気になるお店に通うように
僕は食べ歩きが好きで、気に入ったお店はSNSで紹介しています。隠れ家的なお店を中心に、毎日のように投稿するうち、僕の投稿を見て足を運んでくれる人も出てきました。
そんなある日、会社の近くで雰囲気の良い飲食店を見つけました。入ってみると料理はおいしく、店長のA子さんも明るくて感じの良い人でした。
何度か通ううちに、僕とA子さんは少しずつ話すように。食べ歩きが好きという共通点もあり、お店の話で盛り上がることも増えていきました。
そんなとき、B山係長から「今度の飲み会の幹事はお前な! 店を予約しとけよ」と任されたのです。みんなに喜んでもらえる店にしたいと思い、僕はA子さんに連絡して、30人分のコースを予約しました。
A子さんは「うちの店を使ってくれるなんてうれしいです! 当日お待ちしていますね」と張り切ってくれました。
30人分の予約がキャンセルに!?
飲み会当日、僕は外出先から直接お店へ向かいました。ところが予約時間を過ぎても、同僚たちは誰も現れません。
10分ほど過ぎ、不安になっていると、A子さんが困った顔で「実は今、キャンセルの電話があって……」と言いました。慌てて同期に電話すると、「B山係長から店が変更になったってメールがきたよ。もうみんな別の店にいる」と言うのです!
僕にだけ、そのメールは届いていませんでした。すぐにB山係長へ電話をかけると、電話口の向こうから笑い声が聞こえます。
「お前が予約した店とか無理だろ。地味な個人店なんてセンスなさすぎ」
「だからキャンセルしといたわ。もう別の店で盛り上がってるから」
B山係長は僕への嫌がらせで、A子さんのお店をキャンセルしたのです。自分以外の人に迷惑がかかるのが許せず、僕の中で強い怒りが湧き起こりました。
電話を聞いていたのは…
その場には、A子さんの父親もいました。彼女の父親は、僕の会社にとって長年付き合いのある、大口取引先の社長です。役員が直接対応するほど重要な相手で、社内でも名前を知らない人はいません。僕は以前、その会社の事業支援を担当したことがあり、社長から信頼してもらっていました。
B山係長との通話は、近くにいた2人にも聞こえていました。A子さんの顔が、みるみる曇っていきます。社長は静かに怒りをにじませながら「娘の店にどれだけ迷惑をかけたかわかっているのか」と言いました。
けれど電話口のB山係長は、相手が本物の社長だとは思わなかったようで、「取引先の社長? そんな冗談、もういいから。キャンセル料はそっちでよろしく!」と言い、電話を切ったのです。
その後、僕はA子さんに許可を取ったうえで、SNSに事情を投稿しました。会社名やB山係長には触れず、急なキャンセルで料理が余っていること、当日限定で一部を単品提供していることを伝えたのです。
すると、近くにいたフォロワーたちが来店してくれ、用意していた料理のほとんどを無事に提供できました。
大切な店を守るために
後日、僕とB山係長は社内の会議室で、事実確認を受けることになりました。そこには、取引先の社長とA子さんの姿が。B山係長はそこで初めて、あの日の電話の相手が本当に取引先の社長だったと知り、顔色を変えました。
そして慌てて「そんなつもりじゃなかったんです」と言い訳しましたが、会場変更のメールが僕にだけ送られていなかったことや、通話の内容から、嫌がらせだったことは明らかでした。
その後、B山係長は厳しく注意を受け、役職が見直されることになったそうです。僕への態度も指摘され、今では接し方もすっかり変わりました。
一方で、A子さんのお店はあの日の投稿をきっかけに知られるようになり、常連のお客さんが増えたそうです。「お店を守ってくれてありがとう」と言われたとき、僕は心からほっとしました。
嫌な出来事でしたが、大切なお店を守るために動けたことは、今でもよかったと思っています。これからも、規模に関係なく、一軒一軒のお店に誠実に向き合っていきたいです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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