社長と距離が近すぎる女性社員
夫は会社の経営や営業を担当し、私は案件の進行管理や取引先との調整など、現場を支える役割を担っていました。
会社の業績は順調に伸び、社員も増えてきたころのこと。A子という若い女性社員が入社しました。A子は人当たりもよく、仕事もテキパキこなしていたため、入社後すぐに職場になじんでいました。
ところが数カ月もすると、仕事の相談を理由に夫と二人でいる時間が増え、会議や飲み会でも決まって隣の席に座るようになったのです。
さらにそのころから、夫は帰宅が遅くなる日が増え、休日も仕事を理由に外出することが多くなりました。以前は会社のことを何でも話し合っていたのに、会話は少しずつ減り、私との距離も広がっていきました。
そんなある日、買い物へ出かけた私は、腕を組んで歩く夫とA子を偶然見かけてしまったのです。
「私が社長夫人になります」
翌日、私は二人に事実を確認しました。夫は最初、言い訳をしていましたが、私が写真を見せると一気に黙り込みます。一方、A子は悪びれる様子もなく笑いながらこう言ったのです。
「私が社長夫人になりますから、おばさんは会社を出ていってください」
あまりにも身勝手な言葉に、私は思わず言葉を失いました。すぐに夫のほうを見ましたが、夫はA子をたしなめるどころか、何も言いません。
そんな夫の態度を見て、私の気持ちは固まりました。夫婦としてだけでなく、仕事のパートナーとして積み重ねてきた信頼も、もう戻ることはない――そう感じた私は、静かに口を開きました。
「離婚しよう」
夫はしばらく黙っていましたが、やがて諦めたように小さくうなずきました。
「……わかった。その代わり、仕事だけは最後まで片付けて辞めてくれ」
最後まで会社のために
退職までの約二週間、担当案件を一つひとつ整理し、引き継ぎ資料を作成。契約書類や業務データは誰でも引き継げるようにまとめ、不要になった書類は情報管理のルールに従ってシュレッダーで処分しました。
シュレッダーに書類を入れるたび、創業したころの思い出が次々によみがえってきました。何もないところから夫と二人で会社を立ち上げ、必死に働き、少しずつ仲間が増えていった日々。この会社には、私の人生そのものが詰まっていたのです。
気づくと涙があふれていました。それでも最後まで責任だけは果たそうと気持ちを切り替え、私は引き継ぎを終えて会社をあとにしたのです。
その後、元夫の会社は…
離婚後、私は新たな会社を立ち上げました。
それから約1年後。元夫の会社を退職した社員の一人が、「もう一度一緒に働かせてほしい」と私の会社を訪ねてきたのです。そのとき、元夫の会社の現状を知りました。
私が辞めたあと、A子は「社長夫人」のように振る舞い、社員にも高圧的な態度をとるようになったそうです。その結果、会社を支えてきた社員が次々と退職。担当者が何度も変わったことで、取引先からの信頼も失っていったといいます。
それから間もなく、元夫から焦った様子で電話がかかってきました。
「社員も取引先も、お前が全部持っていったんだろ!それに、お前が資料を処分したせいで、会社はめちゃくちゃだったんだ!」
長年取引のあった大口の取引先との契約が終了し、会社の存続も危ぶまれる状況になっているようでした。その責任の矛先を私に向けたかったのでしょう。
私は一度だけ深く息をついてから答えました。
「私から社員や取引先に声をかけたことは、一度もありません。それに、必要な書類も業務データも、すべて整理して引き継ぎました」
そして、最後に静かに伝えました。
「人が離れた理由を、一度考えてみたら?」
電話の向こうは、しばらく沈黙したままでした。
夫との結婚生活だけでなく、心血を注いできた会社まで手放すことになったのは、本当につらい決断でした。しかし、最後まで誠実に責任を果たしたからこそ、今の仕事や人とのご縁につながっているのだと思います。
肩書きや立場ではなく、日々積み重ねた誠実さこそが、最後には自分を支えてくれる——そう強く感じています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
ムーンカレンダー編集室では、女性の体を知って、毎月をもっとラクに快適に、女性の一生をサポートする記事を配信しています。すべての女性の毎日がもっとラクに楽しくなりますように!