露天風呂に異変!?新女将に修理を勧めると
その旅館は、代々続く温泉旅館。私の会社とは長年にわたって取引があり、先代女将のころから温泉設備の管理を任されていました。
しかし少し前、先代女将の娘が新たに女将を務めることに。先代女将はオーナーとして経営に関わっていたものの、現場の判断は娘である新女将に任せるようになっていました。
ある日、旅館から「露天風呂のお湯の出が急に悪くなった」と連絡があり、私はすぐに点検へ向かいました。設備を確認すると、不具合の兆候が見られ、このまま使い続ければ、温泉を正常に届けられなくなるおそれがある状態でした。
私は新女将に状況を説明し、早めに修理をおこなう必要があると伝えました。ところが、見積書を見た新女将は顔色を変えたのです。
「修理代が高すぎる!」新女将が激怒
「こんなに高いなんてあり得ない! 長年取引してきたんだから、9割引きにしなさいよ!」私は耳を疑いました。必要な作業にかかる費用を含めた正規の見積もりであり、到底9割引きなどできません。そう説明しましたが、新女将は納得するどころか、さらに声を荒らげました。
「前にも修理したばかりでしょう!? 何度も不具合が出るなんて、あなたたちの管理が悪いんじゃないの?」
以前対応したのは、今回とは別の場所です。私はそのことも丁寧に説明し、「放置すれば営業に影響が出る可能性があります。早めに対応しておくことをおすすめします」と伝えました。
しかし、新女将は聞く耳を持ってくれませんでした。「そうやって不安をあおって、高い修理代を取るつもりでしょ? 安い業者ならいくらでもいるわ。9割引きにできないなら、今日で契約終了よ!」そう言い放つ新女将に、私は言葉を失いました。
旅館から「温泉が出ない!」と怒りの電話
長年大切にしてきた取引先から、まさかそんな言葉を向けられるとは思いませんでした。悔しい気持ちはありましたが、こちらの判断だけで修理を進めることはできません。
対応を見送った場合には温泉の利用に支障が出る可能性があることを改めて説明し、修理を拒否された経緯と設備の状態を記録。その日のうちに会社へ戻り、上司にも報告しました。
そして、その懸念は翌日、現実のものとなったのです。
出勤したばかりの私のもとに、新女将から電話がかかってきました。「ちょっと、どういうことなの!? 露天風呂が使えないんだけど!」あまりの剣幕に驚きながら話を聞くと、露天風呂に温泉が供給されなくなったとのこと。私はすぐに上司とともに旅館へ向かいました。
責任を押しつける新女将…しかし報告書には
新女将は、私たちの姿を見るなり言いました。「昨日、あなたがちゃんと直していれば、こんなことにはならなかったのよ! 長年任せていた業者なのに、管理が悪すぎるわ!」
私はあぜんとしました。修理が必要だと説明し、それを拒否したのは新女将自身。それなのに、まるで私たちに責任があるかのように話すなんて……。そのとき、騒ぎを聞きつけた先代女将が姿を見せました。新女将は、先代女将に向かって、「長年任せていた業者の管理不足で、急に温泉が使えなくなったの」と説明しました。
しかし、私の上司は落ち着いて口を開きました。「昨日、温泉の供給が止まる可能性があると説明しています。こちらが、その際に作成した報告書です」
私は、前日に作成した報告書と、新女将が修理を拒否し、契約終了を申し出た経緯を記した記録を差し出しました。それを読んだ先代女将の表情は、みるみる険しくなっていきました。
責任を押しつけた新女将を先代女将が一喝
「あなた……修理が必要だと説明されていたのに、断ったの?」新女将は「だって、修理代が高いのよ! 長年の付き合いなんだから、安くしてくれてもいいじゃない!」と言い返しました。
しかし先代女将は、静かに首を横に振りました。「長年のお付き合いがあったからこそ、必要な点検を続けて、この旅館の温泉を守ってくださっていたのよ。それを値切ったあげく、自分で断った修理の責任まで押しつけるなんて……女将として恥ずかしいと思いなさい」
新女将は何も言い返せず、うつむいていました。その後、先代女将は当面の対応を自ら指揮し、新女将には接客や設備に関する判断から一度離れてもらうことにしたそうです。
私たちの会社には、改めて正式に修理の依頼が入り、費用も正規料金で支払っていただきました。修理を終えて温泉が無事に出るようになると、先代女将は私に深く頭を下げました。誠実に仕事を続けていれば、きちんと見てくれている人はいるのだと感じた出来事でした。
◇ ◇ ◇
長年の付き合いがあるからといって、無理な値引きを求めたり、自分が断った修理の責任を相手に押しつけたりするのは、信頼を損なう行為です。専門的な知識や技術には正当な対価を支払い、互いに敬意を持って接することが大切。いざというときにも安心して頼れる関係を築くために、「親しき仲にも礼儀あり」の気持ちを忘れずにいたいですね。
【取材時期:2026年5月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。