それは、義母がほとんど毎日のようにわが家へやって来ることでした。
「さあ、今日も嫁を教育するわよ! ビシバシいくわよ〜!」
義母はそう言って家事のやり方を細かく指示し、長いときには2〜3時間も滞在。在宅勤務の私は、そのたびに仕事を中断することになり、義母が帰ったあとに遅れを取り戻す日々が続いていたのです。
「嫁教育」と言って押しかける義母
結婚して間もないころから、頻繁にわが家を訪れるようになった義母。
ある日のお昼過ぎにも、インターホンが鳴りました。玄関を開けると、そこには当然のような顔をした義母が立っています。
家に上がった義母はリビングへ入るなり、「先輩の言うことは絶対よ!」「ほら、洗濯物を畳みなさい。タオルは三つ折り、角はピシッとそろえて!」と、さっそく家事の指導を始めました。
私は仕事の途中だったため、本当はすぐにパソコンの前へ戻りたかったのですが、義母に反論すると話が長くなることはすでにわかっていました。そのため、「早く仕事に戻りたい……」と思いながらも、義母に従っていたのです。
結婚してからずっと、押しの強い義母にうまく意見を言えずにいた私。しかし、仕事を中断させられ、家事のやり方まで細かく指図される生活が続くうちに、少しずつ気持ちがすり減っていきました。
その日の夕方、帰宅した夫は、テーブルに残っていた湯のみを見て察したようでした。
「また母さん来たの?」
「うん。今日も2時間くらい。途中で仕事の打ち合わせがあったから、間に合うかヒヤヒヤしたよ……」と私がため息交じりに答えると、夫はすぐに義母へ電話をかけてくれました。
「妻も仕事があるんだから、連絡もせずに突然来るのはやめてくれ」
夫がはっきり伝えてくれたものの、義母は、「はいはい、わかったわよ」と軽い調子で答えただけだったそう。
案の定、翌日も義母はやって来ました。しかも、その日は私が仕事をしている横でくつろぎ始め、いつの間にかリビングでうたた寝まで……。
そのまま夕方になり、夫が仕事から帰宅。わが家で昼寝をしている義母を見た夫は、さすがに我慢できなかったようでした。
「母さん、いい加減にしてくれ!」
「ここは俺たちの家だし、妻の仕事の邪魔までしてるんだぞ!」
夫に強く言われ、その日は義母もすぐに帰っていきました。
しかし、夫が注意した翌日にも同じことを繰り返した義母を見て、このままでは状況は変わらないと思いました。そこで、精神的な限界が近づいていた私は、ただ我慢して義母が帰るのを待つ生活を終わらせようと決めたのです。
義母に対抗できる相手
私が頼ったのは実母。その日のうちに、私は母にこれまでの事情を話しました。
義母が頻繁に突然やって来ること。在宅勤務中でも家事をさせようとすること。そして、「嫁教育」と称して自分のやり方を押し付けてくること……。
話を聞いた母は、「それは困るね。一度、私も一緒に話そうか」と言ってくれました。
義母と2人きりでは、また言いくるめられてしまうかもしれません。そこで私は母に家へ来てもらい、義母が普段どのように接してくるのかを実際に見てもらったうえで、一緒に話をしてもらうことにしました。
数日後、義母から「今日の午後に行く」と連絡がありました。夫から強く注意されたことで、事前連絡だけはするようになったようです。私は母にも連絡し、義母が来る時間に合わせて家へ来てもらいました。
母がいることを知らない義母は、いつもの調子で、「さあ! 今日もビシバシ嫁教育するわよ♡」と言いながら入ってきました。
私から「今日はイチから教えてもらえますか?」と言ったこともあり、義母は私がようやく素直になったと思ったのか、ご機嫌に。
「やっとわかったのね。まずは洗濯からよ!」
そう言って、洗濯物の扱い方から畳み方、収納の仕方まで、自分のやり方を次々と説明し始め、私がおこなう手順はすべて「まったくやり方がなってない! これだから新米主婦はダメなのよ」と否定されたのです。
私はしばらく聞いたあと、こう尋ねました。
「でも、家庭によってやり方は違いますよね? 私は母から別の方法を教わりましたし、今のやり方で困ったことはありません」
すると「でも、嫁いだんだから夫の家のやり方に合わせるものでしょ?」と言った義母。その言葉を聞いたところで、私は別室で待機していた母に合図を出しました。母にも話し合いに加わってもらうことにしたのです。
突然現れた私の母に、義母は驚いた様子。一方の母は義母を責め立てるのではなく、冷静に尋ねました。
「家事のやり方はいろいろありますよね。この子たちが困っていないのなら、自分たちのやり方で暮らしてもいいんじゃないでしょうか」
そして、「それよりも、仕事をしている時間に何度も訪ねてこられるほうが、娘にとっては負担になっているみたいですよ」とはっきり伝えてくれました。
母の言葉に背中を押されて、私も自分の気持ちを義母に話しました。
「お義母さんに教えていただかなくても、家のことは夫と相談しながらできています」
「それに、私は家にいても仕事中の時間があります。突然来られたり、長時間滞在されたりすると、仕事にも影響が出てしまうんです」
さらに、「何か困ったことがあればこちらから相談します。それ以外のときは、私たちの生活を見守ってもらえませんか?」とお願いしました。
すぐには返事をせず、しばらく黙り込んでしまった義母。一方の私は、初めて自分の口からきちんと気持ちを伝えられたことで、少しだけ肩の力が抜けていました。
帰宅した夫が義母に放った一言
重たい空気の中、夫が帰宅。私と母から事情を聞いた夫は義母に向かって、「母さんが心配してくれているのはわかる。でも、家のことは2人でちゃんとできてるよ。俺も困ってない。それなら、何をそんなに教えなきゃいけないの?」と言ってくれました。
夫の言葉に続けて、私は改めて義母にお願いしました。
「これから来るときは、事前に連絡をください。それから、私が仕事をしている時間は避けてもらえると助かります。長時間の滞在も控えてほしいです」
夫も、「俺からもお願いするよ。ここは俺たち夫婦の生活の場だから」と伝えてくれました。
これまで息子から注意されても、頻繁にわが家を訪れることをやめなかった義母でしたが、私の母からも指摘され、さらに私自身からもはっきり気持ちを伝えたことで、さすがに思うところがあったようです。
「……わかった。これからは勝手に行かないようにする。行くときは連絡するし、長居もしないから」と、義母は約束してくれました。
その日を境に、義母が頻繁にわが家へやって来ることはなくなりました。
もちろん、義母との付き合いがなくなったわけではありません。時々家へ遊びに来ることはありましたが、事前に予定を確認してくれるようになり、「嫁教育」と言って家事の指導をされることもなくなりました。
私も仕事のペースを乱されることがなくなり、ようやく夫との穏やかな新婚生活を取り戻せたのでした。
◇ ◇ ◇
家族であっても、それぞれの生活や守りたい時間があります。相手を思っての行動だったとしても、自分のやり方や価値観を一方的に押し付けてしまえば、負担になってしまうこともあるでしょう。
今回のようなケースでは、夫婦で認識をそろえたうえで、来訪時のルールやお互いに心地よく付き合える距離感を具体的に伝えることが大切なのかもしれません。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。