との関係性を重視する営業」へと少しずつ変わっていきました。
まとめ
今回の出来事を通して、私は改めて感じています。学歴や肩書きだけでは、人の価値は決まりません。目の前の仕事に誠実に向き合い、相手との信頼を積み重ねていくこと。それこそが、長く仕事を続ける上で一番大切なのだと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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