今回は、妊娠と栄養ドリンクについてお話しします。
市販されている栄養ドリンクの分類
栄養ドリンクは含まれる成分によって一般用医薬品と医薬部外品に分類されています。
また、清涼飲料水に分類される栄養ドリンクに、エナジードリンクがあります。
一般用医薬品に分類された栄養ドリンクは、効果効能や副作用などのデータに基づいて国が承認したものです。薬局やドラッグストアで、薬剤師や登録販売者から情報提供を受けた上で購入できます。栄養ドリンクにも用法・用量が定められているので、効果を期待して一度に何本も飲むことは、有効成分による副作用が起こる危険性があります。
また、医薬部外品に分類された栄養ドリンクは、コンビニエンスストアやスーパーなどで自由に手に取って購入できますが、こちらも効果を期待してたくさん飲むことで思わぬ副作用が起こる危険性があるので注意が必要です。
清涼飲料水に分類されるエナジードリンクは、医薬品のように効果効能を表示することはできません。アルコール1%未満であれば酒類には該当しないため、微量のアルコールを含んでいる製品もあります。炭酸や甘さなどを加えて飲みやすくしてありますが、コーヒーと同じような量のカフェインが含まれていて、飲みすぎによって健康被害が起きることもあるのです。
妊娠中に栄養ドリンクを選ぶときの注意点
製品の効果・効能に「妊娠・授乳期の栄養補給」「産前産後の栄養補給」と表示されていれば飲んでもかまいませんが、あくまでも栄養補給するための製品ですので摂取量や頻度に気を付けましょう。
栄養ドリンクは主に糖類・ビタミン類・カフェインですが、アルコールが微量に含まれている製品があるので確認するようにしましょう。また、糖類の多く含まれる栄養ドリンクを常用した場合、妊娠中の糖尿病の発症に注意する必要があります。
ビタミン類は食品から摂取する分には安全な量でも、妊娠中や授乳中の女性が濃縮した状態で飲用することが安全かどうか判断できるデータはありません。カフェインとアルコールは、特に妊娠中に摂取することを制限したほうがよい成分です。これらは嗜好品なので、依存症になる危険性があります。
栄養ドリンクは、主に糖類・ビタミン類・カフェイン・アルコールの成分による相乗効果で疲労感を打ち消しますが、飲んだことで本当に効いたのか、たまたま効果があったのか、効いたように思い込んでいるのかについては、飲んだ本人にしか判断することができません。効果があると信じて飲めば効くかもしれませんが、そもそも体内に不足していない栄養成分であれば不要なものとして尿中へ排泄されてしまいます。
よって、「妊娠・授乳期の栄養補給」「産前産後の栄養補給」と表示された栄養ドリンクを妊娠中に飲んでもかまいませんが、製品に表示されているとおりの効果が本当に得られるかどうか医学的に判断することはできません。
妊娠中のカフェインの摂取量の目安
カフェインには、程よい量を摂取すると交感神経を刺激して、眠気覚ましなどの覚醒作用、尿の排泄を促す利尿作用があります。ただし、妊娠中はカフェインの分解や排泄をする機能が低下すること、カフェインは胎盤を通過して胎児へ移行すること、カフェインが胎盤を流れる血流を低下させることから、胎児の発育を妨げたり、流産や早産、低出生体重児の原因となる可能性があるため、カフェインは妊娠中に大量に摂取することを控えたほうが良い成分です。
妊娠中のカフェインの摂取量の目安は、1日あたり合計200mg未満です。カフェインはコーヒーやお茶などにも含まれるので、下記を参考に1日の合計を200mg未満に抑えれば、「妊娠・授乳期の栄養補給」「産前産後の栄養補給」と表示のある栄養ドリンクは飲んでもかまいません。
【カフェイン含有量の目安(100mlあたり)】
玉露 160mg
コーヒー 60mg
紅茶 30mg
煎茶 20mg
ほうじ茶 20mg
ウーロン茶 20mg
麦茶 0mg
妊娠中のアルコール摂取について
妊娠中に母親がアルコールを飲むと、おなかの中の赤ちゃんの体の発育、脳の発達へ深刻な影響を与え、胎児性アルコール症候群の赤ちゃんが生まれる可能性が高まります。
アルコールの耐性については個人差が大きいため、妊娠中の飲酒量や赤ちゃんへ影響しない許容量は定められていません。アルコールを微量でも含む栄養ドリンクは飲まないようにしましょう。
栄養ドリンクは妊娠中の栄養補給や休息の代わりにはなりません
妊娠中に風邪などで体調がすぐれないときや疲労回復したいときは、十分な睡眠をとり、食べやすい栄養のある食事をとりましょう。栄養ドリンクを飲んだとしても、体力が回復するわけでも疲労がなくなるわけではありません。
つわりや胃腸の調子が悪くて食べることができず、栄養ドリンクしか飲めない状況であれば、それは病院での治療が必要な状態ですので、直ちに産婦人科を受診しましょう。また、風邪などで体調を崩して薬を飲むことを避ける代わりに栄養ドリンクを飲むことはやめましょう。妊娠中でも使用できる薬はありますので、次の健診を待たずに産婦人科を受診してください。
家事や子育て、仕事などに追われて「栄養ドリンクを飲まないとやってられない!」という状況であれば、そのライフスタイルを見直すことを優先しましょう。疲労がたまって体と心が壊れてしまったら、妊娠経過や胎児の成長にも影響を及ぼしてしまいます。
妊娠中は必要な栄養の過不足なく摂れる食事、十分な睡眠、適度な運動、ストレスをためないようにリフレッシュすることが大切です。これらのバランスをとるために、栄養ドリンクに頼っても、栄養補給や休息の代わりにはなりません。栄養ドリンクを飲むか飲まないか悩む状況ならば、次の健診を待たずに産婦人科を受診して相談しましょう。
まとめ
「妊娠・授乳期の栄養補給」「産前産後の栄養補給」と表示された栄養ドリンクを妊娠中に飲んでもかまいませんが、製品に表示されているとおりの効果が本当に得られるかどうかはわかりません。栄養ドリンクを飲んでも、妊娠中の栄養補給や休息の代わりにはなりません。栄養ドリンクに頼らざるを得ない状況であれば、早めに産婦人科を受診して相談しましょう。
<参考>
・医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
・厚生労働省「統合医療」に係る情報発信等推進事業「統合医療」情報発信サイト
・国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所「 健康食品 」の安全性・有効性情報