元恋人とまさかの再会
その日、私はBウエディングが運営する結婚式場を訪れました。Bウエディング本社とはすでに何度か打ち合わせを重ねていましたが、式場で働くスタッフと顔を合わせるのは初めてでした。この日は先方からの申し出で、式場責任者から説明を受けながら、現場を見せてもらうことになっていました。
ちょうどブライダルフェアが開かれており、デザートビュッフェがどのように紹介されているのか、来場したカップルがどのような点を重視しているのかなどを確認するのが目的です。
受付で声をかけると、対応に出てきた女性を見て驚きました。以前交際していたC美だったのです。C美もすぐに私だと気付いたようでした。
私が用件を説明しようとすると、C美は最後まで聞かず、「久しぶり。あなた、たしか営業をしていたよね? 今日は営業で来たの?」と言いました。
C美と交際していた当時、私は別の会社で営業職をしていましたが、現在は転職し、営業職からも離れています。C美とは別れて以来ほとんど連絡を取っていませんでした。そのため、現在の私の仕事については知らなかったようです。
私が「いや、今日は営業ではなくて……」と説明しようとすると、C美は私の話を聞こうともせず、「今日はフェアで忙しいの。少し待っていて。時間がなければ帰っても大丈夫だから」と言うと、そのまま慌ただしく立ち去ってしまいました。
仕事の場で昔の話を持ち出されたことにも戸惑いましたが、それ以上に気になったのは、私が何のために来たのか最後まで確認しなかったことでした。私は「式場責任者もフェアで忙しいのかもしれない」と思い、ひとまず待つことにしました。
1時間待っても案内されず…
しかし、約束していた時間から1時間ほどたっても、私には何の案内もありません。さすがにおかしいと思った私は、再びC美に「まだですか? お忙しければまた別日に……」と声をかけました。するとC美は、「あなた、まだいたの? 営業はお断りだから、帰って」と一方的に言いました。
そこで私は、C美が私を営業と勘違いしていることに気付きました。そして私の訪問予定が式場側にもきちんと共有されているか確かめるため、その場でこれまで打ち合わせをしていたBウエディング本社の担当者へ電話をかけました。
「私、Aフーズ新規事業部の責任者です。あの……今日、式場を視察する予定で伺っているのですが、実はまだご案内いただけていなくて……。訪問予定は式場にも伝わっていますよね?」
すると担当者は驚いたように、「はい。Aフーズのご担当者さまがいらっしゃることは式場側にも共有しています。到着されたら受付から式場責任者へ連絡してもらう予定なのですが……」との返答がありました。
すると、私が電話で話している声を聞いたC美の表情が変わりました。
「え……Aフーズの新規事業責任者って……」
そうつぶやくと、慌てた様子でその場を離れていきました。
しばらくすると、C美は式場責任者とともに戻ってきました。式場責任者は私を見るなり、「大変申し訳ありません。本社から本日のご訪問については聞いていました。到着されたら受付から連絡をもらうことになっていたのですが……。連絡がなかったため、フェアの対応に入っておりました」と謝罪しました。
私は、「最初に用件を説明しようとしたのですが、最後まで聞いていただけなかったので」とだけ答えました。
その日は式場責任者から改めて謝罪を受け、予定していた視察についても可能な範囲で対応してもらいました。ただ、今回の出来事については、今後の取引にも関わることだと考え、私は会社へ持ち帰ることにしました。
「役職を知っていたら…」に感じた違和感
後日、Bウエディング本社の担当者や式場責任者を交えて、今回の対応について話し合う場が設けられました。その席で、C美からは、「新規事業部長だと最初からわかっていたら、あんな対応はしませんでした」という趣旨の説明がありました。
その言葉を聞いて、私はかえって違和感を覚えました。
「私が新規事業部長だったかどうかが問題なのではないと思います。どのような立場の相手でも、まず来訪目的を確認する必要があったのではないでしょうか」
と伝えました。Bウエディング側からは改めて謝罪があり、今回の件を踏まえて、来訪者の確認方法や式場内での情報共有について見直すとの説明を受けました。C美については今回の対応が社内で共有され、接客や取引先への対応について改めて指導を受けたと聞いています。
今回の一件を受け、Aフーズとしても、当初の予定通りに契約を進めてよいのか改めて検討することになりました。
もちろん、この出来事だけを理由に結論を出したわけではありません。商品開発の進め方や現場との連携体制なども含め、社内で慎重に話し合いました。その結果、今後長く一緒に事業を進めていく相手としては、別の事業者と組むほうがよいという判断になり、Bウエディングとの契約は見送ることになりました。
その後、以前から候補に挙がっていた別の結婚式場運営会社と話を進めることにしました。Bウエディングとの話がまとまらなかったことは残念でしたが、結果として、私たちが目指す事業の方向性を共有できる相手と仕事を始めることができました。
まとめ
今回の出来事を通して、私は過去の印象だけで相手を判断することの危うさを改めて感じました。
C美との再会をきっかけに、取引相手を見るときには、条件や実績だけでなく、信頼関係を築ける相手かどうかも大切なのだと感じました。
新規事業を任される立場として、自分自身も先入観にとらわれず、目の前の相手と向き合いたいと改めて感じた出来事です。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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