突然、秘書課へ異動することに
それまで私は営業企画部で、会議資料の作成やスケジュール調整などを担当していました。
秘書課といえば、役員の予定管理や来客対応を担う部署。自分とは縁遠いと思っていたため、なぜ私なのかと戸惑いました。
上司に尋ねても、「向こうからぜひ来てほしいと言われている。詳しいことは異動してから聞いてくれ」と言われるだけ。理由がわからないまま異動を受け入れることになりましたが、ひとつだけ心強いことがありました。
秘書課には、以前私のトレーナーを担当してくれた男性の先輩・A男さんがいたのです。入社当時、仕事の進め方を一から教えてくれた人で、現在は社長秘書を務めています。
なぜ私が秘書課なのか疑問は残りましたが、信頼している先輩とまた一緒に働けることは、素直にうれしく感じました。
秘書課で待っていたのは…
異動初日。秘書課であいさつをすると、ひとりの女性社員が私を上から下まで眺め、思わず吹き出しました。
「そんな地味な見た目で秘書って……」
周囲の女性たちもクスクスと笑います。さらに、「私たちは役員と一緒にお客様の前に出ることもあるから、見た目にもかなり気をつかっているの」「あなたも、これからは頑張ろうねぇ?」と、嫌味を重ねてきました。
「あなたは秘書課にはふさわしくない」と言われているようで、正直、居心地の悪さを感じました。
気を取り直して自分の担当について尋ねると、彼女たちも何も聞いていないようです。するとひとりが、「じゃあ、私たちの秘書にでもなってもらおうかな。コピーとか頼みたいこといっぱいあるし」と笑いました。
周囲もつられて笑います。冗談めかした言い方でしたが、明らかに私を下に見ていることは伝わってきました。
「なんであなたが社長秘書なの!?」
そのとき、奥にある社長室の扉が開きました。出てきたのは社長と、A男さんです。女性たちは先ほどまでとは一転、すぐに笑顔で社長へあいさつしました。
すると社長は私を見て、「もう来ていたんだね」と声をかけ、A男さんに今日から引き継ぎを始めるよう伝えました。
何の引き継ぎだろうと思っていると、社長から思いがけない話を聞かされたのです。
私は、月末で退職するA男さんの後任として、社長秘書を務めるために異動してきたというのです。その話を知らなかった私はもちろん、女性たちも絶句。
「えっ!? なんであなたが社長秘書なの!?」
先ほどまで笑っていた女性が、思わず声を上げました。どうやら、A男さんが退職すること自体、まだ一部にしか知らされていなかったようです。
私が抜擢された理由
さらに話を聞くと、社長秘書の後任に私を推薦してくれたのもA男さんだったのです。
A男さんは、私のトレーナーだったころから、丁寧に確認しながら仕事を進める姿勢や、急な変更にも落ち着いて対応するところを評価してくれていたそうです。
別の部署になってからも私の仕事を見る機会があり、「仕事を任せるなら彼女がいい」と推薦してくれたとのこと。社長もこれまでの評価を確認したうえで、後任に決めてくれたそうです。
そして社長は、驚いたままの女性たちに「秘書に必要なのは見た目の華やかさではなく、正確さや気配り、安心して仕事を任せられるかどうかだ」と告げました。
さらに、「彼女は君たちの雑用をするために来てもらったわけじゃないよ」とひと言。先ほどの会話を聞かれていたと気づいたのか、女性たちは気まずそうに黙り込みました。
その後、私はA男さんから引き継ぎを受け、正式に社長秘書として働き始めました。
自分では当たり前だと思って続けてきたことでも、きちんと見て評価してくれる人がいるのだと知り、大きな自信になりました。これからも、目の前の仕事に誠実に向き合っていきたいと思います。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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