義父は少し気難しい人だったのであまり交流はなく、夫も距離を置いていたのです。
そんなある日、夫が血相を変えて帰ってきました。
「親父が転んだらしいんだ! もしかして介護が必要になるかもしれないって病院から電話が来た」
思いがけない言葉に、胸の奥がざわつきました。
まさかのお願いに、妻は?
数日後のことです。帰宅した夫が、
「頼む! 一生のお願いだ! 実家で同居して、親父を介護してくれ!」と言ってきました。
こういう展開になるのではないかと、ここ数日の間で考え続け、覚悟していた私は、「わかった。お義父さんをみられるのは、私たちしかいないもんね」と答えました。
夫は涙ぐむほど感謝してくれました。私はパートを辞め、夫は会社に支店への異動を申し出て、義実家で同居・介護生活を始めることになったのです。
そう、私たちの新しい生活が始まるはずでした。
ありえない……衝撃の裏切り
ところが引っ越し当日、驚くべき事実が明らかになりました。引っ越し業者が荷物を積み込んでいる最中、夫が「実は俺、まだ異動届が受理されてないんだよ。俺も絶対すぐ追いかけるから、親父のこと、よろしくな!」と言うのです。
耳を疑いました。義父の介護を私ひとりでやれってこと? 義父とふたり暮らし? ありえない……!!!
引っ越し当日まで言わないなんて……。そんな後出しじゃんけんは、許せません。
ただ、義父を放っておくこともできず、裏切られた怒りと悲しさでいっぱいのまま義実家へと向かい、ひとりで介護することにしました。
義父との日々
玄関で迎えてくれた義父の顔は、思ったよりも穏やかでした。介護は決して楽ではありませんでしたが、ヘルパーさんの力を借りながら、少しずつ慣れていきました。
「母親や妻を早くに亡くしたから、女性との接し方が分からないんだ」
義父の本音を聞いたとき、これまでの冷たい態度の理由がわかり、胸のつかえが少し軽くなりました。気難しいと思っていた義父と少しずつ打ち解け、不器用なやさしさを見つけたのです。
しかし、私は夫の裏切りが心の傷となっていました。私は夫と結婚したのに、今は介護要員として仕事までやめて、義実家で義父とふたり暮らし。「すぐに行く」といいつつ、なかなか来ない夫。「騙された」「利用された」というショックで、夫に対しての怒りが消えることはありませんでした。
「数カ月以内にこちらに越してこないなら、離婚しましょう」
離婚を突きつけられて焦った夫は、週末ごとに片道数時間かけて義実家へ通い、手料理を作ったり介護を交代したりと、必死に自分の非を認め行動で示してくれました。
家族のかたち
やがて夫はこれまでの態度を深く反省し、私と義父に謝罪しました。正式に異動が決まり、3カ月ほど遅れてようやく三人での生活が始まりました。夫も積極的に介護を担当し、夫婦で協力し合える平穏な日々を取り戻したころ、新しい命の授かりが判明したのです。夫も義父も大喜びし、妊娠中もふたりで私を温かく支えてくれました。
そして無事に元気な赤ちゃんを出産。一度は離婚も考えましたが、あのとき耐えて踏みとどまってよかったと思っています。新しい家族が増え、賑やかになった我が家で、試練を乗り越えたからこそ家族の絆は強く結ばれたのだと感じています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。