息子に家事をさせるなんて
平日の夕食作りとキッチンまわりの片付けは夫。洗濯と買い物は私。掃除は曜日ごとに分け、浴室や洗面所などの水回りは夫が担当する。細かく決めすぎると続かないので、お互い無理のない範囲で協力していました。
けれど、義母はその分担がどうしても気に入らないようでした。
義母は昔ながらの考え方が強く、「家のことは妻が中心になってするもの」と思っている人です。会うたびに、私へ遠回しな言葉を向けてきました。
「息子は仕事で疲れているでしょう」
「あなたがもう少し先回りしてあげないと」
「共働きといっても、家の中のことは女性のほうが気づくものよ」
夫はそのたびに「うちは話し合って分担しているから」と言ってくれていました。けれど、義母は納得していないようでした。
ある日、義母から電話がかかってきました。
「あなた、うちの息子に家事をやらせているんですって?」
いきなり責めるような口調でした。
私は「やらせているというより、夫婦で分担しています」と答えましたが、義母は聞く耳を持ちません。
「息子に料理や掃除までさせるなんて」
「あなたが先に終わらせておけば、息子がやらなくて済むでしょう」
「妻なら、それくらい気づくものじゃないの?」
私は言い返したい気持ちを抑えました。
夫婦で決めたことなのに、なぜ私だけが責められなければならないのか。そう思いましたが、電話口で義母と口論しても話がこじれるだけです。その日は「夫とも話してみます」とだけ伝えて、電話を切りました。
義母の訪問
数日後、義母がわが家へ来ることになりました。事前に連絡はありましたが、目的はすぐにわかりました。家の中を見て、私がどれだけ家事をしているか確認したかったのでしょう。夫も在宅していたため、義母を家に上げました。
義母はリビングに入るなり、部屋の隅やキッチンを見回します。冷蔵庫の中までは見せませんでしたが、シンクやコンロ、洗面所をさりげなく確認しているのがわかりました。
帰り際、義母は私に言いました。
「もう少しきちんとしたほうがいいわね」
「息子がかわいそうよ」
夫はその場で「母さん、うちは分担してるって言ったよね」と言ってくれましたが、義母は「そうは言っても、家のことは妻の段取り次第でしょ」と返すだけでした。
その夜、私は夫に言いました。
「お義母さんが家事のことで私だけを責めるのは、もうしんどい」
「あなたの担当分まで私のせいにされるなら、今後はあなたから説明してほしい」
夫は申し訳なさそうにうなずきました。
「ごめん。母さんがあそこまで言うとは思ってなかった」
「次に何か言われたら、俺の担当だってはっきり伝えていいよ。俺からも言う」
そこで私たちは、義母からまた家事について言われたら、分担の内容を隠さず伝えることにしました。
「夫に言ってもらえます?」
それから1週間ほどたったころ、仕事中の私のスマートフォンに義母から着信がありました。休憩時間に折り返すと、義母は開口一番こう言いました。
「この前見たけれど、料理はお粗末だし、掃除も甘いわね」
私は一瞬、言葉に詰まりました。
「洗面所も水あかが残っていたし、全部やり直したほうがいいわ」
「仕事をしているからって、家のことをおろそかにしていい理由にはならないのよ」
義母の言葉を聞きながら、私は深呼吸しました。以前なら、波風を立てたくなくて謝っていたかもしれません。けれど、今回は違います。
「息子さんに言ってもらえます?」
そう言うと、電話口の向こうが、一瞬静かになりました。
「は?」
義母の声が低くなります。
私は落ち着いて続けました。
「平日の夕食作りとキッチンの片付けは夫の担当です。洗面所や浴室の掃除も、夫が担当している場所です」
「もちろん私も家事をしています。でも、家のことは夫婦で分担しているので、夫の担当分について私だけに言われても困ります」
義母はしばらく黙っていました。そして、信じられないというように言いました。
「そんな……息子がそんなことまでしているの?」
「はい。夫婦で話し合って決めたことです」
義母は明らかに動揺していました。
「でも、あなたがもっとやれば済む話でしょう」
「息子は仕事で疲れているんだから」
私は静かに答えました。
「私も仕事をしています。どちらか一方が無理をするのではなく、2人で暮らしている家なので2人で分担しています」
そこへ、ちょうど夫からメッセージが届きました。休憩中に私から状況を聞いた夫が、義母へ電話をかけると言ってくれたのです。私は義母に「この件は夫から話してもらいます」と伝え、電話を切りました。
夫が義母に伝えたこと
その日の夜、夫は義母に電話をしました。私はそばで聞いていましたが、夫は落ち着いた声で、家事のことで私だけを責めるのはやめてほしいと伝えていました。料理も掃除も夫婦で分担しており、夫自身が担当していることもある。だから、私にだけ文句を言うのは違う、と。
それでも義母は、電話口で「あなたのためを思って言っているのよ」と繰り返していました。夫は少し間を置いてから、きっぱりと言いました。
「俺のためを思うなら、俺たち夫婦のやり方を尊重してほしい」
さらに夫は、家事をしているのは私にやらされているからではなく、自分もこの家で暮らしているからだと説明しました。そして、それを理解してもらえないなら、しばらく会うのは控えたいと伝えたのです。
義母は驚いたようでした。
「そんな……私はあなたが心配で」
「心配を理由に、妻を責めるのはやめてほしい。次に同じことがあったら、家にも来てもらわないし、連絡も取らない」
その言葉に、義母は黙り込みました。
義母にとって、私を責めることは「息子を守ること」だったのかもしれません。けれど実際には、その言葉が息子本人から距離を置かれる原因になってしまったのです。電話を切ったあと、夫は私に謝りました。母に悪気はないと思って流していたけれど、そのせいで私に嫌な思いをさせていた。もっと早く、はっきり言うべきだったと。私は、夫がそう言ってくれただけで少し救われました。
口出しできなくなった義母
それ以来、義母から私へ直接電話が来ることはなくなりました。
夫が、家事や生活のことで言いたいことがあるなら必ず自分に連絡するよう伝えたからです。訪問についても、事前に夫へ連絡し、私たち夫婦が了承したときだけにすることになりました。義母は納得しきれていない様子でしたが、以前のように家の中を見て回ったり、私だけを責めたりすることはできなくなりました。
親族の集まりで会ったときも、義母は私に何か言いたそうにしていました。けれど、夫がそばにいると、以前のような強い言葉は出てきません。
「母さん、それは俺たちで決めたことだから」
夫がそう言うたびに、義母は気まずそうに口をつぐむようになりました。義母が守ろうとしていたはずの息子から、はっきり線を引かれることになった。私から見れば、それが義母にとって一番こたえたのだと思います。
◇ ◇ ◇
家族であっても、夫婦の暮らし方にどこまで口を出していいのかは難しいものです。心配や助言のつもりでも、一方だけを責める言葉になれば、関係に溝ができてしまうこともあるのではないでしょうか。近い関係だからこそ、相手の家庭のやり方を決めつけず、適度な距離を保つことも大切なのかもしれませんね。