異様な空気が漂うBBQ
初夏の陽気が心地よい休日、私たちはBBQ施設に集まりました。子どもたちが元気に駆け回る中、1人の女性が日陰のベンチに陣取り、周りのママたちも機嫌を取るかのように彼女を囲んで談笑していました。私もみんなと仲良くしたくて「何かお手伝いしましょうか?」と笑顔で輪に入ろうとしたものの、その女性を中心とした内輪の話題が続いてうまく会話に入れませんでした。
なんとかこの場になじみ、少しでも役に立ちたいと考えた私は、ひとりで汗をかきながら、火おこしや野菜のカットを引き受けました。
すると、あの女性が数人のママ友たちを引き連れて近づいてきました。手には、有名精肉店のロゴが入った紙袋。その中には分厚い高級ステーキ肉が入っていました。「これ、私が奮発して買ってきたの。みんなで食べようよ。焼くのはやってもらえる?」みんなへの差し入れだと思い、私は快くそのお肉を預かりました。しかし、彼女の本当の狙いはここからだったようです。
高級肉でマウント開始……!
ボスママは周りのママたちと、夫からのプレゼントや休日の家族旅行の自慢話でひとしきり盛り上がっていました。そして、ひとりで肉を焼く私のほうへ顔を向けると、大きな声で話を振ってきたのです。
「うちはパパが休みだと全部やってくれるから、本当に助かるのよね〜。あ、お宅はパパがいないから、こういう行事も全部ひとりでやらなきゃいけなくて大変でしょう?」さらに、口角をわずかに上げてこう続けます。
「普段、こんなに良いお肉を食べる機会もなかなかないだろうから、あなたも遠慮しないでひと切れ食べてね」ボスママが、私を見下し優越感に浸ろうとしているのは明らかでした。モヤモヤとした気持ちが広がりましたが、せっかくの雰囲気を壊したくありません。私は「ありがとうございます」とだけ返し、黙々とお肉を焼き続けました。
無邪気なひと言が暴いた、高級肉の出どころ
ところが、お肉がおいしそうに焼き上がった途端、ボスママはサッとやって来て、「みんな遠慮しないで食べてね!」と周りのママや子どもたちに気前よく振る舞うと、一番良さそうな部分は自分と息子の皿に山盛りに。一方、私と息子の小皿には、お情けとばかりに端のひと切れだけをのせたのです。
私たちにはあからさまに差をつけるボスママ。その場の空気が少しギスギスし始めたとき、ボスママの息子が、うれしそうにお肉を頬張りながら無邪気な声を上げました。
「あ、これパパが会社の人からもらってきたお肉だ! みんなで食べるんだってパパが言ってたやつだよね!」
その瞬間、ボスママの動きがピタリと止まりました。「ち、違うわよ〜! これはママが買ってきたお肉!」息子の言葉を慌てて遮るように、笑い飛ばすボスママ。親子の言い分は食い違っているようです。すると、後ろから男性の声がしました。
「何言ってるんだ。それ、俺が取引先からもらった肉だろ?」声の主は、ボスママの旦那さんでした。仕事が予定より早く終わり、飲み物を届けに立ち寄ったそう。思いがけない旦那さんの登場に、ボスママは言葉を失いました。
旦那さんは、妻たちの山盛りのお皿と、焼き場に立つ私の小皿を交互に見ました。「どうして自分で買ったなんて言うんだ。皆さんで食べてって持たせたのに、自分たちの分ばかり取ったんじゃないだろうな!?」夫に立て続けに指摘され、「それは……」と口ごもるボスママ。自分で買ったというウソも、露骨な取り分けの差も夫に指摘され、さすがに言い返せなかったようです。
最後はみんなでいただきます!
すると、それまでボスママの顔色をうかがっていたママの1人が、明るく声を上げました。「ご主人からの差し入れだったんですね! じゃあ、そのお肉、みんなで分けていただきませんか?」その言葉に、周りのママたちも「そうしよう」とうなずき、異様だった空気は少しずつやわらいでいきます。残っていたお肉は、みんなに行き渡るように取り分けられ、子どもたちは「柔らかくておいしい!」と大喜び。
「ずっと焼き場を任せきりですみません。ここは僕たちが代わるので、お肉を食べて休んでくださいね。」そう言って夫が焼き場に入ると、ボスママも気まずそうに立ち上がり、一緒に焼き場の作業や片付けを手伝い始めました。
それまでほとんど作業をしていなかったボスママも手を動かし始め、私もようやくひと息つくことができました。友だちと一緒にうれしそうにお肉を頬張る息子の姿が微笑ましく、参加してよかったかなと思えたのでした。
◇ ◇ ◇
家族の形はそれぞれです。家庭環境を理由に人を見下したり、扱いに差をつけたりして良いわけではありません。同じ場にいる人同士、相手の立場にかかわらず気持ちよく過ごせる配慮を大切にしたいですね。
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。