「どうせ余ってるでしょ?w」
ある日、隣に住むA子さんへ、母が作りすぎた肉じゃがをおすそ分けしました。A子さんはシングルマザーとして、今年小学校に入学したばかりの息子・B太くんを育てています。
仕事と家事、育児を一人でこなしていて忙しそうだったため、母は少しでも力になれればと思ったのでしょう。
ところがその翌日から、A子さんとB太くんは夕方になるとタッパーを持って、わが家を訪ねてくるようになったのです。
「昨日の肉じゃがおいしかった~!」
「今日も何かある?」
母は苦笑しながら煮物を少し分けていましたが、それ以来A子さんは、「どうせたくさん作ってるんでしょ?」と当然のようにおかずを要求するようになったのです。
私は何度も母に「そこまでしなくていいんじゃない?」と言いましたが、母は「まあまあ」と笑うだけでした。
A子さんの態度にはモヤモヤしていたものの、B太くんは別です。B太くんはとても素直な子で、母のことを「ばあば」と呼んで慕っていました。私もそんなB太くんを、自分の甥のような感覚でかわいがっていたのです。
SNSでは“料理上手なママ”として大人気
そんなある日、私は偶然A子さんのSNSを見つけました。そこには見覚えのある料理の写真がずらりと並んでいたのです。
肉じゃが、ハンバーグ、唐揚げ、筑前煮――どれも母が作った料理でした。
しかも投稿には、『今日も仕事終わりに頑張りました♡』『息子が完食してくれました』などと書かれています。さらにコメント欄には、『仕事と育児を両立しながらすごい!』『理想のお母さん!』と称賛の声が並んでいて……。
あきれた私は「これ全部、お母さんの料理じゃん」と、母にスマホを見せました。すると、母は怒るどころか、画面をのぞき込みながら、「あら、キレイに撮れてるじゃない」と言って笑ったのです。
「それ、ばあばのご飯だよ?」
そんなある日、近所の公園で親子向けのイベントが開かれました。私も母と一緒に顔を出していたのですが、そこでA子さん親子の姿を見つけました。
母がA子さんに声をかけようとしたとき、近所のお母さんたちが次々とA子さんのもとへ集まってきて……。
「SNS見てるよ!」
「毎日あんなに作るなんて尊敬する!」
次々とかけられる言葉に、A子さんは照れながら応じていました。ところがそのとき、隣で話を聞いていたB太くんが不思議そうな顔で言ったのです。
「いつも隣のばあばが作ってくれるんだよね、ママ?」
その場は一瞬で静まり返りました。A子さんは慌てて「B太!」と制止しようとしますが、B太くんはまったく気づいていない様子。
さらに、「ママ、お料理苦手なんだよね。でも大丈夫!今度、一緒にばあばに教えてもらおうね!ぼくもお手伝いするから!」と満面の笑みで続けたのです。
周囲のお母さんたちは顔を見合わせ、A子さんは真っ赤な顔で固まっていました。するとそのとき、B太くんが私たちに気づきました。
「あっ、ばあば!」そう言うなり、うれしそうに母のもとへ駆け寄りました。そして、「昨日のハンバーグ、おいしかった!」と、母に抱きつきながら話すB太くんを見て、A子さんはいたたまれなくなったのでしょう。
「帰るよ」と小さく声をかけると、B太くんの手を引いて足早にその場を後にしたのでした。
母が教えてくれた“大人の対応”
それ以来、A子さんは近所の人と顔を合わせるたびに気まずそうにするようになり、わが家へおかずをもらいにくることもなくなりました。
そして数週間後――A子さんは玄関先で母に頭を下げ、「もしよかったら……料理を教えていただけませんか」と言いました。私は内心、「今さら?」と思いました。ですが母は笑顔で、「もちろんよ」と答えたのです。
その日の夜、私が「お母さん、やさしすぎない?正直、私はA子さんのこと、かなり図々しいと思ったよ」と言うと、母は笑いながらこう答えました。
「過去のことなんてどうでもいいのよ。今の頑張りを認めてあげなきゃ」
そして少し考えるような表情を浮かべたあと、「遠回りだったけど、一番いい形に落ち着いたんじゃない?」と続けたのです。
数カ月後、B太くんはうれしそうに「昨日はママのハンバーグだったんだ!」と報告してくれました。その笑顔を見ていると、母の言う通りだったのかもしれないと感じました。
人は誰でも失敗することがあります。大切なのは、その失敗をごまかし続けるのではなく、きちんと向き合って前へ進むことなのだと感じた出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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