突然届いた連絡
その日、事務所に1本の電話が入りました。電話を受けた社員は、少し慌てた様子で「えっ……少々お待ちください。担当に代わります」と言っています。心配になった私が「どうしたの?」と声を掛けると、社員は困惑した顔で言いました。
「A部品会社の担当者さんからです。今後の納品について、条件を見直したいと……」
私は急いで電話を代わりました。A部品会社は、私たちが創業当初からお世話になっている大切な取引先です。玩具に使う一部の部品を長く納めてもらっており、先代社長とは弟も私も親しくさせてもらっていました。
電話口に出た担当者は、どこか言いにくそうな声で話し始めました。
「大変申し訳ないのですが、社内方針が変わりまして……。次回以降の納品について、これまでと同じ条件ではお受けできないことになりました」
私は驚きながらも、「発注済みの分もありますし、急に言われても、生産計画や原価計算に影響が出ます。まずは詳しい内容を確認させてください」と伝えました。すると担当者は、少し間を置いてから小さな声で「実は、新社長からの指示なんです。詳しいことは、責任者の方と直接話したいと申しておりまして……」と言いました。
その言い方から、担当者自身も困っていることが伝わってきました。先代が退かれ、息子さんである新社長に代替わりしたことは聞いていましたが、まさか突然このような連絡が来るとは思っていませんでした。
私は「こちらでも確認します。改めて代表と相談してご連絡します」と伝え、電話を切りました。すぐに、会社の代表である弟へ相談することにしたのです。
代替わり前からの気がかり
事情を説明すると、弟は驚いた顔をしたものの、すぐに落ち着いた声で言いました。
「やっぱり、そう来たか……」
私は思わず「どういうこと?」と聞き返しました。すると弟は、以前、先代社長から気になる話を聞いていたことを打ち明けました。
先代社長は引退前、弟に「代替わり後は、取引条件の見直しをお願いする場面があるかもしれません。もし急な値上げや納期変更の話が出たら、遠慮なく確認してください」と話していたそうです。
先代社長にも事情があったのでしょう。詳しいことまでは私たちにはわかりませんが、代替わり後に取引条件が変わる可能性を心配していたようです。それでも不安があったからこそ、代替わり後に取引条件が変わる可能性を、弟にそれとなく伝えてくれていたのだと思います。
実は、息子である新社長については、業界内でも、あまりよくない話を耳にしたことがありました。私や弟はまだ実際に顔を合わせたことはありませんでしたが、新社長は正式に社長になる前から、取引先に対して強い口調で話したり、現場の事情を十分に確認しないまま条件変更を口にしたりすることがあると、聞いたことがありました。
弟もその話を気にしており、万が一に備えて、別の仕入れ先の候補や一部部品を自社で作る体制について、少しずつ検討を進めていました。
弟は「すぐに全部を切り替えられるわけじゃない。でも、何も手を打っていなかったわけでもない」と言いました。その言葉を聞いて、私は少しだけ気持ちが落ち着きました。
条件を確認するため、翌日、私と弟はA部品会社へ向かうことにしました。
受け入れられなかった条件
A部品会社に着くと、事務所の空気は以前とまったく違っていました。先代社長がいたころの穏やかな雰囲気はなく、社員たちはどこか緊張した様子です。応接室に通されると、新社長は不機嫌そうな顔で現れました。
「結論から言うと、今までの価格ではやっていけません。取引を継続したいなら、次回から大幅に値上げします」
提示された金額は、これまでの条件から考えると、とても受け入れられるものではありませんでした。
弟が「なぜこの金額になるのか、根拠を確認させてください」と言っても、新社長は「ほかにもっと高く買ってくれる会社もあります。そちらが困るなら、この条件をのむしかないでしょう」と言うばかりです。
私は、その言葉を聞いてはっきりとわかりました。新社長は値上げの具体的な根拠を示さないまま、私たちがその部品を必要としていることを理由に、条件を受け入れるよう迫っているように感じました。
けれど、私たちはすでに別の選択肢を用意し始めていました。私は弟と目を合わせ、静かに言いました。
「今回ご提示いただいた条件を受け入れることはできません。発注済みの分については、契約内容に沿って書面で確認させてください。今後の新規発注については、弊社でも代替先への切り替えを進めます」
新社長は「え?」と固まりました。こちらが慌てて条件をのむと思っていたのでしょう。
「困るのはそちらでしょう? 部品がなければ商品を作れないんじゃないですか」
そう言われましたが、弟は落ち着いて答えました。
「価格だけで取引先を選んでいるわけではありません。品質、納期、そして信頼関係も含めて判断しています。これ以上、安心して発注を続けることはできません」
新社長は不満そうでしたが、私たちの考えは変わりませんでした。
信頼が未来を築く
その後、私たちは発注済みの分について書面で確認を進めながら、代替の仕入れ先や自社製造の準備を急ぎました。もちろん、新しい体制がすぐに軌道に乗ったわけではありません。試作を重ね、取引先にも事情を説明しながら、少しずつ生産体制を整えていきました。
一方で、A部品会社はその後も複数の取引先に急な条件変更を持ちかけていたようです。次第に信頼を失い、取引の見直しが相次いだと、業界内の知り合いから聞きました。現場の社員からも不満の声が上がり、社内で体制の見直しがおこなわれた結果、新社長は経営の第一線から退くことになったそうです。
しばらくして、先代社長から弟へ連絡がありました。弟によると、先代社長は「迷惑をかけてしまって申し訳なかった」と謝罪した上で、現在は先代のころから現場を支えてきた社員が責任ある立場に就き、会社の立て直しを進めていると話してくれたそうです。続けて先代社長は、こう言ったのだそうです。
「すぐに以前と同じような関係に戻れるとは思っていません。それでも、もう一度信頼を積み重ねられる会社にしていきたいと思っています。もし今後、取引でお役に立てる機会があれば、そのときは改めてご相談させてください」
そう話す先代社長の声には、申し訳なさと同時に、会社を立て直そうとする強い思いがにじんでいたと聞きました。
会社を続けていく上で、利益を考えることはもちろん大切です。けれど、目先の数字だけを追って、取引先や社員との信頼を軽く扱ってしまえば、いつか大きなひずみが生まれるのだと思います。
私たちの会社も、まだまだ小さな会社です。だからこそ、これからも目の前の取引や人との縁を大切にしながら、社員たちと一緒に誠実なものづくりを続けていきたいと感じました。
--------------
突然の条件変更に直面した主人公たち。大切な部品を扱う取引先だからこそ悩む場面でしたが、強引な要求を受け入れるのではなく、信頼できる相手と仕事を続ける道を選びました。目先の利益だけでなく、日々のやりとりや誠実さが会社の未来を支えているのだと感じさせられるエピソードでした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ウーマンカレンダー編集室ではアンチエイジングやダイエットなどオトナ女子の心と体の不調を解決する記事を配信中。ぜひチェックしてハッピーな毎日になりますように!