恩返しの同居介護
病院へ駆けつけると、いつも笑顔だった義父がベッドで力なく横たわっていました。幸い命に別状はなかったものの、退院後は自宅での介護が必要でした。義実家には義母もいましたが、足腰が悪いため無理はさせられません。
「子どもたちが幼い頃はたくさん助けてもらったし、今度は私たちが恩返しをする番だね」と、夫と話し合い、私たちは義実家へ移り住み、同居での介護を決意したのです。
しかし、実際の介護生活は想像以上にハードなものでした。夜中のトイレの付き添いに、消化の良い食事の準備、通院の送迎。デイサービスなども利用し、義母や夫も協力してくれましたが、平日の日中は必然的に私がメインで動くことになります。気づけば休む間もない日々が続いていました。
暇な人がやればいい!?
私が疲れ切っているのを見かねた夫は、少しでも負担を減らそうと義姉に協力を求めました。しかし、電話口から聞こえてきたのは耳を疑うような言葉でした。「私は仕事で忙しいんだから! 介護なんて、家にいて暇な人がやればいいじゃない」
手伝えない事情をきちんと説明するわけでもなく、一方的に突き放す義姉の態度に、夫も絶句していました。さらに厄介なのは、たまに電話をかけてきては、「ねえ、お父さんのごはん、栄養バランスちゃんと考えてる?」「シーツはこまめに洗ってあげてよね」と、口出しだけは一人前だったことです。
自分は手を動かそうともしないのに、長男の嫁がやるのは当然と言わんばかりの態度。それでも、義父の「いつもごめんね、ありがとう」という穏やかな笑顔に励まされ、なんとか日々を乗り切っていました。
そして、退院から1年足らずで、義父は静かに息を引き取りました。
葬儀後に発覚した身勝手な皮算用
あれほど顔を見せなかった義姉ですが、義父の訃報を聞いた途端に自分の夫を連れてやってきました。悲しむそぶりも見せず、葬儀が終わるやいなや「さあ、遺産のことなんだけど」と身を乗り出してきたのです。
親族があっけにとられる中、遺言書が読み上げられました。そこには、義母や夫、義姉への配分とともに、「最期まで介護に尽力してくれた嫁へ、特定の預貯金を遺す」と書かれていました。
すると、義姉が顔色を変えて声を上げました。 「えっ、私の分ってこれだけ!? ウソでしょ……これじゃあ、せっかく契約したマンションはどうなるのよ!」どうやら義姉は、義父の遺産を受け取ることを前提に、身の丈に合わない高級マンションを見切り発車で契約していたようなのです。
「これじゃあ購入資金が全然足りないし、今さら自己都合でキャンセルしたら、払っておいた手付金も戻ってこないじゃない! だいたい、嫁のあんたに遺産をもらう権利なんてないでしょ? 悪いけど、あんたの分、私に寄越しなさいよ!」自分の見通しの甘さを棚に上げ、当たり前のように要求してくる義姉。
しかし、私は静かに彼女の目を見据え、口を開きました。「介護なんて暇人がやればいいと言ったのはお義姉さんですよ。お義父さんが会いたがってると何度伝えても、1度も顔を出さなかったじゃないですか。これは、お義父さん自身の意思なんじゃないですか」
義父の愛情と取り戻した穏やかな日々
私の言葉に、義姉はハッとして目を見開きました。「お義父さんが私に……」とつぶやいたきり、返す言葉が見つからない様子。親族たちの冷ややかな視線の中、彼女は初めて自分の振る舞いを心から恥じたのか、顔を真っ赤にして逃げるように実家を後にしました。
後日、義父から私宛ての手紙が見つかりました。 「本当の娘のように尽くしてくれてありがとう。このお金は、これからのあなた自身の人生のために使ってください」目の前のことに追われる毎日で、誰も見ていないと思っていた私の頑張りを、お義父さんはベッドの上からしっかりと見守ってくれていたのです。その温かい言葉に、思わず涙があふれました。
現在、義姉夫婦は高級マンションを泣く泣くキャンセルし、多額の手付金を失う羽目になったそう。貯金も底をつき、今は手狭なアパートで節約生活を送っているようです。そんな中、先日、「あのときは、自分勝手で本当にごめんなさい。これ、お父さんのお仏壇に……」と、お義父さんが好きだったお菓子が送られてきました。どうやら彼女なりに、少しずつ自分を見つめ直しているようです。
一方、私はお義父さんが遺してくれたお金をありがたく使わせていただき、家事の合間に、ずっと諦めていた資格取得に向けた勉強を始めています。お義父さんからの温かい言葉を胸に、夫や子どもたちとともに穏やかで充実した日々を歩んでいます。
◇ ◇ ◇
家族というつながりは、自分に都合の良いものだけを受け取るためのものではないはずです。家族や親しい人との信頼は、普段どんなふうに向き合っているか、その積み重ねによって育っていくもの。助けや権利を求める前に、日頃の関わり方を振り返ることが大切なのかもしれませんね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。