娘が楽しみにしていた運動会
ある日、学校から帰ってきた娘が、うれしそうに報告してくれました。
「ママ! 私ね、運動会のリレーに出ることになったの!」
思わず笑顔になり、「すごいじゃない! 絶対に応援に行くからね」と言った私。
娘が小学校に入って初めて迎える運動会です。せっかくなら夫にも一緒に応援してほしいと思い、その日の夜、帰宅した夫に声をかけました。
「今度の日曜日、小学校の運動会があるんだけど……」
しかし、玄関から入ってくるなり不機嫌そうな顔をしていた夫は、取りつく島もありませんでした。
「疲れてるんだから、帰ってきてすぐ話しかけないでくれよ」
最近の夫はいつもこんな調子。それでも娘の大切な行事だったので、私も引き下がれません。
「娘がリレーの選手に選ばれたの。初めての運動会だし、一緒に応援してほしいんだけど」
すると夫はスマホを見たまま、そっけなく「その日は出張だから無理。あとはよろしく」とだけ答えたのです。それ以上、話を聞くつもりはないようでした。
そのころの夫は「急な出張」や「休日出勤」を理由に家を空けるようになっていました。さらに、帰宅が深夜になったり、休日に何時間も連絡がつかなかったりすることも増えていたのです。
以前とは明らかに様子が違ったため、夫が仕事以外の理由で家を空けているのではないかと疑うようになった私。悩んだ末、調査会社に依頼して夫の行動を確認してもらうことにしたのです。
娘の勇姿と夫の裏の顔
そして迎えた運動会当日――。
私は朝からお弁当を用意し、娘と一緒に学校へ。
娘は一生懸命走り、リレーでは見事に1位。うれしそうにゴールする姿を見たときは、私まで胸がいっぱいになりました。
帰り道、娘は満足そうに運動会の話をしていましたが、ふと寂しそうな表情を浮かべました。
「パパにも見てほしかったな……」
その言葉に、私は胸が締めつけられました。
実は前日に、調査会社から報告を受けていた私。夫は「出張」と話していた日に、ある女性と待ち合わせをして食事をして、その後2人でホテルへ入っていたのです。
複数回にわたる行動の記録や写真があり、夫が私に嘘をついて女性と会っていたことは明らかでした。娘が父親を待っている間、夫は別の女性と過ごしていたのだと思うと、怒りよりもむなしさが込み上げました。
するとそのとき、調査会社から追加で連絡が入りました。夫は「出張」と言っていましたが、実際には運動会当日も、その女性と会っていたことが確認されたのです。
その日の夕方に帰宅すると、なぜか夫がソファでくつろいでいました。
「出張じゃなかったの?」と私が尋ねると、夫は一瞬言葉に詰まりました。
「ああ……急に中止になったんだよ。今日は会社で仕事してた」
嘘だとわかっていたものの、娘の前で問い詰めることはしたくなかったため、その場では何も言わなかった私。すると娘が夫のそばへ行き、うれしそうに話しかけました。
「今日ね、リレーで1位になったんだよ! パパにも見てほしかった!」
一瞬気まずそうな顔をした夫は、「ごめんな。じゃあ次の日曜日、3人で遊園地に行こうか」と言い出したのです。
「ほんと!? 行きたい!」と娘は大喜び。
娘の期待をこれ以上裏切ってほしくなかった私は、夫に確認しました。
「次の日曜日ね? チケットも取るから、ちゃんと約束を守ってね」
面倒そうにしながらも、「わかってるよ」と答えた夫。しかし、私はもう夫の言葉を素直に信じることができませんでした。
約束を破った夫の末路
遊園地へ行く前日の夜、夫は帰ってきませんでした。
連絡しても返事はなく、帰宅したのは翌朝。遊園地へ行くことを楽しみにしていた娘は、すでに着替えを済ませて待っていました。
帰宅した夫に、「おかえり。支度して。今日は遊園地に行くんでしょう?」と声をかけた私。すると、夫は露骨に嫌そうな顔をしました。
「無理だって。疲れてるんだよ! 今日は1人にしてくれ!」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で堪忍袋の緒が切れました。
「そう。わかった」とだけ答え、私は娘のところへ向かいました。
「パパ、今日は行けないみたい。遊園地にはママと2人で行こうか」
娘はしばらく黙ったあと、小さな声で言いました。
「パパ、また約束守ってくれなかったね……」
そして少し迷いながら、こんなことも口にしました。
「最近のパパ、ママと私より大事なことがあるのかな……」
まだ小学1年生だった娘に詳しい事情がわかるはずはありません。それでも、父親が家族との時間を避けるようになったことや、私たちに隠しごとをしていることを、子どもなりに感じ取っていたようでした。
その日、娘と2人で遊園地へ出かけたあと、私は離婚に向けて動くことを決めました。帰り際、私は娘に詳しい事情までは話さず、「パパとママには、これからちゃんと話し合わないといけないことがあるんだ」とだけ伝えました。
帰宅後、改めて荷物をまとめていると、驚いた様子で「何してるんだよ?」と声をかけてきた夫。私は夫を正面から見据え、はっきりと「しばらく娘と実家に行く。私は離婚も考えてる」と伝えました。
すると夫は声を荒らげました。
「遊園地に行かなかったくらいで離婚なんて大げさだろ!」
「遊園地のことだけじゃないよ」と言って、調査会社から受け取った資料を夫の前に置いた私。娘の運動会の日まで仕事だと嘘をついたこと、家族との約束を何度もないがしろにしたこと、そして何より私を裏切っていたこと――その証拠を目の前に突きつけられ、夫は顔色を失っていました。
その後、娘を連れて実家へ移り、弁護士にも相談しながら夫と話し合いを続けた私。夫は言い訳を繰り返し、当初は離婚にも難色を示していましたが、最終的には離婚に同意しました。
今、私は娘と一緒に新しい生活を送っています。
あのころは、娘から父親を奪うことになるのではないかと悩んだこともありました。それでも、約束を破られるたびに悲しむ娘の姿を見続ける生活から脱したことは、間違っていなかったと思っています。
娘も少しずつ新しい生活に慣れ、笑顔で過ごす時間が増えていきました。これからは親子2人で、安心して笑って過ごせる毎日を大切にしていきたいです。
◇ ◇ ◇
家族との約束の一つひとつは、小さなものに見えるかもしれません。しかし、それを守り、相手を思いやる日々の積み重ねが信頼につながっていくのでしょう。
今回のエピソードでは、遊園地の約束を破ったことだけが離婚の原因だったわけではありません。それまで積み重なっていた家族への無関心や嘘、そして裏切りによって、夫婦、そして親子の信頼関係が失われてしまったのです。
身近な人だからこそ、その気持ちや信頼を当たり前のものと思わず、大切にしていきたいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。