気づかいのできる息子の妻
息子が結婚してから、A子さんは時々、「お義母さん、何か困っていることはありませんか?」とわが家へ顔を出してくれるようになりました。買い物のついでに立ち寄ってくれたり、重い物を運ぶのを手伝ってくれたりすることもあり、私は「すてきなお嫁さんが来てくれた」と喜んでいました。
わが家へ来ると、A子さんは部屋に飾ってある置物や食器にもよく目を留め、「これ、すてきですね」「珍しいデザインですね」と声をかけてくれました。
実は、そうした品の多くは亡くなった夫が買ってきたものです。夫は商社に勤めており、海外出張の機会が多く、現地で置物や食器などをお土産に買ってきてくれることがありました。今もわが家には、そのころの品がいくつか残っています。A子さんは特にそうした海外の品に興味があるようでした。
ある日、A子さんは「この置物、すてきですね。海外の物ですか?」と言って、棚に飾っていた置物を指さしました。私は「ええ。昔、夫が出張先で買ってきたものなの。正直、当時から私の好みではなかったんだけどね。でも、せっかく買ってきてくれたから飾っているのよ」と答えました。
すると、A子さんは「こんなにすてきなのに、もったいない」と言いました。そこまで気に入ってくれたのならと思い、私は「それなら、よかったら持っていく?」と尋ねました。
「本当にいいんですか? 大切にします!」
A子さんがうれしそうに答えたため、その置物を譲ることにしました。
その後も、A子さんが「すてきですね」「私もこういうのが欲しかったんです」と気に入った様子を見せた食器や小物の中から、私自身が手放しても構わないと思った物をいくつか譲りました。
亡き夫が買ってきた思い出の品ではありましたが、私の好みではなく、長年何となく飾り続けていた物もありました。A子さんが気に入って大切に使ってくれるなら、夫も喜ぶかもしれない。私はそんなふうに考えていたのです。
息子が打ち明けた結婚後の違和感
それからしばらくたったある夜、息子がひとりでわが家を訪ねてきました。
「母さん、ちょっとA子のことで相談してもいい?」
息子によると、結婚後、家計について話し合うため、お互いの貯蓄を改めて確認したところ、A子さんから結婚前に聞いていた額より、実際の貯金はかなり少なかったそうです。
「お金が少ないことを責めたいわけじゃないんだ。ただ、結婚する前に聞いていた話と違っていたことが気になってさ」
さらに一緒に暮らし始めると、息子はA子さんのお金の使い方にも戸惑うことが増えたといいます。家具や家電を選ぶ際、あらかじめ予算を決めていても、「せっかくならこっちがいい」と、数万円単位で高い商品を選びたがることがたびたびあったそうです。
まだ使える物があっても、より気に入った物を見つけると買い替えたがることもあり、息子が「今ある物を使えばいいんじゃない?」と言っても、「欲しい物を我慢するのは嫌」と譲らないこともあったとのこと。
もちろん、高価な物を選ぶこと自体が悪いわけではありません。ただ、貯金について聞いていた話との違いもあり、息子は次第にA子さんとの金銭感覚の差が気になるようになったのだとか。
私は、「結婚して一緒に暮らし始めたからこそ見えてくることもあるでしょう。まずは2人でよく話し合ってみたら?」と伝えました。息子も、「そうだよな。俺が気にし過ぎているのかもしれない」と帰っていきました。
私もその時点では、夫婦のちょっとした価値観の違いだと思っていました。
ところが後日、A子さんに譲った品をめぐって、私も思いがけない事実を知ることになったのです。
譲った置物について尋ねると
ある日、息子夫婦の家を訪ねたときのことです。何げない会話の中で、以前A子さんに譲った置物のことを思い出しました。
「そういえば、あの置物、気に入ってくれてる? どこかに飾ってくれているの?」
何げなく尋ねると、A子さんは一瞬黙り込みました。
「あの……今は家にないんです」
私が「え? どういうこと?」と聞き返すと、A子さんはしばらく言いづらそうにした後、「実は、売ったんです」と打ち明けました。
思いがけない返事に、私は驚きました。A子さんによると、持ち帰った後に置物について調べたところ、思っていたより価値がありそうだとわかり、買い取り店へ持っていったそうです。
確かに、一度譲った以上、私もその後の扱いにまで口を出すつもりはありませんでした。それでも私は、A子さんが「大切にする」と喜んでくれたからこそ、亡き夫が買ってきた品を譲ったのです。最初から売るとわかっていたら、渡してはいなかったでしょう。
そう伝えると、A子さんは「最初から売るつもりだったわけじゃないんです。調べたら思ったより値段がついたので……」と説明しました。
その言葉を聞いて、私はふと、これまでに譲ったほかの品のことが気になりました。
「もしかして、ほかに渡した物も売ったの?」
A子さんは少し言いづらそうに、「いくつかは……」と答えました。置物だけでなく、A子さんが気に入った様子を見せていた食器や小物も、すでに売っていたというのです。A子さんによると、いずれも受け取った当初は自宅で使うつもりだったものの、後から価値を調べ、そのうちいくつかを売ったそうです。
私は、品物を手放したことそのものより、大切に使ってくれると思って譲った自分と、A子さんとの受け止め方の違いに寂しさを感じました。
「でも、もらった後にどうするかは、私の自由ですよね」
A子さんの言うことにも一理あります。だからこそ、私は責めるのではなく、自分の気持ちだけを伝えることにしました。
「そうね。でも私は、あなたが気に入って使ってくれると思ったから譲ったの。どうやら、私が渡したときの気持ちと、あなたが受け取ったときの気持ちは少し違っていたみたいね」
私がそう伝えると、A子さんは黙り込みました。
家族でも価値観は同じとは限らない
その後、私は息子にもA子さんとのやりとりを話しました。息子は驚いたようで、A子さんと改めて、お金の使い方や家族との付き合い方について話し合ったそうです。
すると、物に対する考え方だけでなく、貯蓄や今後の生活についても、お互いが当たり前だと思っていたことに大きな違いがあることがわかったのだとか。その後も何度か話し合いを重ねたものの、すぐには折り合いがつかず、2人は今後の関係について改めて考えることになったそうです。
私は息子夫婦の問題について、どちらか一方の味方をするつもりはありません。また、私自身がA子さんに譲った以上、その品をその後どう扱うかまで口を出すつもりはありません。それでも、「大切にする」と言って受け取った品が次々と売られていたと知ったとき、寂しく感じたのも事実です。
今回の出来事を通して、物を譲る側と受け取る側では、その品に対する思いが必ずしも同じとは限らないのだと気付きました。私にとっては亡き夫との思い出が残る品でも、A子さんにとっては、譲り受けた後は自由に扱える物だったのでしょう。
家族だからこそ、同じ言葉でも受け止め方が違うことがあります。今回の経験から私は、言葉にして伝えたつもりでも、その思いまで同じように伝わるとは限らないのだと感じました。
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家族の間でも、物に対する価値観や思い入れはそれぞれ異なります。善意で譲った物だからこそ、扱われ方を知って寂しく感じることもあるでしょう。今回の出来事は、親しい相手であっても、自分にとって大切なことや譲る際の気持ちは、言葉にして伝えることの大切さを考えさせられるエピソードでした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※AI生成画像を使用しています
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