夫も仕事で忙しいことはわかっていました。しかし、共働きにもかかわらず、家事と育児はほとんど私が担っていました。
「在宅=ラク」と決めつける夫
そんなある日、リビングの隅に娘が使ったクレヨンと画用紙が置かれたままになっていました。それに気づいた夫が「ここ、片付けておけよ」と言ったのです。
「あとで片付けるね」と私が返すと、夫はテレビのリモコンをテーブルに置きながら、不満そうに言いました。
「言われてからやるようじゃ困るんだよ。家にいるなら、ちゃんときれいにしておけよ」
その言葉に、「私だって仕事をしているのに」と言い返したくなりました。しかし、その日は揉める気力もなく、私は黙って片付けました。
ところが数日後、仕事で遅くなった夫が帰宅するなり、今度は大きな声でこんなことを言ってきたのです。
「今日はちゃんと掃除したんだろうな?」
娘はすでに寝ていたため、「娘が起きちゃうから、大きな声を出さないで」と慌てて注意した私。すると、夫は「自分の家なんだから、俺がどうしようと勝手だろ」と言い返してきたのです。
さすがに私も我慢できませんでした。
「最近、言い方がきつすぎるよ」
「私だって仕事をしながら家事も育児もしているんだよ。あなただけが働いているわけじゃないでしょ?」
私の言葉を鼻で笑った夫。
「俺は外で8時間も働いてるんだよ! お前は在宅で家にいられるんだから暇だろ? ラクでいいよな〜」
その言葉を聞いた瞬間、これ以上黙っていてはいけないと思いました。
夫に家事と育児を任せることに
その夜、私は感情的に言い争うのではなく、一度きちんと夫と話し合うことに。
夫はどうやら、「外へ出勤する自分のほうが大変で、在宅勤務の私は余裕がある」と本気で思っているようでした。そこで私は、自分の仕事についても具体的に説明しました。
「私は家にいるけれど、仕事をしているんだよ。昼間は会議もあるし、締め切りのある仕事もある。その合間に家のことをして、夕方になったら保育園へ迎えに行って、帰宅後は夕飯、お風呂、寝かしつけまでやってるよね」
そこまで言っても、夫はどこか納得していない様子でした。
わが家ではお互いの収入を細かく把握していなかったため、私は前年の収入が確認できる資料も見せました。夫は私の仕事を「家でできる気楽な仕事」程度に考えていたようでしたが、実際には私の年収は夫の約2倍。
私の正確な年収を初めて知った夫は目を見開き、「ウソだろ……。そんなに稼いでいたのか……」と呆然としていました。
もちろん、収入が多いほうが偉いと言いたかったわけではありません。ただ、在宅勤務だから仕事の負担が軽いと決めつけられることには納得できなかったのです。
「収入の額で家事の分担を決めたいわけじゃないよ。でも、私の仕事を『ラク』だと決めつけるのはやめてほしい。それでも家事や育児が大したことじゃないと思うなら、一度あなたが全部やってみて」
しばらく黙ったあと、「そこまで言うならわかった。俺ひとりでやるよ」と答えた夫。そこで、夫の平日休みに、朝から夜まで家事と育児を一通り夫に担当してもらうことにしたのです。私は普段通り別室で仕事をし、緊急時以外は手を出さないことにしました。
たった1日で一変した夫の態度
夫に家事と育児を担当してもらう日の朝のこと。夫はさっそく苦戦していました。
炊飯器の予約を忘れていたため、朝食は急きょパンに変更。しかし、娘の着替えを手伝っている間に、パンを焦がしてしまいました。
その後も、洗濯をしながら娘の身支度を整え、保育園の持ち物を確認し、連絡帳を書くという作業に四苦八苦。どうにか娘を送り届けたものの、帰宅すると朝食に使った食器が残り、洗濯物も干せていません。
娘が保育園に行っている間も朝食の片付けや洗濯、掃除など、朝に残してしまった家事に追われている様子の夫。不慣れな分、一つひとつの家事にかなり時間がかかっているようでした。
夕方には保育園のお迎えへ行き、その足で夕食の買い物へ。帰宅後は娘の相手をしながら食事を作り、お風呂に入れ、寝かしつけまでを終えて、夫はようやく一息つくことができたのです。
娘が眠ったころには、すっかり疲れ切っていた夫。そして、散らかったリビングを見ながら、ぽつりとこう言いました。
「こんなに大変だったのか……。今まで本当にごめん」
夫からの謝罪を受けた私は、その場で許すことも、逆に責めることもしませんでした。私の状況を知ってもらったうえで、今後どうしていくかを決めることが重要だと思っていたからです。
そこで、「謝って終わりじゃなくて、これからどうするか決めよう。家事と育児を一度全部書き出して、できるものを分担しない?」と提案しました。
夫も素直にうなずき、それから私たちは家事と育児の内容を洗い出しました。ゴミ出しや食器の片付け、保育園の準備など、それぞれが担当するものを決め、状況に応じて互いにフォローすることにしたのです。
もちろん、それですべてが劇的に変わったわけではありません。夫の仕事が繁忙期に入ると、私に家事が偏ってしまうこともありました。
それでも、以前のように散らかった部屋を見た夫が、私を責めることはなくなりました。手が空いていれば自分で片付けるようになり、「今日もありがとう。任せっぱなしになってごめん」と言ってくれることも増えました。家事や育児を実際に経験したことで、ようやく私が毎日何をしていたのか実感できたのだと思います。
夫婦だからといって、家事や育児を常にきっちり半分ずつにするのは難しいかもしれません。それでも、相手の負担を「大したことではない」と決めつけないことは大切なのだと、この出来事を通して感じました。
◇ ◇ ◇
在宅勤務で自宅にいるからといって、自由な時間が多いとは限りません。仕事に加えて家事や育児を担っていれば、本人にしか見えていない負担が積み重なっていることもあります。
夫婦のどちらか一方に負担が偏っていると感じたときは、「どちらが大変か」を競うのではなく、毎日の家事や育児を具体的に洗い出してみることも大切です。お互いが担っていることを知るだけでも、相手の状況を理解しやすくなり、かける言葉も変わってくるのではないでしょうか。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。