のしかかるプレッシャー
「うちは昔から、男の子が家をつないでいくって考えだから」大きな家業や財産があるわけではありません。それでも義母には、「跡継ぎは男の子」という昔ながらの考えが強く残っているようでした。結婚して数年が経つと、親族が集まる席での風当たりは少しずつ強くなっていきました。
「病院には行っているの?」 「早く安心させてちょうだいね」 それだけではなく、義母から直接電話がかかってくることも増え、多いときには週に何度も着信がありました。そのたびに、私の胃はギュッと締め付けられました。
耐えきれず、夕食の席で夫に悩みを打ち明けましたが、夫は私のほうを見ようともしません。「母さんも孫が欲しいだけだろ。悪気はないよ」会うたびに言われるのがつらいと訴えても、「俺に言われても困るよ。子どもができれば、母さんも静かになるだろ」と真剣に受け止めてくれませんでした。夫にとって、これは私の問題であり、夫婦の課題ではない。そんなふうに感じられたのです。
待望の妊娠! しかし……
それからしばらくして、念願の妊娠が判明しました。夫も「よかったな。これで母さんも静かになる」と笑い、義母も「これで安心だわ」と大喜び。私も、ようやくほっとできた気がしました。
しかし、穏やかな日々は長くは続きませんでした。妊娠中期の健診で、おなかの赤ちゃんが女の子だとわかりました。後日、義実家を訪れた際にそのことを伝えると、義母の顔からサッと笑顔が消えました。
「……そうなの。まあ、最初は女の子でもいいわ。次は男の子を産めるわよね?」命を授かったことを喜ぶのではなく、ただ「跡継ぎ」を産むことだけを求められている。私はすがるような思いで隣の夫を見ました。
すると夫は、「まあ、今回は女の子でもいいじゃん。次は男の子かもしれないし」と義母をなだめるように言いました。私をかばうどころか、夫まで「次」に期待している。そのことがショックでした。おなかにいる娘の存在より、義母を納得させることのほうが大事なのだと感じたのです。
娘の未来を守るため
このまま夫との生活を続けながら娘を育てれば、どうなるだろう。義母はその後も、電話や顔を合わせるたびに「次は男の子ね」と口にします。今はまだおなかの中にいる娘が、いつか「女の子だから残念だった」と感じるような言葉を聞かされるのではないか。そう考えると、不安になりました。
私は夫に、「せめて、娘の前で『次は男の子』なんて言わせないでほしい。しばらくお義母さんとは距離を置きたい」と伝えました。すると夫は、「そこまで気にしすぎだよ。次に男の子を産めば済む話だろ」と言ったのです。
「男の子が欲しいかどうかじゃない。娘が『女の子だから残念だった』と思うような環境にしたくない」と伝えても、夫の考えは変わりませんでした。そこで私は、問題は義母だけではないと悟り、離婚を決意。話し合いの末、離婚が成立しました。
離婚後は実家に戻り、家族の力も借りながら無事に娘を出産しました。生活への不安がなかったわけではありませんが、娘の存在を否定されることのない環境で暮らせることに、ほっとしていました。
それから数年後、娘のことも大切にしてくれる男性と出会いました。時間をかけて関係を築き、私たちは家族になりました。やがて新しい命を授かると、夫は性別を気にすることなく、「元気に生まれてきてくれたら、それだけでうれしい」と言ってくれました。その姿を見て、私は、家族になるとはこういうことなのかもしれないと思いました。
「男の子なら」に返した答え
ある休日、夫と娘の3人で買い物をしていると、偶然、元義母と会いました。私のおなかを見るなり、「男の子なの?」と聞かれ、うなずくと、元義母は「あなた、男の子も産めるのね」とぽつり。続けて「だったら、うちの息子とやり直せない? 私が話をつけてあげるから……!」と言ったのです。
「この子は今の夫との子ですよ」そう伝えても、元義母は引き下がりませんでした。「それはわかってるわよ。でも、あなたが戻ってきてくれたら、今度こそ息子にも男の子ができるかもしれないじゃない」の言葉で、元義母は今も何も変わっていないのだとわかりました。
私は娘の手を握りました。「今でも、子どもを性別で見ているんですね。もう行きます」それでもなお、話を続けようとする元義母に、夫が口を開きました。「お言葉ですが……、もうやめてください。娘も、おなかの子も、僕にとっては大切な家族です」元義母にそれ以上何も言わず、私たちはその場を離れました。
あのとき元夫と義母が大切にすべきだったのは、性別に関係なく、生まれてくる子どもを喜び、一緒に家族をつくっていく時間だったのだと思います。娘が私の手を握り返し、今の夫が隣を歩いている。私はもう振り返る必要はないと感じました。
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妊娠や出産に対する周囲の期待は、本人にとって大きな負担になることがあります。家族だからこそ、自分たちの価値観を押しつけるのではなく、本人の気持ちや選択を尊重し、安心して過ごせるよう寄り添うことが大切ですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。