健康のために始めた食生活
夫はもともと、「家事は女がやるもの」という考えが強い人でした。
家事をしても感謝されることはなく、「それがお前の役目だろ」と言わんばかりの態度をとられることもしばしば。それでも、私が少し我慢すればうまくやっていけるはずだと考えていたのです。
そんなある日、夫の健康診断の結果が届きました。その結果、血液検査の一部の数値が基準値を超えており、食生活を見直すよう勧められました。
見た目は細身だったこともあり、夫自身もかなり驚いていました。そして、何かを決意したようにこう言ったのです。
「医者にも言われたし、少し協力してくれ」
その言葉を聞いた私は、「もちろん。一緒に頑張ろう」と答えました。それから私は、栄養バランスを考えた献立を毎日作るようになったのです。
正直なところ、私もたまにはこってりしたものを食べたいと思うことはありました。それでも、夫が健康のために頑張っているのだからと、不満を口にすることなく同じ食事を続けていたのです。
最初のうちは夫も「体が軽くなった気がする」と喜び、数カ月後の再検査では数値も改善しました。
「このままの食生活を続けていきましょう」。医師からそう言われたと聞き、私も自分のことのようにうれしかったのです。
なぜか太っていく夫
再検査が終わってしばらくすると、夫は家でほとんど夕食を食べなくなりました。「もうお腹いっぱいだから」と言って箸を置く日が続きます。
体調が悪いのかと心配して尋ねても、「大丈夫」の一点張り。ところが、家ではほとんど食べていないはずなのに、夫は少しずつ太っていったのです。
以前はゆとりのあったスーツもきつそうになり、お腹まわりも明らかにふっくらしていました。
「もしかして、何か別の病気なんじゃ……」。そう不安を抱え始めたころ、私は夫の秘密を知ることになったのです。
残業帰りに見た光景
ある日、私は仕事で帰りが遅くなりそうだったため、朝のうちに夫へ「今日は夕飯を作れないから、外で済ませてほしい」と伝えて家を出ました。
しかし、その日の仕事は予定より早く終わり、私も外で食事を済ませようと、定食屋へ入りました。
すると、店の奥から聞き覚えのある笑い声が聞こえてきたのです。目を向けると、そこには会社の同僚たちと食事をしている夫の姿がありました。
夫の前には山盛りの唐揚げと大盛りのご飯。
「たまには好きなものを食べたい日もあるよね」――最初はそう思いました。しかし、そのあと夫の口から出た言葉を聞いて、私は言葉を失ったのです。
「今日は堂々と外で食べられるから最高だよ」
同僚が「どういうこと?」と聞き返すと、夫は笑いながら続けました。
「家じゃ妻が健康のことばっかり気にするからさ。毎日草みたいなメシばっかりで、たまったもんじゃないんだよ。だからいつも外で食べてから帰ってる。家では小食のフリしてればバレないし」
私は、目の前が真っ白になりました。毎日、夫の健康を思って献立を考え、自分も同じ食事を続けてきたというのに、夫はその裏で毎日のように外食をしていたのです。
その瞬間、「病気かもしれない」と本気で心配していた自分が、ひどくむなしく思えました。
決定的だったひと言
その夜、私は夫に定食屋で見かけたことを伝えました。夫は一瞬驚いたものの、すぐに不機嫌そうな顔になります。
「一緒に頑張っていると思っていたのは、私だけだったんだね」
私がそう伝えると、夫は鼻で笑い、吐き捨てるようにこう言ったのです。
「勝手に健康食なんか作って、いい妻気取りか?」
「外で食わなきゃいけなかった俺の身にもなれよ!」
その言葉を聞いた瞬間、不思議なくらい気持ちは冷めていきました。そして、私は夫をまっすぐ見つめ、静かに言いました。
「……わかった。もう、あなたのために食事を作ることはやめるね」
夫は肩をすくめると、「最初からそうしてくれればよかったんだよ」と吐き捨てました。
私はそれ以上何も言わず、その夜は別々の部屋で眠りました。そして翌日、有給休暇を取り、しばらく実家で暮らすことを決めたのです。
後悔しても、もう遅かった
数日後、夫からは「いつまで実家にいるつもりだ?」という連絡がありましたが、謝罪の言葉は一切ありません。
それどころか、「家の中が散らかってるんだから、早く帰ってこい」「意地張ってないで、家事くらいちゃんとやれ」と、自分本位な言葉ばかりでした。
私は、そのやり取りを通して確信したのです。夫にとって私は、一緒に人生を歩むパートナーではなく、家事をする都合のいい存在でしかなかったのだと。
一緒に頑張ろうと言った約束を裏切り、私の思いや努力まで踏みにじった夫。この人とは、もう夫婦としてやり直すことはできない。そう思い、私は離婚を決意しました。
離婚届を送ると、それまでとは打って変わって、「俺が悪かった。もう一度やり直せないか」といった連絡が何度も届くようになりました。しかし、一度失った信頼は、元に戻ることはありませんでした。
今では、自分のために食事を作り、自分のペースで穏やかな毎日を送っています。
夫婦は、お互いを思いやる気持ちがあってこそ成り立つものです。その思いやりが失われたとき、夫婦として歩み続けることはできないのだと実感しました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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