夫を褒めて私を見下す義母
私は、夫と2人で暮らしています。私は製造関係の仕事をしており、夫は以前、地元の有名企業に勤めていました。義母は昔からそのことが自慢のようで、会うたびに「息子は安定した会社に勤めているから安心ね」と口にしていました。
一方で、私の仕事についてはあまり良く思っていないようでした。
「そんな仕事、長く続けるつもりなの?」
「息子はいい企業に勤めているんだから、妻としてもう少し見合う振る舞いをしてほしいわ」
「毎日働いているわりには、生活に余裕があるようには見えないのよね」
はっきり見下すような言い方ではないものの、言葉の端々に引っかかるものがありました。
それでも私は、夫と話し合って今の生活を続けていました。実は夫は少し前に会社を退職し、古民家を改装したカフェを開く準備を進めていたのです。
夫は、義母にはまだそのことを伝えていませんでした。以前から義母は「安定した会社を辞めるなんてありえない」と言っていたため、開業準備がある程度整ってから報告したいと考えていたのです。
その間、生活費は私が多めに負担していました。さらに、義母への仕送りも、実際には私の収入から出していました。義母は、夫が今も同じ企業に勤めていて、仕送りも夫の給料から出ていると思い込んでいました。
勝手に通帳を見た義母
ある日、義妹の出産祝いで義妹の家に集まることになりました。その日、私は夫から頼まれて、夫名義の通帳を持っていました。カフェ開業に関する手続きで口座情報のコピーが必要になり、帰りにコンビニでコピーを取る予定だったのです。
通帳の残高は、315円。といっても、お金がないわけではありません。開業準備のため、夫の旧給与口座に残っていたお金を別の口座へ移した直後だったのです。
義妹の家に着くと、私は手土産や荷物を置くため、バッグをリビングの端に置きました。そのとき、バッグの中にある通帳が見えていたようです。しばらくして、義母の笑い声が聞こえました。
「ちょっと、残高315円って……」
見ると、義母が私のバッグの近くに立ち、通帳を手にしていました。私は驚いて、「勝手に見ないでください」と言いました。すると義母は悪びれる様子もなく、通帳を閉じながら言ったのです。
「だって、見えたんだもの。あなた、こんな残高でよく平気でいられるわね」
「嫁なのに貯金もできないなら、息子とは離婚したほうがいいんじゃない?」
その場の空気が一瞬で凍りました。近くにいた夫も義妹も、義母の言葉を聞いていました。義妹は慌てて「お母さん、それはさすがに失礼だよ」と止めてくれましたが、義母は止まりません。
「息子はちゃんとした会社に勤めているのに、あなたが家計を管理してこれなら心配になるわ」
「知人の娘さんで、しっかりした人がいるのよ。息子には、そういう人のほうが合っているんじゃないかしら」
遠回しではありますが、私と夫を別れさせ、別の女性を紹介したいと言っているようなものでした。私は深呼吸をして、義母を見ました。
「お義母さん、通帳の名義、見てますか?」
義母の表情が固まりました。
通帳の名義を見た義母
「え?」
義母は、慌てて通帳の表紙を見直しました。そこに書かれていたのは、夫の名前です。
「これは夫の通帳です。カフェ開業の手続きで口座情報のコピーが必要だったので、私が預かっていただけです」
義母は、意味がわからないという顔をしていました。
「カフェ? 何の話?」
私は、これ以上隠すのは無理だと思いました。ちょうど夫もそばにいたため、夫が義母に説明しました。
「会社はもう辞めた。今はカフェを開く準備をしている」
義母はしばらく言葉を失っていました。
「辞めたって……あの会社を?」
「どうしてそんな大事なことを黙っていたの?」
夫は落ち着いた声で答えました。
「準備が整ってから話すつもりだった。母さんが反対するのはわかっていたから」
義母は明らかに動揺していました。けれど、まだ自分の言ったことを謝ろうとはしません。
「でも、それなら生活費はどうしているの?」
「仕送りは? 毎月送ってくれているお金は?」
そこで夫は、義母に向かってはっきり言いました。
「今の生活費は、妻がかなり支えてくれている。母さんへの仕送りも、実際には妻の収入から出していたんだよ」
義母の顔色が変わりました。
見下していた相手に支えられていた現実
義母は、私の仕事を軽く見ていました。夫が退職して開業準備をしている間、生活を支えていたのは私の収入でした。義母への仕送りも、夫婦で話し合ったうえで、私が多めに負担していたのです。
夫は義母に説明を続けました。
「俺が会社を辞めてからも生活できているのは、妻が働いてくれているからだよ」
「母さんが毎月受け取っていた仕送りも、妻の収入があったから続けられていた」
義母は、さっきまで私に向けていた強気な態度をなくしていました。
「でも……私はそんなつもりで言ったんじゃ……」
「残高が少なかったから、心配しただけよ」
私は静かに言いました。
「心配というなら、まず私たちに聞いてください。勝手に通帳を見て、私が貯金できないと決めつけるのは違うと思います」
義母は目をそらしましたが、夫は続けました。
「妻にも妻の仕事にも失礼だよ。そんな言い方をするなら、今後の仕送りは続けられない」
「そもそも、人の持ち物を勝手に見たことについて、まず謝るべきだろ」
義母はしばらく黙っていました。その場にいた義妹も、義母に向かって言いました。
「お母さん、さっきのは本当に失礼だよ。お姉さんが働いて支えてくれていたんでしょう?」
義母は小さな声で「悪かったわ」と言いましたが、納得しているというより、立場が悪くなったから謝ったように見えました。
仕送りを見直すことに
その日の帰り道、夫は私に謝りました。
「母さんに会社を辞めたことを黙っていたせいで、嫌な思いをさせてごめん」
夫が開業準備を整えてから伝えたいと思っていた気持ちは理解していました。けれど、結果的に義母が夫の現状を知らないまま、私の仕事や家計に口を出す状況を作ってしまったのも事実です。
私たちは、今後の義母との関わり方を話し合いました。その結果、仕送りは一度止めることにしました。夫の開業準備中で家計に余裕があるわけではなく、何より私の仕事を軽く見るような言葉を受けたまま支援を続ける気にはなれなかったからです。
夫から義母へは、次のように伝えてもらいました。
「しばらく仕送りは止める。こちらも生活と開業準備がある」
「今後の連絡は俺にして。妻に直接、仕事や家計のことで口を出すのはやめてほしい」
「通帳を勝手に見たことを本当に悪いと思っているなら、きちんと謝ってほしい」
義母は最初、「急に仕送りを止められたら困る」と不満を言ったそうです。けれど夫は、「その仕送りが誰のおかげで続いていたのか考えてほしい」と返したとのことでした。それから、義母から私への連絡はほとんどなくなりました。
その後、夫のカフェ開業は少しずつ形になっていきました。
もちろん簡単な道ではありません。準備にもお金はかかりますし、すぐに安定するとは限りません。それでも夫は、以前よりも真剣に将来のことを考えるようになりました。
私は今の仕事を続けています。
義母から言われた言葉を思い出して、悔しくなることもあります。けれど、あの日の出来事で、私たち夫婦にとって大事なこともはっきりしました。どちらが偉いとか、どちらの収入が上だとか、そういう話ではありません。夫婦で支え合って生活しているのに、外から勝手に片方を見下されたくない。ただそれだけです。
義母が私の通帳だと思い込んで笑った残高315円の通帳は、実際には夫のものでした。
でも、私にとって本当に問題だったのは残高ではありません。勝手に人の持ち物を見たこと。確認もせずに決めつけたこと。そして、仕事や立場で人を判断したことです。
今後、義母と完全に以前のような関係に戻ることはないと思います。それでも、夫が私の側に立ち、必要な線引きをしてくれたことで、私は少し気持ちを立て直すことができました。
これからも私は、自分の仕事に誇りを持って働きます。誰にどう見られるかではなく、私たち夫婦の生活を、私たち自身で守っていきたいと思っています。
◇ ◇ ◇
家族であっても、人の持ち物を勝手に見たり、仕事や収入で相手を決めつけたりすることは、信頼関係を大きく傷つけます。
家庭にはそれぞれの事情があり、外から見える一部だけで判断できるものではありません。近い関係だからこそ、相手の働き方や夫婦の選択に踏み込みすぎない配慮が必要なのかもしれませんね。