必死に弁当を売る親子
天気の良い昼下がり、娘を肩車しながら歩いていると、何やら遠くから悲痛な声が聞こえてきました。
「おねがいします……!」
「ドタキャンされて100個余ってて……」
声のする方に目を向けると、そこには年季の入った小さなお弁当屋さんがありました。店頭には、信じられないほどの量のお弁当が積み上げられています。
必死にお弁当を掲げて声を張り上げていたのは、店を切り盛りしているらしき女性と、その娘さんでした。エプロン姿の2人は涙ぐんでおり、突然の大量キャンセルに困り果てているのは一目瞭然。通りがかる人々は、気の毒そうに見るものの、量があまりにも多いためか誰も足を止めようとはしません。
その様子をじっと見つめていた僕の肩の上で、娘が突然、僕の頭に手を置いて満面の笑みでこう言ったのです。
「パパ、全部買えるよね?」
無邪気な娘の提案に、僕は一瞬「え……?」と言葉を失ってしまいました。
僕が下した決断
100個のお弁当を全部買うとなれば、かなりの金額になります。それに、買っても僕たち家族だけでは到底食べきれる量ではありません。
普通なら「そんなの無理だよ」と諭す場面かもしれません。しかし、必死に涙をこらえる親子の姿と、困っている人を助けたいという娘の純粋な優しさを前にして、僕の心は動かされました。
「よし、パパに任せろ!」
僕は意を決して、お弁当屋さんの前に進み出ました。僕が「ここにあるお弁当、全部いただきます!」と伝えると、親子の顔が驚きでフリーズしました。
「えっ!? 本当ですか……!?」
涙を流して感謝する親子を前に、僕はすぐに会計を済ませました。とはいえ、ここからが問題です。この大量のお弁当をどうするか。そこで僕は、ある場所へ連絡を入れることにしたのです。

100個のお弁当の行方
僕が連絡をしたのは、地元の少年野球チームの監督をしている友人でした。
ちょうどその日は、地域の大きな大会が近くの球場で開催されており、多くのチームが集まっていることを知っていたのです。
事情を話すと、友人は「マジで!? ちょうどみんなで昼飯どうするか話してたんだよ! 買い取らせてくれ!」と大喜び。すぐに車で駆けつけてくれて、お弁当はすべて野球少年たちやその保護者の胃袋へと収まることになりました。
後日、お弁当屋さんから「あのお弁当がきっかけで口コミが広がり、注文が殺到しています」と、嬉しい報告をいただきました。
ドタキャンした心ない発注者のせいで一時は絶望していた親子でしたが、今ではランチタイムには行列ができるほどの繁盛店になっているそうです。
正直あの時、娘にいい格好をしたいばかりに勢い余って行動に出てしまいましたが、友人のおかげで父としての威厳を保つことができました。
何より、あのとき困っている人に迷わず手を差し伸べようとした娘の優しい心が、僕にとって一番の誇りです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。