「お金持ちと暮らすほうが娘のため」
私は妻と小学6年生の娘と3人で暮らしていました。決して裕福ではありませんでしたが、家族で穏やかに生活しているつもりでした。
ところがある日、妻から突然、「好きな人ができたから離婚してほしい」と告げられたのです。相手は会社を経営するS男。妻は以前からS男と不倫関係にあり、すでに一緒になるつもりだといいます。
あまりにも突然のことで、私はすぐには気持ちを整理できませんでした。しかし、妻は数日後には離婚の話を進めるよう急かし、「もうあなたへの気持ちはない」と言い切りました。
私が何より気になったのは娘のことです。「娘はどうするんだ?」と尋ねると、妻は自分と暮らすつもりだと言いました。
私は娘と離れたくありませんでしたが、妻はS男の経済力を持ち出します。妻は、「S男さんと暮らせば、娘が続けている英語のレッスンはもちろん、将来留学したいと言ってもかなえてあげられる。お金持ちと暮らすほうが、娘のためになるのよ」と言いました。
たしかに、私には同じように何でも望みをかなえてあげられるだけの経済的な余裕はありません。また、平日は帰宅が遅くなることもあります。
一方、これまで娘の日常の世話を中心になって担ってきたのは妻でした。経済面だけでなく、生活環境を大きく変えないほうが娘のためなのかもしれない――。そう考え、私は娘と離れて暮らすことを受け入れました。
元妻と娘が新しい生活を始めて数日後、娘に持たせていた子ども用のスマートフォンから、私に連絡がありました。
「私、パパと暮らしたい」
本当はすぐにでも迎えに行きたい気持ちでした。しかし、仕事をしながらひとりで娘を育てていけるのかという不安もありました。何より、今の生活を大きく変えることが本当に娘のためなのか、私自身まだ答えを出せずにいたのです。
私は「今は一緒に暮らせないけれど、離れていてもずっと大切だし、会いたいときはいつでも会おう」と伝えました。それでも、娘の「パパと暮らしたい」という言葉はしばらく頭から離れませんでした。
3カ月後、娘と祖母が突然訪ねてきて
離婚後も娘とはこまめに連絡を取り、休日には何度か会っていました。会うたびに娘は元妻との生活について多くを語ることはありませんでしたが、以前より少し元気がないように見えることもあり、私は気になっていました。
そして離婚から約3カ月後、娘が学校の長期休暇に入っていたころのことです。仕事を終えて帰宅すると、自宅の前に娘と元妻の母親・A子さんが立っていました。突然のことに驚いていると、A子さんが「実はこの子の母親が今、海外に行っていて……」と切り出しました。
事情を聞くと、元妻はS男の仕事について海外へ行くことになり、娘をA子さんに預けたというのです。しかも娘には直前まで詳しい話をせず、「しばらくおばあちゃんの家に泊まって」と一方的に伝えたとのこと。
A子さんは、娘を預かること自体は構わないものの、娘がずっと「パパのところへ行きたい」と訴えているため、私の家まで連れてきたそうです。娘は今にも泣きそうな表情で、「パパ、しばらくここにいてもいい?」と尋ねてきました。
私はすぐに元妻へ連絡しました。すると元妻は、悪びれる様子もなく「今はバンコクにいる」と答えました。娘をA子さんに預けて海外へ行ったことを問いただすと、「ちゃんと実家に預けたんだから問題ないでしょ」と反論されました。娘も誘ったものの、自分から行きたくないと言ったのだから仕方がないというのです。
しかし話を聞いていくと、娘が同行を嫌がった理由も見えてきました。娘はS男との生活になじめず、距離を置いていたようです。それに対し元妻は、「S男さんは仲良くしようとしているのに、娘がいつまでもよそよそしい」と不満を募らせていました。
さらに、「一緒に出かけても楽しそうにしないし、気まずい空気になるたびにS男さんに申し訳ない」とまで言います。
私はあきれました。環境が大きく変わったばかりの娘が、母親の交際相手にすぐ打ち解けられないのも無理はないと思いました。
すると元妻は、「娘も私たちと暮らすより、あなたと暮らしたいみたいだし。だったら、もうそっちで暮らせばいいんじゃない?」とあっさり言ったのです。
話を聞く限り、元妻はS男との新しい生活を優先する中で、娘がなかなかS男になじめないことを負担に感じ始めていたようでした。娘と向き合うよりも、S男との関係を円満に保つことのほうが大切になっていたのかもしれません。
あれほど「娘の将来のためには私と暮らすべき」と主張していた人とは思えませんでした。
私は娘の意思を改めて確認し、元妻とも今後の生活について話し合いました。その後、娘が私と暮らすために必要な手続きを進めることに。すぐにすべてが決まったわけではありませんでしたが、娘の希望やそれまでの生活状況について確認を重ね、しばらくして娘との新しい生活が始まりました。
半年後に元妻から届いた連絡
娘との新しい生活が始まって半年ほどたったころ、元妻から久しぶりに連絡がありました。元妻は、離れて暮らすうちに娘のことを考えるようになり、私たちが元気にしているか気になったと言いました。
さらに話は思いがけない方向へ進みました。S男との生活は経済的には恵まれていたものの、思い描いていたような毎日ではなかったようです。高価な物を買ってもらい、ぜいたくな暮らしをしてきた一方で、元妻は「本当に幸せだったのは、あなたと娘と3人で暮らしていたころだったのかもしれない」と言い始めたのです。
そして、以前家族で出かけたキャンプの話を持ち出し、「また3人で行かない?」と誘ってきました。
もちろん、私は断りました。娘自身が今は母親に会いたくないと言っていたからです。元妻は「私だって母親なのに」と不満を漏らしましたが、私は、母親という立場だけで娘の気持ちを無視することはできないと伝えました。
娘の気持ちを一番に考えて
その後も元妻から何度か連絡がありましたが、娘は今のところ母親とは距離を置きたいと話しています。いつか会いたいと思う日が来れば、その思いを尊重するつもりです。
離婚したころの私は、「お金持ちと暮らすほうが娘のため」という元妻の言葉に影響され、経済的に恵まれた環境を用意することばかりに目を向けていました。もちろん、娘の将来を考えれば、経済的な余裕や多くの選択肢があることも大切だと思います。ただ、それだけでなく、娘自身が誰とどのように暮らしたいのかという気持ちにも、もっと目を向けるべきでした。
「パパと暮らしたい」
最初にそう言ってくれた娘の言葉を、もっと早く真正面から受け止めればよかったと今でも思います。
今は娘と一緒に暮らしながら、以前よりも意識して娘の話を聞くようにしています。できる範囲で将来の選択肢を広げてあげたいという思いは変わりません。それと同時に、娘が今どう感じ、何を望んでいるのかも大切にしながら、一緒に歩んでいきたいと思っています。
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子どもの将来を考える上で、経済的な余裕や選択肢の多さは大切な要素の一つでしょう。一方で、条件だけを見て「こちらのほうが幸せ」と決めてしまうと、本人が本当に望んでいることを見落としてしまうことも。今回の出来事は、環境面だけでなく、子どもの気持ちにも目を向けながら考えることの大切さを感じさせます。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※AI生成画像を使用しています
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