恋人を奪われた過去
大学時代、私は初めて彼氏ができました。
不器用ながらも大切にしてくれる人で、私にとっては特別な存在でした。ところが、同じ学部だったA子が彼に急接近したことで、彼との関係は少しずつおかしくなっていったのです。
思えばA子は、人の恋愛に口を出したがるところがありました。特に、誰かに恋人ができると、その相手にわざと親しげに話しかけたり、周囲に「私のほうが仲いいかも」と言ったりするような人。
私の彼にも、最初は何気ない相談を装って近づいていたようです。やがて彼からの連絡は減り、最終的には「A子のことが気になる」と言われ、私は別れることになりました。
もちろん、彼にも非はあります。それでも、A子が私に向かって「奪うつもりはなかったんだけどね」と笑ったことは、大人になった今でも忘れられません。
大学卒業後、私はA子とは距離を置きました。
その後、私は社会人になって出会った男性と結婚。夫は穏やかで誠実な人で、幸せな結婚生活の中で、A子のことを思い出すことも、ほとんどなくなっていたのです。
招待状に書かれていた名前は
そんなある日、大学時代からの友人と会う機会があり、そこで、「A子が結婚する」ということを耳にしました。
久しぶりにA子のことを思い出した瞬間でした。少し身構えましたが、もう昔のこと。それにわざわざ関わるつもりもなく、「そうなんだ」とだけ返しました。すると友人は、「実は気になることがあって」と、A子から送られてきたという、結婚式の招待状を見せてくれたのです。
何気なく見ていたのですが、新郎の名前を見た瞬間、手が止まりました。
そこに書かれていた名前が、私の夫と同姓同名だったのです。
思わず、「これ、夫と同姓同名なんだけど」と友人に返しました。よみだけでなく、漢字まで一緒でした。とはいえ、夫の名前はわりとごく一般的なものでしたし、同姓同名の人がいてもおかしくはありません。驚いたものの、「すごい偶然だね」と笑うと……。友人は気まずそうに言いました。
「A子、夫のことを“学生時代の知り合いから奪った”みたいな言い方をしていたらしいよ」
その言葉を聞いた瞬間、彼女にされた嫌な記憶がぶわっと蘇ってきました。
念のため…夫に確認してみると
その夜、私は夫に確認。夫は大学の同級生ではなく、A子とは面識がない、はずでした。
しかし、「A子っていう女性に心当たりある?」という問いに、夫は少し考えてから「ああ、一度だけ会ったことがあるかも」と言いました。
驚いて思わず「どんなつながり?」と聞くと、夫は少し前に、知人を交えた食事の場でA子と会ったことを話してくれました。その場で名刺代わりのような感覚でSNSのアカウントを聞かれ、特に深く考えずに教えたそうです。そのSNSは本名で登録している人が多く、夫も学生時代の友人から仕事関係者まで、幅広くつながっているものでした。夫は投稿こそあまりしていなかったものの、結婚した際は報告と共に写真付きで投稿していて、その投稿からは私の名前もわかりました。
おそらくA子は、夫のSNSを見て、彼が私の夫だと知ったのでしょう。
私は、夫に、A子の結婚のこと、式の招待状のことを伝えました。「同姓同名だと思うけれど、なんだか気味が悪くて……」――私の言葉に、夫は絶句していました。
「一度会っただけの相手だし、結婚の話なんてもちろんしていない」
夫の言葉を聞いて少し安心しました。けれど、A子が周囲に招待状を送っている以上、放置するわけにはいかないと思い……。私は夫と相談し、2人でA子に確認することにしました。
「結婚相手は、同姓同名の方ですか?」
そして夫から、SNS経由でA子に連絡してもらいました。
「結婚をすると聞きました。おめでとうございます。結婚式の招待状を出しているようですが、新郎の方は僕と同姓同名の方なのでしょうか?」
決めつけにならないよう、2人で慎重に文章を考えました。するとA子からはすぐに返信が。
「あなたのことですよ? あなたみたいな人なら、あの子より私のほうが合うと思いますし、私と結婚してくれますよね?」
A子の狂気じみたメッセージに、夫婦で固まってしまいました。
同姓同名の別人でも、ただの偶然でもない。A子は私の夫だと知ったうえで、わざと結婚相手として周囲に話していたのだと、はっきりわかりました。
2人で言葉を失いましたが、夫は「僕は既婚者です。妻と離婚するつもりも、あなたと結婚するつもりもありません。これ以上は関わらないでください」と返信してくれました。するとA子からは、「今回も奪えると思ったのに」と、信じられない言葉が返ってきたのです。それ以降、A子には返信していません。
その後、大学時代の友人たちにも改めて確認したところ、A子は実際には誰かと結婚する予定などなかったことがわかりました。私の夫と結婚するかのように周囲へ話し、わざわざ招待状まで作って同級生たちに送っていたようです。もちろん式場の予約もなく、招待状を受け取っていた友人たちも、事実を知って驚いていました。
A子は本気で夫と結婚したかったというより、大学時代と同じように、私から何かを奪いたかっただけ……だったのかもしれません。その後、夫はA子とつながるきっかけになったSNSを退会しました。私たちも念のため、住まいを変えることに。大げさかもしれませんが、これ以上A子に生活をかき乱されたくなかったのです。招待状に夫と同姓同名の名前を見つけたときも驚きましたが、まさかそこからこんな事態になるとは思ってもいませんでした。これまで生きてきた中で、一番衝撃を受けた出来事です。
イラスト:藤まる
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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