研修中に「無能新人」と罵られて
この日の研修を仕切っていたのは、企画部のB谷部長。実績はあるものの、中途採用の僕には最初から冷たい態度でした。山道を歩きながら、僕が沢や斜面を確認していると、B谷部長が「いつまで油を売ってるんだ!」と声を荒らげます。
僕は「遊歩道を作るなら、水の流れや地形を見ておいたほうがいいと思って」と答えました。
するとB谷部長は鼻で笑い、「客が喜ぶのは豪華で派手な企画だ。のんびり山歩きがしたいなら、ひとりでやってろ。無能新人には客のニーズもわからないんだな」と言い放ったのです。
部長に山へ置き去りにされて!?
研修の終盤、僕は同僚たちの後ろを歩きながら、沢の位置を確認していました。すると、B谷部長は僕を置いたまま「全員そろった」と運転手に告げ、バスを発車させたのです。
僕が「待ってください!」と声を上げると、B谷部長は窓から顔を出して「そこで反省してろ。山が好きなんだろ? 好きなだけ見てこい」と笑いました。
その後、僕がいないことに気づいたA山課長が、すぐに運転手へ声をかけ、バスを停めさせました。まさかこのような仕打ちを受けるとは思わず、僕は言葉を失ってしまいます。
バスから走ってきたA山課長は、息を切らしながら「大丈夫ですか!? B谷部長が勝手なことをして……本当にすみません」と頭を下げてくれました。
僕が山を熟知していたワケ
僕は「大丈夫です。ここ一帯は、祖父の代から家族で管理してきた土地なんです」と答えました。A山課長は「えっ!?」と驚いている様子。実は、子どものころから何度も歩いているため、沢の位置から動物の通り道まで把握しています。
「水の流れや動物の通り道を無視すると、あとで土地に負担がかかります。豪華な施設を作るだけが、リゾート開発ではないと思うんです」
そう伝えると、A山課長は「自然を残す場所と、人が使う場所を分ける。その視点は企画に生かせるかもしれませんね」と真剣な表情に。
後日、A山課長の提案で、僕も企画づくりに加わることに。そして課長と共に、自然を生かした案をまとめていきました。B谷部長は「あんな厄介者に仕事を任せるなんて物好きだな。あいつに大きな案件なんて無理だ」と笑っていたそうです。
商談当日、部長がプレゼンすると…!?
クライアントとの商談当日、状況は一変しました。
B谷部長が示したのは、山を大きく造成し、プールやテニスコートを並べる華やかな計画でした。「ウォータースライダーも設置できます」と得意げに説明すると、クライアントの表情は険しくなり、話を遮ったのです。
「もう結構です。現地を歩いて、あなたは何を見ていたんですか?」
実は、先方の責任者は、僕の父でした。父が取引先企業の責任者であることは、採用時に人事と社長へ伝えていました。僕自身は商談や契約条件の調整には関わらず、現地調査や企画案づくりだけを担当していました。
父は「私が求めているのは、自然の静けさや景色を生かし、地域と共存できる場所です」と静かに伝えました。B谷部長は「し、しかし、富裕層のお客様には華やかな設備のほうが喜ばれますし……」と、しどろもどろになっています。
すると、父は「それは、あなたの思い込みです。土地を歩いて何も感じなかった人に、この企画は任せられません」ときっぱり返したのです。
僕たちの企画が選ばれたワケ
その後、A山課長のチームで進めていた企画が、先方の選定会議で採用されることに。
景色を残す区域、人が通る道、水の流れを妨げない配置を示した案は、派手さこそないものの、土地の魅力を生かしていると評価されたのです。
しばらくして、B谷部長は研修中の暴言と置き去り行為について社内調査を受け、管理職と大型案件の担当を外されました。
僕は今ものんびりしていると言われます。それでも、立ち止まって見るからこそ、気づけるものがあります。あの日見ていた草木や水の流れは、決して無駄ではありませんでした。
これからも、土地の声を聞くような企画を作っていきたいと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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