「私がまだ実家で暮らしているから、両親は同居を断ったのかもしれない……」
そんな考えが頭をよぎりました。ところが母は、「兄一家を見れば、同居を断った理由がわかるよ」と意味深なことを言ったのです。
その言葉の意味を理解したのは、兄一家が引っ越してきて久しぶりに顔を合わせた日のことでした……。
叱らない育児で育った姪
兄はどこか疲れたような表情をしていて、義姉は終始ぶっきらぼう。姪に「久しぶりだね」と声をかけても返事すらありませんでした。それどころか、姪は母に向かって「ジュース持ってきて!」と命令口調。あまりの態度に驚いてしまいました。
母が「ジュースはないから、お茶でもいい?」と聞くと、大泣きして暴れ始めた姪。それを見た義姉は、「孫が来るとわかっているのに、ジュースも用意していないんですか?」と母を責めたのです。兄はその様子を止めることもなく、ただ黙って見ているだけ。
母が姪をたしなめると、今度は義姉が「お義母さん、やめてください」「そんな言い方をしたら娘がかわいそうじゃないですか」と怒り出し、そのまま兄一家は帰ってしまいました。
後から母に事情を聞くと、義姉は「叱らない育児」を実践しているとのこと。幼いうちは何とか過ごせても、成長するにつれて姪のわがままはどんどん激しくなり、両親が注意すると義姉は毎回反発していたそうです。
両親が同居を断った理由が、ようやくわかりました。
兄一家と疎遠になった理由
しばらくして、仕事から帰宅すると実家の中が騒がしくなっていました。リビングへ行くと、姪が母の作った料理をぐちゃぐちゃにして遊んでいたのです。
母が「食べ物を粗末にしてはいけないよ」と注意すると、義姉は「そんなの、この子が好きなものを作ればいいだけの話でしょう」「嫌いなものを作るからこうなるのよ」と反論。
さらに姪が投げた箸が、危うく母に当たりそうになったのです。さすがに見過ごせず、私も注意すると、「うるさい! 行き遅れ!」と暴言を吐かれました。
幼い子どもが自然に覚える言葉ではありません。普段から義姉が口にしているのだろうと感じました。
その後も姪は皿やコップを投げて割り始めたため、私はきつく叱りました。すると今度は義姉が、「うちの天使を叱らないで!」と私に怒鳴ったのです。私は「本当にそれでいいのね?」と伝え、それ以降、姪を注意することをやめました。
その出来事をきっかけに、私と両親は話し合いをし、兄一家と距離を置くことを決めたのです。
義姉や姪はその後何度か訪ねてきましたが、一切家には上げないようにしました。だんだんと来る頻度も減ったので、ホッと一安心。
一方で兄だけは時折実家を訪れ、「娘を預かってもらえないかな……」「やっぱり叱らない育児は間違っていたのかもしれない……」と疲れ切った顔で弱音を漏らしていました。
助けを求めてきたのは変わり果てた兄
約1年半後――。
実家でくつろいでいると、インターホンが何度も鳴り、玄関のドアを激しくたたく音が響きました。母は苦笑しながら、「また何かあったみたいだね」と言いました。
玄関を開けると、そこにはやつれた兄と、その腕の中で暴れる姪が……。
兄の話では、姪は小学校でも友だちとのトラブルが絶えず、家庭でも近所でも問題行動を繰り返していたそうです。兄は何度も義姉に育て方を見直そうと話し合いを求めましたが聞き入れてもらえず、大げんかの末に義姉は家を出てしまったとのこと。
母に向かって深々と頭を下げ、「どうか助けてほしい」と頼み込んだ兄。
母は、「このままでは、この子が将来もっと苦しむことになる」「厳しくしつけ直す覚悟があるなら協力する」と伝え、兄も覚悟を決めました。
こうして兄と姪は実家で暮らすことになったのです。
子育てに必要だったもの
同居生活は想像以上に大変でした。それでも家族みんなで根気よく向き合い、良いことは褒め、悪いことは理由を伝えてきちんと叱ることを続けました。
すると少しずつ姪は変わり始め、学校や近所からの呼び出しもなくなり、穏やかに毎日を過ごせるようになっていったのです。
それから半年ほど経ったある日のこと。突然、義姉が現れました。
「天使ちゃん、ママが迎えに来たわよ」
そのとき、すでに離婚の決意を固めていた兄。実は、兄が依頼した探偵の調査によって、義姉は以前から不倫を続けていたことが判明していました。そして、今までその男性の家で暮らしていたこともわかっています。どうやら手持ちのお金が尽きて、兄の稼ぎを当てにして戻って来た様子。
兄が追い返そうとした矢先、口を開いたのは姪でした。
「私はママのところには行かない」
「おばあちゃんもパパも怒ると怖い。でも、それは私のことを大切に思ってくれているからだってわかったの」
「悪いことをしたら『ごめんなさい』って言うんだよ。だからママも、まずはみんなに謝って」
その言葉を聞いた私は、思わず胸が熱くなりました。あれほどわがままだった姪が、自分で善悪を考えられる子へと成長していたのです。
結局、義姉は一言も謝罪の言葉を口にすることはありませんでした。
その後、兄夫婦の離婚は成立。姪は兄とうちの両親に見守られながら生活しています。
自分の思い込みや都合を優先して子どもを振り回すことは、決して愛情とは言えません。子どもの気持ちに寄り添い、安心して暮らせる環境を何よりも大切にしながら、責任を持って向き合い続けること。それこそが親に求められる姿勢なのだと、この出来事を通して改めて強く実感しました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。