数カ月前から変わった義父
ある日、実家から届いた野菜を義両親にもおすそ分けしたときのことです。義父は野菜を受け取りながら、鼻で笑うように言いました。
「相変わらず、細々と農業を続けているのか。農業なんて、この先もそれでやっていけるのか」
丹精込めて野菜を育てている両親の仕事や暮らしを見下すような義父の言い方に、私は腹が立ちました。
帰宅後、私はA男に「最近のお義父さん、うちの両親に対する言い方がひどくない? 何かあったの?」と尋ねました。A男は面倒くさそうに肩をすくめ、「父さんはもともと口が悪いんだよ。深い意味はないだろ」と言いました。
私が「でも、急に態度が変わった気がするの」と食い下がっても、「考え過ぎだよ。聞き流してくれないか」と取り合ってくれません。A男はそれ以上、義父の態度について説明しようとしませんでした。
義父が用意していた100万円
それから数日後、義父から「話があるからひとりで家に来てくれ」と、私に直接連絡がありました。指定された日に義実家を訪れると、義父はテーブルに分厚い封筒を置きました。
「A男から、君の実家の農機がまた故障し、100万円が必要だと聞いた。金は用意したが、その前に君へ直接確認したいことがある」
「まずは中身を数えてみろ」という義父の言葉に、言われるがまま封筒の中身を確認した私。しかし、義父が何を言っているのかまったくわからなかったため「たしかに100万円ありますが……これは何のお金でしょうか?」と義父に尋ねました。
義父の話を詳しく聞くうちに、A男が義父にウソをつき、私にはその話自体を隠していたことがわかりました。
義父によると、4カ月ほど前、A男から「妻の実家の農機が故障し、修理費として50万円を自分たちの家計から立て替えた。ただ、このままでは生活費が足りないため、次のボーナスまで貸してほしい」と頼まれたそうです。
結婚後、生活費や貯蓄を含む家計の管理は主にA男に任せていたため、私は口座の細かな入出金まで確認していませんでした。
義父は、私たち夫婦が生活に困っていると思い、A男名義の口座へ50万円を振り込みました。A男からは、「父さんが助けてくれたことは、妻の両親にも伝えた。とても感謝していたよ」と聞かされていたそうです。
ところが、返済すると約束していた時期を過ぎても50万円は返されず、私の両親から義父へ礼の連絡もありませんでした。そのため義父は、「息子夫婦に高額なお金を出させておきながら、当然のような顔をしている」と思い込んでいたのでした。これが、義父の態度が冷たくなった理由でした。
そして今回、A男から「別の農機が壊れ、さらに100万円が必要になった。今回も俺から妻の実家にお金を渡したものの、自分たちの生活が立ち行かなくなったので貸してほしい」と頼まれ、不審に思った義父が私を直接呼び出したというわけです。
発覚した夫のウソ
私は、A男からも両親からも、そんな話は一度も聞いていませんでした。月に1回は実家にも顔を出していますが、先週両親に会ったときにも、農機が故障したという話はひと言も聞いていませんでした。
私はその場で両親へ電話をかけ、農機が故障してA男からお金を受け取ったことがあるか確認しました。父は驚き、「そんな事実はない。A男君にお金を頼んだことも一度もない」と否定しました。
私が父の返答を伝えると、義父は険しい表情でA男に電話をかけました。しばらくして義実家へやって来たA男は、居間にいる私と、テーブルに置かれた封筒を見るなり表情をこわばらせました。「どういうことなの?」と私が尋ねると、A男は目をそらし、「いや、その……少し事情があって」と小声で言いました。
義父も低い声で「妻の実家で農機が壊れたという話は、お前の作り話なのか」と問い詰めました。
A男は青ざめた表情で、「農機が壊れたという話はウソだ。金が必要だったけれど、本当の理由を言えなかった」と言いました。そして「後で返すつもりだった」と繰り返すだけで、何に使ったのかは答えませんでした。
義父が用意していた100万円がA男に渡されることはありませんでした。
義父は大きく息を吐き、私に向かって深く頭を下げました。
「君の両親が、息子夫婦に高額なお金を出させた上、俺が金を貸したことを知りながら礼も言わない人たちだと思い込んでいた。だからといって、農業や暮らしを見下してよい理由にはならない。本当に申し訳なかった」
私は義父の謝罪を受け止めましたが、A男のウソが原因だったからといって、両親の仕事や暮らしを見下した言動を簡単には許せないと伝えました。義父は黙ってうなずき、後日、私の両親にも直接連絡して謝罪しました。
信頼を利用した夫との決別
後日、義父が保管していた振込記録を確認すると、4カ月前にA男名義の口座へ50万円が振り込まれていました。
さらに、A男に通帳やカードの利用明細の提示を求めました。確認すると、通帳には消費者金融への返済記録があり、カードの利用明細には飲食店などでの支払いが並んでいました。一方、私の両親や農機の修理業者への送金記録はありませんでした。A男に確認すると、義父から借りた50万円を個人的な借金の返済や遊興費に充てたことを認めました。
そしてA男は、複数の借入金の返済やカードの支払いが重なり、自分の収入だけでは支払いが追い付かなくなったため、さらに100万円を借りようとしたと認めました。
A男は「後で返すつもりだった」と繰り返しましたが、私は、自分の借金を隠すために私の両親まで利用し、義父にウソをついたA男を、もう信用できませんでした。
私はいったん実家へ戻り、別居しながらA男に借金の総額や家計の入出金をすべて明らかにするよう求めました。しかし、ほかにも借金や支出を隠していたことがわかり、信頼を取り戻すことはできませんでした。何度か話し合った末、A男も離婚に同意しました。その後、離婚届を提出し、私たちの協議離婚が成立しました。
義父が貸した50万円は、A男が返済することになりました。A男と義父は、返済方法や期限を記した書面を作成しました。
家族を信じることと、家計や金銭のやりとりをすべて任せきりにすることは違うのだと気付きました。今回の経験から、家族間のお金の貸し借りであっても、本人同士で目的や返済方法を確認し、記録を残すことが、互いの信頼を守ることにつながるのだと感じています。
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家計を任されていた夫が、自分の借金を隠すために妻の両親を利用していた今回のケース。義父の誤解は夫のウソから生まれたものでしたが、それでも両親の仕事や暮らしを見下した言動が正当化されるわけではありません。家族への信頼があっても、お金に関する情報を共有し、互いに確認できる状態にしておくことの大切さを考えさせられる出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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