見知らぬ女性の正体は
交際していたA男からのプロポーズを受け、結婚式の準備を進めていた私。両家への挨拶も済み、式場との打ち合わせも始まり、慌ただしくも幸せな日々を過ごしていたころのことです。
ある日、見知らぬSNSアカウントから「私のA男と婚約おめでとう」というメッセージが届きました。驚いて「どなたですか?」と返すと、相手はA男の幼なじみだと名乗りました。A男の結婚相手が私であるということを知り、本名で登録していたSNSから連絡してきたようでした。
彼女は、「いつもの癖で“私の”って言っちゃった」「A男は家族みたいなものだから」と、妙に距離の近い言葉を並べ、「A男は私と仲が良すぎて、彼女に誤解されちゃうんだよね。婚約者ができて安心した」と続けました。
わざわざ私に連絡してきて、自分と彼の距離の近さを強調するような言い方に、どこか引っかかるものがありました。
自宅インターホンの録画を見ていたら…
その後も、彼女からは時々メッセージが届くようになりました。
「A男は昔から放っておけないタイプだから」
「奥さんになるなら、私の存在も受け入れてね」
「私のほうがA男のことをわかってると思うけど、仲良くしようね」
最初は気にしすぎかもしれないと思っていました。けれど、彼女の言葉を見るたびに、胸の奥がざわついて……。
当然、彼にも、「彼女との距離感が少し気になる」と伝えました。しかし彼は、「あいつは昔からああいう性格なだけ。悪気はないよ」と言うばかり。私が嫌な気持ちになっていることはまったく理解していないようでした。むしろ、彼女をかばっているようにも感じました。
それからしばらくして、彼の行動にも違和感を覚えるようになりました。約束していた日を急に変更したり、自宅でも会話が減ったり。もちろん、それだけで何かを決めつけることはできません。それでも、彼女から届くメッセージと彼の態度が重なり、私は不安を消せなくなっていきました。
そんなある日、彼が私に隠れて彼女と会っていたことがわかったのです。私が仕事で不在にしていた時間、彼が自宅に彼女を招き入れている様子が、自宅のインターホンに録画されていました。
幼なじみの域を超えているのではないか。自宅で2人きりで何をしていたのか――そう考えるとゾッとしました。
「結婚したいなら、どうぞ」
本当なら、すぐにでも結婚をやめるべきだったのかもしれません。
けれど、そのころには式の準備がかなり進んでいました。両家への説明、式場との調整、招待している方々への連絡……。考えなければならないことがあまりにも多く、すぐに動くことができませんでした。
それでも、彼との結婚については、心の中で答えが出始めていました。
そして迎えた結婚式当日。披露宴を終えて私だけ先に控室に戻ってくると、彼の幼なじみが突然、親族以外は入ってこないはずの控室にやってきたのです。
彼女は私の姿を見るなり、笑いながら言いました。
「やっぱり、似合ってないね。ドレスを着れば花嫁らしくなると思った?」
あまりの言葉に、私は一瞬、何も言えませんでした。すると彼女はさらに続けました。
「A男のこと、何もわかってないくせに。そんな人が奥さんになるなんて、花嫁失格じゃない?」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥にあった迷いが消えました。このときの自分は、恐ろしいほどに冷静だったと、今でも思います。そして、「A男と結婚したいなら、どうぞ」と口にしていました。彼女の表情が一気に変わったことを覚えています。
そして私は、彼女が私のいない間に自宅に来ていたこと、それも一度ではなかったこと、それは「幼なじみだから」という言葉で片づけられる関係ではないと伝えました。
婚約解消に
その後、A男が控室に戻ってきました。私は彼女の前で、これまで抱いていた違和感や、インターホンに残っていた録画のことをA男に伝えました。
A男は最初、「誤解だ」「ただ相談に乗ってもらっていただけ」と言いました。しかし、私がインターホンの録画のことを詳しく伝えると、次第に言葉に詰まっていきました。そして最終的には、彼女と浮気の関係になっていたことを認めたのです。
私はその場で、A男との結婚をやめると伝えました。
結婚式をした当日に、婚約解消するなんて、式に招待していた方々や両親には申し訳ない気持ちでいっぱいでしたし、準備段階で、「結婚をやめる」と言っていたらよかったのかもしれないと後悔の気持ちもありました。それでも、彼とは夫婦になることはできませんでした。
いただいたご祝儀は返却。式にかかった費用は、彼側が多く負担する形で話がまとまりました。
しばらくは、悔しさや悲しさで眠れない日もありました。それでも、両親や友人に支えられながら、少しずつ前を向けるようになりました。彼と結婚生活をはじめても、きっと幸せになれなかったはずです。そう思うと、信頼できない相手と夫婦にならずに済んだことが、私にとって一番の救いだったのだと思っています。
イラスト:わかまつまい子
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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招待客もとんだ時間の無駄だったろうな。