結婚相手の態度に不安を覚えて
娘が結婚相手として連れてきた男性は、夜の接客業をしているとのことでした。
しかし、初めてわが家を訪れたその日、男性からは酒のにおいがし、受け答えもどこかおぼつかない様子でした。さらに、あいさつもそこそこに、私に断ることなくたばこを吸おうとしたのです。
私は仕事そのものを否定するつもりはありませんでした。ただ、結婚のあいさつという大切な場での態度としては、どうしても受け入れられませんでした。
「今日はきちんと話ができる状態ではないと思うの。また改めて来てもらえないかしら」
そう伝えると、娘は激怒して「最初に言ったよね? 仕事でお酒を飲むこともあるって。それなのに追い返すなんてひどい。彼の職業で差別してるの?」と言いました。
私は否定しました。私が心配していたのは、彼の職業ではありません。事前に娘から、生活費の多くを娘自身が負担していることや、結婚式の費用も自分の貯金から多く出す予定だと聞いていたこともあり、2人の関係そのものに不安を感じていたのです。
それでも娘は、「他人のくせに何様なの? 本当の母親なら、娘の結婚を喜ぶでしょう」と言い残し、家を出ていきました。
その言葉は胸に刺さりました。私は娘を産んだ母親ではありません。それでも、亡くなった夫と一緒に育て、その後も20年近く、母親として娘の成長を見守ってきました。だからこそ、何も言わずに結婚を祝うことが、本当に親として正しいのかと悩んだのです。
「あなたは来なくていい」と告げられて
その後、男性とは改めて話をする機会がありました。私の不安が完全に消えたわけではありませんでしたが、娘が結婚を強く望んでいたこともあり、最終的には2人の意思を尊重することにしました。
夫も生前、「この子が結婚するときには、できる範囲で力になってやってほしい」と話していました。その言葉もあり、私は無理のない範囲で結婚費用を援助しようと、娘にお金を渡しました。
ところが、結婚式を目前に控えたある日、娘から突然メッセージが届きました。
「実のお母さんが結婚式に来てくれることになったの」
「お母さんが2人いる形にはしたくないの。だから、あなたは欠席してほしい」
と書かれていたのです。どうやら娘は、結婚を機にSNSを通じて実母を探し出し、連絡を取るようになっていたようでした。
「実のお母さんは私の結婚をすごく喜んでくれた。あなたみたいに反対しなかった」と言われ、私は何も返すことができませんでした。
寂しさも、悔しさもありました。それでも、本人が私の出席を望んでいない以上、無理に行くことはできません。
「わかった。あなたがそう決めたのなら、欠席します」
私はそう返信しました。20年近く母親として接してきましたが、娘にとって私は「本当の母親」ではなかったのかもしれない。そう思うと、とても虚しくなりました。
結婚式直前、泣きながら届いた連絡
ところが数日後、娘から泣きながら電話がかかってきました。婚約者から突然、結婚を取りやめたいと告げられ、その後、連絡が取れなくなったというのです。さらに、2人がそれぞれ出し合い、彼がまとめて管理していた結婚式のための資金も、ほとんど残っていないことがわかったとのことでした。
結婚式を予定通りおこなうことはできず、式場のキャンセル料としてまとまったお金が必要になりました。娘だけではすぐに用意できる金額ではなかったため、私に金銭的な援助を求めてきたのです。
私は驚きながらも、「実のお母さんには相談したの?」と尋ねました。すると、娘は黙り込みました。実母にも助けを求めたものの、「自分にはどうすることもできない」と言われ、その後は連絡が取りにくくなったというのです。
私は亡くなった夫から、娘と実母は長い間ほとんど交流がなかったと聞いていました。長い間離れていた分、すぐに支え合える親子関係を築くのは難しかったのかもしれません。
しばらくして、娘は泣きながら言いました。
「お母さん、助けて」
その言葉を聞いて、胸が痛みました。私は娘にこう伝えました。
「もちろん、あなたは私の娘なんだから、できることは支えるよ。ひとりで抱え込まなくていい。これからどうしていくかは、一緒に考えていこう」
私は、娘が私に「他人」と言ったことを責めるつもりはありませんでした。信じていた相手に裏切られ、突然ひとりで現実と向き合わなければならなくなった娘を、母親として支えたいと思ったのです。
一方で、私がすべてを引き受けるのではなく、娘自身も少しずつこれからの生活について考えていく必要があるとも感じていました。
自分の人生も大切にすると決めて
その後、私は娘の話を聞きながら、できる範囲で支えることにしました。ただ、私がすべてを決めたり、先回りして問題を解決したりするのではなく、娘自身の気持ちや選択を尊重するよう心がけました。
娘も少しずつ前を向き始め、自分の力で生活を立て直そうと動き始めました。すぐに元の生活に戻れたわけではありませんが、少しずつこれからのことを考えられるようになっていったようです。
私は今回の出来事をきっかけに、親として娘を支えることと、自分を犠牲にし続けることは違うのだと思うようになりました。
これまで私は、夫から託された娘を守ることを何より優先してきました。これからは少しずつ、自分自身の時間や暮らしも大切にしていきたいと思っています。
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20年近く娘を育ててきたからこそ、突き放すような言葉を受けても、心配する気持ちは簡単には消えなかったのでしょう。しかし、相手を大切に思うことと、すべてを引き受け続けることは同じではありません。娘との距離を見直したことは、主人公自身の人生を大切にするための一歩だったのかもしれません。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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