事務にはどうせわからないだろ?
A男は営業成績が良く、上司からの評価も高い存在でした。有名大学卒で、留学経験があることをよく自慢していました。
一方、営業事務の私は、A男のように有名大学を卒業したわけではありません。ただ、父の仕事の都合で幼少期から長く海外で暮らしていたため、英語は得意。しかし、それを社内でわざわざ話したことはありませんでした。
仕事中、海外顧客向けの資料を確認していたときのことです。英語表現に少し気になる部分があり、念のためA男に伝えようとしました。
ところが、私が説明しようとした途端、A男はわざとらしく肩をすくめながら、周囲にも聞こえる声でこう言ったのです。
「いや、その辺は営業が判断するから。事務にはどうせわからないだろ?」
A男の言葉に、数人の同僚からは笑い声まで上がりました。そのため、私はそれ以上何も言わず、そのまま引き下がったのです。
海外企業との大型案件を受注!
そんなある日、A男が海外企業との新規案件を受注しました。会社にとっても、過去にない大型案件だったため、社内はお祝いムードです。
A男もかなり気分が良かったようで、「やっぱり海外案件は面白いな~。英語ができる人間じゃないと難しいからね」と得意げに話していました。
私は資料確認などで協力できることがあるかもしれないと思い、「何かお手伝いできることがあれば言ってください」と声をかけました。
するとA男は鼻で笑いながら、「大丈夫。事務がでしゃばらなくていいからw」と言ったのです。
そこまで言われるなら無理に関わるのはやめようと思い、それ以降は依頼された業務だけを淡々とこなし、A男とは必要最低限のやり取りしかしないようにしました。
納品直前に起きた大トラブル
ところが案件が最終段階に入ったころ、大きな問題が発生しました。海外企業側とこちら側で、納品スケジュールや仕様について認識のズレが見つかったのです。
急きょオンライン会議が開かれ、営業担当だけでなく関連部署のメンバーも参加することに。私も営業事務として同席していました。
会議ではA男が説明を進めていましたが、相手企業から次々と質問が飛ぶにつれ、少しずつ雲行きが怪しくなり……。A男の回答が質問とかみ合わず、説明を重ねるほど相手の表情は険しくなっていったのです。
そしてついに、相手企業の担当者が大きくため息をついてこう言いました。
「ほかに英語で話せる方はいませんか?」
その言葉に、会議室は静まり返りました。私は、この重苦しい空気を少しでも変えられればと思い、上司とA男の顔を見てから、意を決して口を開きました。
「私、幼少期から海外で暮らしていたので、お役に立てるかもしれません。少しお話ししてもよろしいでしょうか」
上司は驚いた表情を浮かべながらも、「お願いできるか?」とうなずきました。一方のA男は、信じられないというような顔でこちらを見ていました。
評価されたのは肩書ではなく…
そして私は相手企業の担当者へ向き直り、これまでのやり取りを整理しながら状況の確認を始めました。すると、問題の原因は品質や納期そのものではなく、お互いの認識が少しずつズレてしまっていたことだとわかったのです。
そこで私は、相手企業の不安点を一つずつ確認しながら説明を進め、会社側の事情や今後の対応方針も丁寧に伝えました。
すると、それまで険しかった相手担当者の表情が徐々に和らいでいったのです。そして、最終的に案件は無事継続となり、納品スケジュールも再調整されることになりました。
会議後、海外企業から届いたメールにはこう書かれていました。
「今後は英語で正確にコミュニケーションできる担当者にも窓口として入っていただけると安心です」
A男は何も言わず、黙って画面を見つめていました。
その後、A男は…
その出来事をきっかけに、私は海外案件のサポート業務にも関わるようになりました。一方のA男は、担当から外されることはありませんでしたが、一人で進めることはなくなりました。
最初のうちは、A男もどこか悔しそうな様子でした。しかし、徐々に周囲へ相談しながら仕事を進めるようになり、以前のように私を見下す発言も聞かなくなったのです。
今回の経験を通して感じたのは、仕事は肩書だけで評価できるものではないということです。どんな立場にもそれぞれの役割と強みがあります。相手を決めつけず、互いを尊重することの大切さを改めて実感した出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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