誕生日祝いの前日に告げられた別れ
誕生日前日、彼女から「少し話せる?」と呼び出されました。カフェで向かい合うと、彼女は悪びれない様子でこう告げたのです。
「明日、私行かないから」
「どういうこと?」
「私、B山さんと付き合ってるの。少し前から」
耳を疑っていると、上司のB山が店に入ってきました。B山は勝ち誇ったように「そういうことだから。明日の予定がなくなって残念だったな(笑)」と言い、彼女も「B山さんのほうが仕事ができるし話も合うと思って」と続けました。突然のことで頭が真っ白になり、僕はほとんど言い返せないまま、別れを受け入れるしかありませんでした。
ホテルの予約については、彼女から「キャンセルすれば?」と軽く流されました。ただ、キャンセル期限を過ぎていたため、予約を無駄にするのも悔しくて……。翌日、僕はひとりでホテルへ向かうことにしたのです。
失意のホテルで出会った親子
ホテルに着くと、フロントの近くで小さな女の子と母親が困っていました。手続き上の行き違いで、部屋が取れていなかったようです。
「ママとのお泊まり、楽しみにしてたのに……」
「本当にごめんね」
そのやりとりを聞いて、僕は思わず声をかけました。
「あの……僕の予約を使えないか、ホテルに確認してみましょうか」
「そんな、申し訳ないです」
「僕は構いませんので」
フロントに確認すると、僕の予約をキャンセルし、母親の名義で取り直す形なら対応できるとのこと。母親はA美さんと名乗り、何度も頭を下げました。
その後、頼まれて名刺を渡すと、A美さんは会社名を見て、少し驚いたように「そうでしたか」とつぶやきました。
後日、商談相手として現れたのは
しばらく経ったある日、僕は会社でB山から叱られていました。僕は取引先の状況を調べてから提案するため、契約まで時間がかかります。一方のB山は、勢いのある説明で契約数を伸ばすタイプです。
「まだそんな資料を作ってるのか。契約を取れなきゃ意味ないだろ」
近くにいた元カノも、「B山さんの言う通りじゃない?」と笑いました。
そのとき、来客を知らせる内線が入り、会議室へ向かうことに。そこにいたのはなんと、A美さんでした。
「先日は本当にありがとうございました。御社の提案資料を詳しく聞きたいと思いまして」
「私からご説明します」と前へ出たB山に対し、A美さんは「資料を作られた方に話を伺いたいのですが、どなたでしょうか?」と返しました。僕が名乗り出ると、彼女は「弊社のことをよく調べてくださったのですね」と、納得したようにうなずきました。
その後も、B山はA美さんからの質問に答えられません。A美さんが僕のほうを見て「こちらの方にも同席をお願いできますか」と告げると、B山は悔しそうに表情をこわばらせました。
僕を必要としてくれる場所へ
それから、僕はA美さんと何度か仕事で顔を合わせるように。A美さんは、相手の事情を丁寧に調べる僕のやり方を評価してくれました。B山に否定され続けてきた働き方をA美さんは肯定してくれ、僕にとって大きな支えになりました。
もともと今の会社での働き方が合っていないと感じていた僕は、A美さんの会社に興味を持つように。後日、公開求人に応募し、選考を経て転職が決まりました。
僕が抜けたあと、元の会社では契約の継続が減ったようです。事前確認が浅くなり、導入後に「思っていた内容と違う」と言われることが増えたと、元同僚から聞きました。
しばらくして、B山から連絡がありました。
「頼む。大事な案件なんだ。提案内容に抜けがないか、一度だけ見てくれないか。俺が悪かった」
けれど、僕の答えは決まっていました。
「すみません。今は別の会社の人間なので関われません」
その後、B山は以前ほど成果を出せなくなり、社内での立場が弱くなっていったそうです。元カノはそんなB山に不満を募らせ、ふたりはほどなく破局したのだとか。さらに元カノは二股を周囲に知られて距離を置かれるようになり、会社を去ったと聞きました。
あの日、失恋で空いたホテルの予約を困っていた親子のために譲ったことが、前へ進むきっかけになりました。これからは僕を必要としてくれる場所で、自分らしく頑張っていきたいと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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