私を無職と見下す兄の婚約者
彼女と知り合ってからしばらくたったころには、ランチに行くことも一緒に買い物に行くこともなくなりました。それどころか、彼女は私と2人きりになると、とたんに態度が冷たくなるのです。
私は両親の仕事を在宅で手伝っているのですが、家でパソコンに向かって仕事をしていることを、彼女は「実家に寄生してゲームばかりしている無職」と思い込んでいるようでした。
ある日突然、仕事をしていた私に向かって、彼女は冷笑しながら「将来私たちに面倒見てもらおうなんて思ってないよね?」と言ってきたのです。彼女は両親や兄の前では、穏やかでやさしい人。冷酷な態度は私に対してだけなので、誰も彼女の本性に気づいていませんでした。
「そんなつもりありませんよ!」と否定し、いろいろと尋ねてみると、彼女は、長男である兄がいずれ両親の会社を継ぐものと思い込んでいたようでした。さらに話を聞くうち、「彼と結婚すれば社長夫人になれると思って」と口にしたのです。
私は、両親にこのことを言おうか迷いましたが、奥手な兄がようやく見つけた結婚相手です。私さえ我慢すれば波風は立たないと思い、彼女と必要以上に関わらないようにして黙って耐えることにしたのです。
結婚式当日の控室で
いよいよ迎えた結婚式の当日――。
親族控室で私がたまたまひとりになったとき、ウエディングドレス姿の彼女がやってきました。そして、私を冷たい目で見下ろして言ったのです。
「帰れ! 義理の妹が無職とかムリ! 無職の小姑がいるなんて、親にも友だちにも知られるの恥ずかしいじゃない!」
大切な兄の晴れ舞台で帰るわけにはいかないと反論しようとしたそのとき、背後のドアが開きました。そこには、兄と両親が立っていました。彼女の冷酷な言葉を、すべて聞いてしまっていたのです。
いつもは温厚な兄ですが、このときばかりは顔色を変えました。
「なんだ今の話は……。帰るのは君のほうだ」
兄の怒りがにじんだ低い声に、彼女はハッとして振り返り、真っ青になりました。兄は、彼女が私に対してそんな態度をとっていたことにショックを受け、怒りを露わにしました。
「妹は無職なんかじゃない。うちの会社を支える立派な仕事をしている。それに、俺は今の仕事に誇りを持っているから親父の会社は継がない」
兄の言葉に彼女があぜんとする中、私も彼女の誤解を解くために口を開きました。
新婦が退場、結婚式は中止に
「両親の会社だけど、継ぐのは私です」
私は、実家で暮らしながら仕事して、後継ぎとしての勉強をしていました。もちろん、両親も兄も承知のうえ。これは家族の総意でした。
「え……てことは私、社長夫人になれないの?」
計算が狂った彼女は言葉を失いました。騒ぎを聞きつけた彼女のご両親も控室に駆けつけ、事情を知って平謝り。しかし、家族を侮辱された兄の決意は固く、「家族を見下すような人とは結婚できない」とその場で破談を告げました。彼女は泣きわめきましたが、ご両親に促され、逃げるように式場を後にしました。
幸い、結婚式に招待されていたのは親族と、仲の良い友人数名だったため、兄が事情を説明し、結婚式は急きょ中止に。兄と両親、そして彼女のご両親が招待客と式場スタッフに頭を下げて回り、その日は解散となりました。
その後、式場のキャンセルに伴う費用などについて話し合いが行われ、2人の婚約は解消されました。兄は「自分に見る目がなかった」と深く落ち込んでいましたが、結婚する前に本性がわかってよかったと、今では家族みんなで前向きに受け止めています。
◇ ◇ ◇
人の立場や価値を、職業や肩書だけで決めつけて見下す態度は許されるものではありません。まして、相手によって態度を変え、自分の利益のために結婚しようとする姿勢では、信頼関係を築くことは難しいでしょう。
また、自分が我慢すればいいと、理不尽な言動を見逃すことが、必ずしも家族の幸せにつながるとは限りません。身近な人から侮辱されたり違和感を覚えたりしたときは、ひとりで抱え込まず、信頼できる家族に早めに相談したいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。