同窓会での再会
この日、私は高校の同窓会に参加していました。幹事を務めていたのは、同級生のA子さんです。事前の案内には「二次会は席のみ予約。飲食代はテーブルごとに精算」と明記されていました。店に入った後も、A子さんは「二次会はテーブルごとに精算だからね」と説明していました。
私はA子さんと同じテーブルに案内され、隣のテーブルにはB山、C田、D木が座っていました。久しぶりの再会に気分が高まっていたのか、3人は大きな声で話しながら、「高級焼き肉、最高だな」「ごちそうさま~」などと言って、高級な肉や酒を次々と注文していました。A子さんの説明は、耳に入っていなかったのかもしれません。
そして会が終了になり、A子さんが改めて「事前に案内した通り、注文した分をそれぞれのテーブルごとに精算する形でお願いします」と言うと、B山たちは不満そうな顔をしてこう言ったのです。
「は? 聞いてないけど」
「二次会も会費に含まれていると思ってたんだけど」
「私たち、会費はもう渡しているわよ」
場の空気が、一気に変わりました。
会計を押し付けられそうに
A子さんは困った表情を浮かべながらも、「一次会の会費には、二次会の飲食代は含まれていないよ。二次会は席だけ押さえていて、各テーブルごとに精算って案内していたはず」と繰り返しました。すると、なぜかB山の視線が隣のテーブルにいた私へ向きました。
「お前、近くにいたなら聞こえてただろ。なんで途中で言わなかったんだよ」
私は驚きました。たしかにB山たちの声は大きく、注文の様子は少し耳に入っていました。しかし、私は同じテーブルにいたわけでもなく、幹事でもありません。ましてや、彼らが説明を聞いていなかったことまで私の責任にされるとは思っていませんでした。
ただ、B山たちは高校時代から、私のことをどこか軽く見ているところがありました。当時の私はあまり目立つタイプではなく、何か言われても強く言い返せないことが多かったのです。その空気を思い出したのか、B山はさらに私の仕事にまで話を広げてきました。
「お前、工務店をやっているんだっけ? 人をまとめる立場なら、こういう場でも少し気を利かせろよ」
B山は大手建設会社に勤めており、そのことを昔から誇らしげに話すタイプでした。C田も、「大手にいるB山くんと違って、あなたのところは小さな工務店でしょ。こういうときくらい少し気を利かせてよね」と続けます。しまいにはD木まで、「今回はお前が多めに払えよ。そうすれば丸く収まるだろ」と言い出しました。
私は腹が立ちましたが、声を荒らげても仕方がありません。
「どこに勤めているかや、会社の規模は今の話と関係ないよ。自分たちで注文した分は、自分たちで支払うのが筋だと思う」
するとA子さんも、幹事として「今回の二次会は各テーブルごとに清算です」ときっぱりと言いました。周囲の視線もあり、B山たちはそれ以上強く言えなくなったようでした。結局、テーブルごとに会計をおこない、それぞれが割り勘をする形で会計を済ませることになりました。
思わぬところで見られていた姿勢
同窓会は気まずい空気のまま終わりました。正直、後味はよくありませんでした。久しぶりの再会を楽しみにしていたはずなのに、昔の力関係を持ち出されたようで、悔しさも残りました。
ただ、あの場で感情的にならずに済んだことだけは、自分でもよかったと思っています。A子さんからも帰り際に、「冷静に話してくれて助かったよ」と声をかけてもらいました。
それから数日後、私の工務店に1本の連絡が入りました。相手は、以前から店舗改装の相談を受けていた企業の社長、E川さんでした。E川さんの会社では旗艦店の内装リニューアルを検討しており、複数の工務店や建設会社に相談しているところだったのです。
実はE川さんは、あの日たまたま同じ焼き肉店に居合わせていたそうです。その場でB山が勤務先の大手建設会社の名前を出して話していたことや、私の工務店の名前まで出していたため、E川さんの耳にも会話の一部が入っていたとのことでした。
「先日は、少し大変そうな場面を見かけましてね」
そう切り出され、私は一瞬ひやりとしました。しかし、E川さんは責めるような口調ではありませんでした。
「不利な状況でも感情的にならず、筋を通そうとしていた姿が印象に残りました。幹事の方への配慮も感じましたし、仕事でも冷静に話し合いができる方なのだろうと思いまして」
そう言ってくださったのです。E川さんの会社では、B山の勤務先にも内装リニューアルの件を相談していたそうです。私はその話を聞いて少し驚きましたが、E川さんは「会社の規模だけで決めるつもりはありません。こちらの要望を丁寧に聞き、一緒に考えてくれる相手にお願いしたいと思っています」と続けました。
そう言われ、私はまず提案書を出させてもらうことになりました。後日、担当者の方たちと打ち合わせを重ねながら、店舗の動線や照明、素材選びなど、細かな部分まで確認しながら提案をまとめていきました。その結果、E川さんの会社から正式に内装リニューアルの依頼をいただくことができたのです。
信頼を積み重ねた先に
リニューアル工事は、決して簡単な案件ではありませんでした。店舗を営業しながら進める部分もあり、スケジュール管理や安全面への配慮が欠かせません。私は職人たちと連携しながら、一つひとつ丁寧に進めていきました。
完成後、E川さんからは「期待以上の仕上がりでした」と言っていただけました。その言葉を聞いたとき、あの日の同窓会で感じた悔しさが、少し報われたような気がしました。
一方で、B山の勤務先にも相談はされていたものの、最終的には見送られたと後から聞きました。詳しい事情はわかりません。ただ、少なくとも今回の仕事では、会社の大きさや肩書きだけでなく、提案内容や相手に向き合う姿勢も含めて見られていたのだと思います。
その後、E川さんの会社から別の店舗についても相談をいただくようになり、私が経営する工務店の仕事は少しずつ広がっていきました。
まとめ
もちろん、大きな会社には大きな会社の強みがあります。けれど、小さな工務店だからこそ、一つひとつの相談に丁寧に向き合い、相手の声を聞きながら形にしていけることもあります。
同窓会での出来事は、決して気持ちの良いものではありませんでした。それでも、感情的にならず、自分の考えをきちんと伝えたことが、思わぬ形で信頼につながったのだと思います。
これからも、目の前の仕事に誠実に向き合いながら、少しずつ信頼を積み重ねていきたいです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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