母親代わりとして育てた元夫の連れ子
A美は、元夫と前妻のB子さんとの間に生まれた子どもです。元夫からは、「前妻は長期入院が必要となり、当時はA美と暮らすことが難しかったため、自分が親権者になった」と聞かされていました。
その後、私と元夫が結婚すると、A美との3人暮らしが始まりました。私はA美と養子縁組はしていませんでしたが、母親代わりとして生活を支え、実の娘のように大切に思っていました。
私は食事を作り、保育園の送り迎えをし、体調を崩したときにはそばで看病しました。最初は遠慮がちだったA美も、少しずつ私を頼ってくれるようになりました。一方、元夫は仕事を理由に家を空けることが多く、育児はほとんど私と元義母に任せきり。それでも、A美が安心して暮らせるならと思い、私はできる限りのことをしてきたつもりです。
ところが、結婚生活が数年続いたころ、元夫から突然「価値観が合わない」と離婚を切り出されました。
私はA美と離れたくありませんでした。しかし、元夫がA美の親権者で、養子縁組をしていない私とA美の間には法律上の親子関係もありませんでした。私の判断だけでA美を連れて家を出ることはできないと考えました。
そんな私に、同居していた元義母が「A美のことは、私が責任を持って守るから」と言ってくれました。私はその言葉を信じ、後ろ髪を引かれる思いで家を出ました。
離婚後も元義母が間を取り持ってくれたため、私は年に数回A美と会うことができました。元夫と私が離婚した当時5歳だったA美は、現在13歳になっています。私は仕事に専念し、ひとりで穏やかに暮らしていました。それでも、A美のことを思わない日はありませんでした。
「月10万円払わなければ会わせない」
「来月から、A美の生活費として月10万円払え」
久しぶりに連絡してきた元夫は、突然そう言いました。元夫は、B子さんから毎月支払われていた養育費が、ここ数カ月途絶えていると説明しました。
元夫は強い口調で「お前はA美の母親代わりだっただろ。離婚後も会っているんだから、生活費を負担して当然じゃないか」と言いました。
「それなら、まずはB子さんに養育費の件を確認するべきでしょう。どうしていきなり私が払うことになるの?」と聞くと、元夫は「細かいことはいいんだよ。払わないなら、もうA美には会わせない」と言って、一方的に電話を切りました。
子どもとの交流を、金銭を得るための材料にする元夫の態度に、不信感が募りました。とはいえ、元夫がお金を要求してきたということは、A美や、同居している元義母の生活も立ち行かなくなっているのかもしれない……。そう感じた私は、元義母へ連絡しました。
元夫が隠していた実母の事情
「お金を払わないと、今後はA美に会わせない」「B子さんからの養育費も止まってしまった」と元夫に言われた旨を説明すると、元義母は驚きました。
「養育費が止まったなんて、私はそんな話は聞いていないよ。それに、A美の生活費は私も負担しているのに……」
元義母によると、養育費を受け取る口座は元夫が管理しており、入金状況を詳しく確認したことはなかったそうです。
元義母はB子さんの連絡先を知っていました。しかし、元夫から「A美を混乱させたくないから、もう連絡しないでほしい」と繰り返し言われ、これまで連絡をためらっていたそうです。今回ばかりは確認が必要だと考え、元義母は久しぶりにB子さんへ連絡しました。
元義母が確認すると、B子さんは「養育費の支払いを一度も止めていない」と答えたそうです。元夫の説明と食い違っていたため、本人を交えて詳しい事情を確認することになりました。
元夫は当初、詳しい説明を避けようとしました。しかし、A美の生活費を負担している元義母が「A美の生活に関わることだから、きちんと説明して」と強く求めたため、後日、私とB子さんも交えて4人で話をすることになりました。
B子さんは、元夫名義の口座へ毎月養育費を振り込んできた記録を持参していました。
「私は養育費の支払いを一度も止めていません。それなのに、なぜ『振り込まれなくなった』と話したの?」
B子さんに尋ねられると、元夫は一瞬言葉に詰まりました。しかし、すぐに「A美の生活には金がかかるんだ」と言い張りました。
すると、元義母が厳しい表情で尋ねました。
「A美の生活費は私も負担しているし、B子さんからも養育費を受け取っていた。それなのに、何のために月10万円も必要だったんだい?」
元夫は「A美のためだ」と繰り返すばかりで、具体的な使い道を説明できませんでした。元義母やB子さんが何度も確認すると、やがて養育費が止まったという話はウソだったと認めました。さらに追及されると、元夫は、私から受け取るつもりだったお金を、自分の借金の返済に充てようとしていたことも白状しました。
さらに、B子さんがA美と会ったり直接連絡を取ったりしなかったのは、元夫から「A美には新しい母親がいる」「A美本人も今は会いたがっていない。生活を混乱させたくないから直接連絡しないでほしい」と繰り返し言われたことが理由だとわかりました。
B子さんは、無理に接触すればA美を傷つけるのではないかと考え、養育費だけを支払っていたそうです。それでも心配になってA美の近況を尋ねるたび、元夫から「新しい母親と穏やかに暮らしている」と説明され、私とすでに離婚していたことも知らされていなかったといいます。
娘に真実を明かした結果
その後、元義母はA美に、B子さんがずっと娘を思い、会える日を待っていたことを伝えたそうです。元夫から「お母さんは自分から家を出て、その後も会おうとしなかった」と聞かされていたA美は、驚きながらも「お母さんに会って、直接話を聞きたい」と望んだといいます。
元夫は当初、母娘が会うことに反対したそうですが、A美本人の意思が固かったため、しぶしぶ了承したと聞きました。
それからしばらくして、元義母から、A美とB子さんが何度か会い、少しずつ関係を築いていると聞きました。やがてA美は、B子さんと一緒に暮らしたいと希望するようになったそうです。
B子さんは、元夫や元義母と話し合いを重ねた上で専門家へ相談し、家庭裁判所で親権者変更の手続きを進めました。詳しい経緯までは聞いていませんが、後日、家庭裁判所での手続きを経て、A美がB子さんと暮らし始めたと元義母から報告を受けました。
現在も、A美は元義母との交流を続けていると聞いています。また、B子さんは、A美が私との交流を望んでいることも尊重してくれました。今も私は、A美の新しい生活に配慮しながら、時々会っています。
元夫の要求には驚きましたが、結果的にはそのウソが明らかになり、A美自身が望む生活へ進むきっかけになったのだと思います。
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「子どものため」という言葉が、いつの間にか大人の都合を正当化するために使われてしまうことがあります。今回、A美さんは父親のウソによって実母との関係を遠ざけられ、さらに金銭交渉の材料にもされました。大切なのは、周囲の大人が一方的に決めるのではなく、子ども本人の気持ちや意思に目を向けることなのかもしれません。遠回りはしたものの、A美さん自身の希望が尊重され、実母との関係を築き直せたことにほっとさせられる体験談です。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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