高卒の僕は「出来損ない」だった
僕には3歳年下の弟がいます。子どものころから成績優秀だった弟は、両親から溺愛されていました。子どものころから弟ばかりが褒められ、僕は何かあるたびに「弟はできるのに、お前はな」と比べられてきたのです。
高校卒業後、僕は大学へは進学せず、昔から好きだった洋服に関わる仕事へ進みました。しかし父はその選択が気に入らず、「高卒の販売員なんて将来が知れている」「大学くらい出るのが当たり前だ」と何かにつけて言われ続けました。
一方、有名大学へ進学した弟は、「やっぱりお前はすごい!」と家族中から褒められ、次第に僕を見下すようになっていったのです。
居場所をなくした僕は実家を離れ、その後は海外勤務となったこともあり、家族とはほとんど連絡をとらなくなりました。
弟が結婚することになったと聞き…
海外赴任をして数年が過ぎたころのことです。日本でしか手続きできない書類について確認したいことがあり、久しぶりに弟へ電話をしました。
用件が終わったあと、弟が思い出したように、「そういえば来月結婚するんだ」と言ったのです。
驚いて「そうだったのか、おめでとう」と伝えると、「結婚式、来られるなら来てよ」と軽い調子で言われました。
昔から父にも弟にも見下され、家族仲は決して良くありません。それでも、弟の結婚式くらいは出席したい――そう思い、日本へ帰ることにしました。
結婚式当日、僕の席はない
そして迎えた結婚式当日。受付で名前を伝えても、名簿に僕の名前はありませんでした。
スタッフが困っているところへ弟がやって来ると、「本当に来たんだ」と笑いました。そして、「席も料理も用意してないよ。高卒の兄貴がわざわざ来るとは思ってなかったから」と平然と言ったのです。
その言葉を聞いた父は、「そうだよな」と笑うだけで、僕をかばう様子はありませんでした。
歓迎されていないことを悟った僕は、静かに帰ろうとしました。
「失礼ですが、あなたは?」
そのとき、花嫁のA子さんがこちらへ歩いてきました。
受付の様子がおかしいことに気づいたのでしょう。僕に近づいてきたA子さんは、不思議そうな表情で、「失礼ですが……あなたは?」と声をかけてきました。
僕は「新郎の兄です」とだけ答えました。その瞬間、A子さんは目を見開きました。
「……お義兄さん?」
A子さんは震える声で弟に尋ねました。
「お義兄さんがいるなんて、これまで一度も聞いたことがないよ……?」
弟は「仲が良くないから話さなかっただけ」と笑って済まそうとしました。そして父まで、「昔から出来の悪い兄だからな」と軽く笑ったのです。
その言葉を聞いたA子さんは、青ざめた表情で僕と父、弟を見比べました。
後から聞いた話ですが、A子さんは昔から「家族を大切にできる人と家庭を築きたい」と考えていたそうです。だからこそ、自分の兄をまるで存在しない人のように扱い、結婚相手にも一度も紹介せず、結婚式当日になっても席すら用意していなかった弟の姿に、大きなショックを受けたのだとか。
事情を知ったA子さんのお父さんが、「こちらへどうぞ」と新婦側の親族席を一席空けてくださり、式場も急きょ料理を用意してくれました。
その後、弟夫婦は…
結婚式は少し重たい空気になったものの、最後まで無事に終わりました。しかし、兄である僕をまるで存在しない人のように扱う弟の姿は、A子さんの心に深く残ったそうです。
「家族を大切にすると言っていたのに、自分のお兄さんをあんなふうに扱える人だったなんて……」
この出来事をきっかけに価値観の違いを感じるようになり、話し合いを重ねたものの、しばらくして二人は別居することになったそうです。
その後も僕は父や弟と距離を置いたままですが、後悔はしていません。昔は「いつかわかり合える日が来るかもしれない」と期待していましたが、それぞれの人生を歩むことも、一つの選択なのだと思うようになりました。
家族であっても、お互いを尊重できない関係なら、無理に付き合い続ける必要はないのだと実感した出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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