口うるさい義母
父の通院や入院の手続き、実家の片付けなどで帰省することも増えていましたが、夫は事情を理解してくれていました。
「行けるときに行っておいたほうがいいよ。こっちは大丈夫だから」
そう言ってくれる夫の言葉に、私は何度も救われていました。
しかし、それを快く思っていなかったのが義母です。
「嫁入りしたのに、そんなに実家へ帰るものなの?」
「息子を置いて、実家にばかり行っているんじゃないわよ」
「家のことをしたくないだけでしょう?」
会うたびに、義母は嫌みを言ってきました。
最初のうちは聞き流していましたが、父の体調が悪くなるにつれて、義母の言葉は少しずつきつくなっていきました。
「お父さんの具合が悪いのはわかるけど、こっちにも予定があるのよ」
「結婚式の前に不幸があると、気にする人もいるでしょう」
「妹の式に水を差すようなことはしないでちょうだいね」
義妹の結婚式が近づいていた時期だったこともあり、義母はとにかく式を最優先に考えているようでした。
私は「父が亡くなる前提で話すのはやめてください」と伝えました。すると義母は、少し面倒くさそうな声で言ったのです。
「そういう意味じゃないけど、変な時期にならないようにしてほしいだけよ」
その言葉に、私は言い返す気力すらなくしました。帰宅後、夫に義母から言われたことを話すと、夫は顔を曇らせました。
「母さんには俺から言っておく。それはさすがにひどい」
夫はそう言ってくれましたが、義母の態度は簡単には変わりませんでした。
父の病状が悪化して
それから1カ月ほどたったころ、父の体調が悪化しました。
病院から連絡があり、私は数日間、実家と病院を行き来することに。夫にも事情を伝えると、「式の準備はこっちで何とかするから、お父さんのそばにいて」と言ってくれました。
ところが、義母からは何度も連絡が来ました。
「今週末の式には必ず来るのよね?」
「親族の送り迎えもあるし、買い出しも頼みたいんだけど」
「あなたが来ないと、こっちが困るのよ」
私は、父の状態によっては義妹の結婚式を欠席するかもしれないと伝えました。義妹には夫からも事情を話してもらい、義妹本人も「無理しないでください」と言ってくれていました。
それでも、義母だけは納得しませんでした。
「最悪なタイミングね」
「娘の結婚式なのに、どうしてそっちの都合ばかり優先されるの?」
「父親が倒れたくらいで帰るなんて、嫁としてどうなの?」
そのメッセージを読んだ瞬間、胸の奥が冷たくなりました。
私はすぐに夫へ連絡し、義母から来たメッセージや通話の内容を共有しました。すべてを録音していたわけではありませんが、義母からのLINEには、式の手伝いを優先するよう求める文面や、父の病状を軽く扱うような言葉が残っていたのです。
夫はそれを見て、はっきりと言いました。
「もう母さんのこと、妹にも父さんにも話す」
夫から話を聞いた義妹は、かなりショックを受けたようです。義母が私の父の病状を軽く見るような発言をしていたことも、義妹は知りませんでした。
義父もまた、義母の言動に深く失望したようでした。
「そこまでひどいことを言っていたとは知らなかった」
義父は夫にそう話したそうです。
結婚式当日、義母からの電話
義妹の結婚式当日の朝、病院から連絡が入りました。
父が危篤状態になったというのです。
私はすぐに夫へ連絡しました。夫は一瞬言葉を失ったあと、「式のことは気にしなくていい。今すぐ病院へ行って」と言ってくれました。
義妹にも夫から連絡してもらうと、義妹は「お父さまの最期かもしれないなら、そばにいてあげてください」と言ってくれたそうです。しかし、やはり義母だけは違ったのです。私が病院へ向かおうとしていると、義母から電話がかかってきました。
「今日が何の日かわかっているの?」
「父親が倒れたくらいで帰るなんて!」
「娘の式に参加しないなら、息子と離婚させるわよ」
その瞬間、私の中で何かが切れました。
「じゃあ、離婚で結構です」
私がそう答えると、義母は「え?」と驚いたあと、一瞬黙りました。
もちろん、夫と離婚したかったわけではありません。けれど、父の最期かもしれない場面で、義母の脅しに従うつもりはありませんでした。
「こんなときに父を見捨てて結婚式へ行ったら、私は一生後悔します。嫁失格と言われても構いません。人として、今は父のそばに行きます」
そう言って、私は電話を切りました。
その後、義母から何度も着信がありましたが、私は出ませんでした。夫にも義母から連絡があったようですが、夫は「今それを言うなら、式では母さんを親族対応から外す」と伝えたそうです。
見放されたのは義母のほう
私は病院へ向かい、父の最期に間に合いました。
父はほとんど話せない状態でしたが、私が手を握ると、かすかに握り返してくれました。そのぬくもりを感じた瞬間、義母の言うことを聞かなくて本当によかったと思いました。
一方、結婚式では義母がかなり気まずい立場になっていたようです。
義妹は、義母を式から締め出したわけではありません。ただ、控え室にも入れず、母親として席に座るだけにしてもらったそうです。義妹は「今日は余計なことを言わないで。私の式を自分の都合で壊さないで」と義母に伝えたと聞きました。
義父も、義母をかばいませんでした。式場で義母が「嫁が来ないなんて非常識だ」と不満を口にしたとき、義父は静かに言ったそうです。
「非常識なのは、危篤の親を見舞うなと言ったほうだ」
その場にいた親族も事情を知り、義母に味方する人はいなかったと聞きました。結婚式後、義妹から私に連絡がありました。
「こんなときに気を使わせてしまってごめんなさい。お父さんのそばにいられて、本当によかったです」
その言葉を聞いて、張り詰めていた気持ちが少しだけほどけました。
葬儀に現れた義母
父を看取ったあと、私は葬儀の準備に追われました。
夫は受付や親族への連絡を手伝ってくれ、義父や義妹も無理のない範囲で支えてくれました。父の葬儀を終えるまでは、義母のことを考える余裕もありませんでした。ところが、葬儀当日、義母が会場に現れたのです。
義母は「一応、親族として顔を出しに来た」と言っていたそうです。おそらく、自分が非常識な人間だと思われるのを避けたかったのでしょう。
義母が受付に来る前に、夫が対応してくれました。
「今日は母さんが来る場所じゃない。妻にも親族にも会わせない」
夫がそう伝えると、義母は「悪気があったわけじゃないのよ!」と言い訳をしたそうです。けれど、夫は引きませんでした。
「悪気があるかどうかじゃない。言ったことが問題なんだ」
結局、義母は葬儀に参列することなく帰っていきました。
私は後からその話を聞きました。正直、義母と顔を合わせずに済んでほっとしました。父を見送る場でまで、義母の言葉に傷つけられたくなかったのです。
その後、義父は義母と距離を置くように。すぐに離婚という話ではありませんでしたが、以前から義母の言動には悩んでいたようで、今回の件が大きなきっかけになったと聞いています。義妹も、しばらく義母とは必要最低限の連絡しかしないと決めたそうです。
義母は最初、自分だけが責められていることに納得していない様子でした。夫にも何度か連絡があったようですが、夫は「妻と妻の父親のことを軽く扱った発言は許せない」とはっきり伝えてくれました。
私は、義母に仕返しをしたかったわけではありません。
ただ、父の最期に立ち会えたこと。葬儀をきちんと終えられたこと。そして、夫が私の側に立ってくれたこと。その事実が、私を少しずつ前に進ませてくれました。
義母から言われた言葉を、忘れることはできないと思います。それでも、父の手を握れたあの時間だけは、誰にも奪わせなくてよかった。もう、誰かの身勝手な言葉に振り回されるつもりはありません。これからは、大切な人と自分自身を守るために、迷わず行動していきたいと思っています。
◇ ◇ ◇
家族の予定や冠婚葬祭が重なると、どちらを優先するか悩む場面もあるかもしれません。けれど、人の命に関わる場面で相手を責めたり、脅すような言葉をかけたりするのは、決して許されることではないですよね。大切な人を守るためには、ひとりで抱え込まず、信頼できる家族や周囲に状況を共有することも大切なのかもしれませんね。