どうやら彼は、最初から私と結婚するつもりなどなかったようです。適当な理由をつけて、そろそろ関係を終わらせるつもりだった、と彼は続けました。
ところが私と約束していたことを忘れ、本命である婚約者と鉢合わせという最悪の形になってしまったのです。
婚約者の本性
『婚約指輪だってくれたじゃない! どうしてこんなひどいことができるの!?』と私。すぐに返ってきたのは、こちらの訴えを鼻で笑うような一文でした。
『あの指輪、ただのガラスのおもちゃだぞ?』
さらに彼は、母子家庭で育った私のことまで持ち出して見下し始めたのです。
本命の婚約者は地元企業の社長令嬢で、自分には彼女のほうがふさわしい。私は最初から「都合のいい女」にすぎなかった――。そして最後には『もう用済みだから』とまで送りつけてきました。
ただ別れを告げられただけなら、まだ受け入れられたかもしれません。しかし、結婚をほのめかして私の気持ちをもてあそんだうえ、育った環境まで侮辱する彼の態度に、私の怒りは頂点に達していました。
彼は、『夢を見るほうが悪い』『母子家庭の貧乏人なんて、本気で相手にするわけないだろ』と、最後まで私をバカにする言葉を並べ立てます。それを読んだ瞬間、彼に対する未練はきれいに消えました。
『……わかった。帰るね』
指輪も言葉も、すべて嘘だったのだと思うと情けなくなりましたが、こんな人のためにこれ以上時間を使うのはやめようと決めました。私はスマホをバッグにしまい、込み上げる怒りをこらえながら彼の家をあとにしたのでした。
義母の口止め料
その日の夜、突然、彼の母親から電話がかかってきました。
「急に連絡してごめんなさいね。今日は息子のせいで、あんなことになってしまって……」あのあと息子を問いただして事情を知ったようで、最初は申し訳なさそうに謝る義母。彼女も、息子が二股をかけていたとは思っていなかったのでしょう。
「いえ、お母さんが謝ることではありませんから。彼とはもう別れましたし」そう答えると、彼の母親の声色が急に明るくなりました。
「あら、そうなの! それなら話が早いわ」
本題はここからだったのです。
彼女が電話をしてきた本当の目的は、今回のことを誰にも話さないでほしいと頼むためでした。息子の相手として、社長令嬢である彼女のほうを選んだということなのでしょう。
口止め料のつもりなのか、「誰にも言わないと一筆書いてくれたら、こちらもそれなりのものを用意するわ」と持ちかけてきたのです。「母子家庭で育ったと聞いているし、お金が必要でしょう」とまで言われ、私は耳を疑いました。
そもそも私は、この一件を周囲に言いふらすつもりなどありません。それに、経済的に困っているわけでもありません。
そこで、お金は必要ないと断ったのですが「そんなこと言って、本当に信用できると思う?」と、彼の母親は一転して険しい口調になり、私があとから週刊誌などに話を持ち込むのではないかと疑い始めました。
地元の有力者とはいえ、週刊誌がネタにするほどでもないでしょうに……。あまりの決めつけに、思わず苦笑いがもれました。
ですが、これ以上黙って聞いているつもりはありません。「私はこのことを言いふらすつもりはありませんし、お金も要りません。私から彼に連絡することもありませんので、安心してください」
そして最後に、はっきりと告げました。「もうこれ以上、あなたたちとは関わりたくありません。これで失礼します」そう言って、私は電話を切ったのでした。
二股男の悲惨な末路
それから少しして、元彼から連絡が……。実はそのとき、私は先日彼の家で会った“本命の婚約者”と一緒にいました。
彼女は、元彼が慌てて私を追い返したことが気になったらしく、その場で義母を問い詰めて私の連絡先を聞き出し、メッセージをくれたのです。事情を説明すると、「直接話を聞きたい」と言われ、ちょうど会って話しているところでした。
そんなことを知らない元彼は、次々とメッセージを送ってきます。本命の婚約者と、“浮気相手”にされていた私が並んで見ているとも知らずに……。
『この間は焦って、お前にひどいこと言っちゃったけどさ。おかげで無事母さんにも紹介できて、あとは入籍するだけだから!』まるで何事もなかったかのような態度に、私は思わずため息をつきました。
しかも元彼は『俺なりにお前のことは愛してる』『お前だってまだ俺に未練があるんだろ?』などと勝手なことを言い始めます。
そしてトドメは、耳を疑うようなひと言。『落ち着いたら、第二夫人にしてやるから待ってろよ!』『生まれや育ちはよくないけど、顔と愛嬌は気に入ってるからな』と、どこまでも上から目線なメッセージを送ってくるのでした。
この男は、一体どこまで私を馬鹿にすれば気が済むのでしょう。
そこで私は、隣にいる彼女に目配せをして、返信しました。
『第2どころか、第1夫人もいないのに?』
意味が分からず焦ったのか、すぐに元彼から着信が入りました。私はすかさずスピーカー通話にして応答します。
「どういう意味だよ!?」と動揺する元彼。すると、私の隣からかわいらしい声が電話口に向かって響きました。
「もしもし?」一瞬の沈黙のあと、彼女は淡々と続けます。「一応、“今のところ”あなたの婚約者です」元彼は完全に言葉を失っていました。
彼女は、先日の出来事と私から聞いた話を踏まえ、すでに結論を出していました。「堂々と二股をかけるような人と結婚するつもりはありません。婚約はなかったことにさせてもらいます」「こんな人と結婚しようとしていたなんて。入籍する前にわかって、本当によかった」
それだけ言うと、彼女は元彼との通話を終わらせました。
その後——。
元彼と彼女の婚約は正式に破棄。元彼の父親も事情を知り、烈火のごとく怒ったそうです。
なんと婚約者の彼女は地元企業の社長令嬢。しかも今回の騒動は、完全に元彼の身勝手な行動が原因です。これ以上、相手の家との関係を悪化させるわけにはいかないと考えたのでしょう。元彼は父親から「うちの敷居をまたぐな!」と、家を追い出されてしまったそうです。
実家に頼りきりだった元彼は、まとまった収入も住む場所もなく途方に暮れていると、彼女から聞きました。これから、自分の甘さを実感することになるでしょう。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢
実家の肩書きや環境を鼻にかけて人を見下すだけでなく、婚約者がいながら別の相手とも関係を続けるような不誠実な行動をとっていては、人からの信頼を失ってしまうのも当然でしょう。自分の都合を優先するのではなく、相手に誠実に向き合うことが大切ですね。
【取材時期:2026年7月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。