大腸がんが増えている背景と主なリスク要因

「症状がないから、きっと大丈夫」。診察室でも、そう笑顔で話される患者様によくお会いします。しかし実は、大腸がんの初期はほとんど自覚症状が出ないことが多く、この「症状がない安心感」こそが、発見を遅らせてしまう一番の落とし穴なのです。なぜ大腸がんはこれほど増えているのでしょうか。
私はよく診察室で、腸の粘膜を「毎日水を流し続けるゴムホースの内側」に例えてお話しします。ゴムホースも、汚れた水や強い刺激が長年流れ続けると、内側から少しずつ傷み、劣化していきますよね。大腸の粘膜も同じで、脂肪の多い食事や運動不足、過度な飲酒などの刺激が積み重なることで、細胞に小さな傷(ポリープ)ができ、それが長い年月をかけてがん化していくことがあるのです。
本当に注意すべきポイントは、大腸がんは生活習慣との関連が非常に深く、裏を返せば「生活を整えることでリスクを下げられる部分が多いがん」だという点です。では、具体的にどのような点を見直せばよいのか、次に見ていきましょう。
食事・運動・飲酒・喫煙…生活の中で見直したいポイント

「食事にも気を付けているし、お酒もほどほど。ジムにも行っている」—そう思っている方も多いのではないでしょうか。実は、大切なのはどれか一つを完璧にすることではなく、体重・食事・飲酒・喫煙・運動という複数のポイントを、少しずつ整えていく視点です。
1、肥満とBMI—実は一番手をつけやすいポイント
「体重が少し増えたくらいで、がんの話は大げさでは」と感じる方も多いのではないでしょうか。実は、肥満は大腸がんの確立されたリスク要因の一つで、国立がん研究センターの研究では、BMIが高くなるほど大腸がん(特に結腸がん)のリスクが高くなる傾向が示されています。
BMIは「体重(kg)÷身長(m)の2乗」で計算でき、日本肥満学会の基準ではBMI25以上が「肥満」にあたります。これは、いわば体という車にどれだけ荷物を積んでいるかを示す「積載量メーター」のようなものです。荷物が多いほどエンジン(内臓)への負担も大きくなる、とイメージしていただくとわかりやすいかもしれません。
食事や飲酒、運動といった項目は「何を、どれだけ」と細かく管理が必要ですが、体重・BMIは体重計に乗るだけで確認でき、変化も数字ですぐに実感できます。だからこそ、数ある生活習慣の中でも、一番行動に移しやすく、成果も見えやすいポイントだと言えます。まずは体重計に毎朝乗る習慣から始めてみるのも、立派な第一歩です。
2、食事
世界がん研究基金の報告では、赤肉(牛・豚・羊肉)は週500g未満(調理後重量)、加工肉(ハム・ソーセージなど)はできるだけ控えることが推奨されています。赤肉や加工肉を、いわば「腸にとっての油汚れ」と考えてみてください。少量なら問題なくても、蓄積すればするほど粘膜への負担は大きくなります。
食物繊維は1日20g以上を目標にしたいところです。とはいえ、いきなり大きく変えようとする必要はありません。階段を一段ずつ上るように、野菜・海藻・きのこ・豆類を毎食に一品ずつ加えていくイメージで十分です。
また、腸内環境を整えるという意味では、食物繊維だけでなく乳酸菌のようなおなかにうれしい成分もあわせて摂ると理想的です。忙しい朝や外食が続く日には、乳酸菌と食物繊維を一緒に摂れるドリンクを一本取り入れてみるのも、無理なく続けられる工夫の一つです。
3、飲酒
飲酒については、国立がん研究センターの研究で、1日あたりの純アルコール量が15g増えるごとに大腸がんリスクが約10%ずつ上昇するという、量に応じたリスク上昇が確認されています。
つまり「この量までなら絶対に安全」という明確な境界線があるわけではなく、飲む量が少ないほど、腸への負担も小さくなるとイメージしていただくとよいでしょう。
4、喫煙
喫煙は大腸がんを含むさまざまながんや、心筋梗塞・脳卒中などのリスクにも関係します。禁煙は大腸だけでなく、全身の健康を守る上でも重要です。
5、運動
運動については、週150分程度の早歩きなどの中強度の運動が目安です。運動は腸の動き(蠕動運動)を助け、便が腸内にとどまる時間を短くしてくれます。
大切なのは無理な我慢をしないことです。すべてを一度に変えようとせず、まずは腸内環境を整えたり、体重を毎日測る、加工肉を週1回減らすなど、優先順位をつけて一つずつ取り組んでみてください。では、こうした生活改善と並行して欠かせない検診について、次にお話しします。
検診の受け方と、「検査が怖い」気持ちとの付き合い方

「大腸がんの検査は、便潜血検査や内視鏡だけ」と思われるかもしれませんが、実は毎年の健康診断も無関係ではありません。血液検査の貧血の項目は、自覚症状のない出血のサインとして表れることがあり、「ここ数年、貧血気味と言われ続けている」という場合は、体からの小さな知らせかもしれません。
まずは普段から健康診断を継続的に受けておくことが、体の変化に早く気付く土台になります。そこに大腸がん検診を組み合わせることで、より直接的にリスクを下げることができます。便潜血検査は、国の指針でも死亡率減少効果が認められた検査で、40歳から年に1回受けることが推奨されています。
【質問】
大腸の検診は怖いですか?
【回答】
多くの方がイメージされるのは内視鏡検査だと思いますが、まず最初におこなう便潜血検査は、自宅で便を採取するだけの、痛みのない簡単な検査です。これは、いわば腸からの「通知表」のようなもので、目に見えない微量の出血をチェックします。
この検査で陽性が出た場合には、大腸内視鏡検査という「答え合わせ」に進みます。「陽性=がん」というわけでは決してなく、多くはポリープや痔などが原因ですので、過度に心配しすぎる必要はありません。なお、内視鏡検査は医療機関によって扱っている場合と扱っていない場合があり、便潜血検査の結果次第では、内視鏡検査が可能な医療機関への受診が必要となります。
【質問】
内視鏡検査そのものは痛いですか?
【回答】
内視鏡検査をおこなう医療機関の多くでは、鎮静剤を使用するなど、痛みや不安を和らげるための方法が用意されています。痛みの感じ方には個人差がありますので、検査を受ける際には、事前にどのような配慮があるか確認しておくと安心です。
【質問】
家族に大腸がんの人がいるのですが、検診の頻度を変えるべきですか?
【回答】
血縁者に大腸がんの既往がある場合、リスクが高くなる可能性があるため、開始年齢や頻度について主治医と相談することをおすすめします。
検査が怖いという気持ちは、決して恥ずかしいものではありません。その気持ちを主治医に率直に伝えていただくことも、立派な予防の一歩です。次に、具体的な行動に落とし込んでいきましょう。
今日から始める、無理のない小さな一歩

「わかってはいるけれど、続けられるか自信がない」と感じる方も多いのではないでしょうか。実は、行動を変えるコツは「意志の強さ」ではなく「仕組み化」にあります。すでにある毎日の習慣に、新しい行動をひとつだけ足す。これだけで、続けやすさは大きく変わります。
以下の中から、まずは1つだけ選んで、1週間試してみてください。全部を一気にやろうとする必要はありません。
・体重の見える化:
毎朝、歯磨きの前に体重計に乗る。数字はメモやアプリに残すだけで十分です。
・日々の食事にひと工夫:
料理を作る前に、乳酸菌や食物繊維を含む食材を一品入れられないか考える。
・休肝日をカレンダーに:
週に1日だけ「お酒を飲まない日」をあらかじめ決めて、カレンダーに書き込む。
・一区間だけ歩く・階段を使う:
通勤や買い物のついでにできる範囲で構いません。
これらに共通するコツは、「〇〇する前に、△△する」という形で、すでにある生活リズムに結びつけることです。例えば「夕食を食べる前に体重計に乗る」と決めてしまえば、わざわざ思い出す必要がなくなります。 1つの行動が3週間ほど自然にできるようになったら、次の一歩を加えていく。このくらいのペースで十分です。大切なのは、完璧を目指すことではなく、続けられる仕組みをつくることです。
まとめ
大腸がん予防は、特別な健康法を始めることよりも、「少しずつ生活を整える」ことの積み重ねです。
「今日、体重を測った」「お通じを意識する食事に変えた」「いつもより10分多く歩いた」、そんな小さな選択の一つひとつが、数年後のあなたの腸を守ることにつながります。
なお、生活習慣とリスクの関係には個人差があり、本記事の内容がすべての方に当てはまるわけではありません。気になる症状や不安がある場合は、早めに医師にご相談ください。検診で早期のサインを見逃さず、生活習慣で日々のリスクを減らしていく。この両輪を今日から少しずつ回していくことが、何年か先のあなたの安心につながっていきます。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。
※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。
監修:内科医 橋本将吉 先生(西新宿セルフライフ内科クリニック院長)
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