1年後、あの女性とまさかの再会
それから1年後。偶然入った美容院で私を担当してくれた女性から、突然こう声をかけられました。
「もしかして、あなた……あの日、傘を貸してくれた方ですか?」
なんと、あの雨の日の女性だったのです。話をするうちに、あの日彼女が急いでいたのは、保育園から「幼い息子がケガをした」と連絡を受けていたからだと知りました。
それから私は、月に1度ほどのペースでその美容院に通うようになりました。何度か話をするうちに、彼女は夫を亡くしたあと、美容師として働きながら、ひとりで子どもを育てていることも知りました。あの雨の日、彼女は私の顔を見て驚いていたそうです。亡くなったご主人にどこか似ていたらしく、その日の出来事をスマホの日記にも残していたのだとか。
通ううちに、休日に店へ顔を出していた彼女の息子とも、少しずつ打ち解けていったのですが……。
「新しい父親は不要!」義母が放ったひと言
それからしばらく経ったある休日、私が美容院を訪れていると、私たちが親しくしていることを知った亡き夫のお母さんが店にやってきました。その日は彼女の息子も店にいて、ほかにお客さんはいませんでした。するとお母さんは「息子を忘れて再婚するつもり!?」「孫に新しい父親なんて必要ないわ!」と、大きな声で彼女を責め始めたのです。
突然のことに、彼女は言葉を失ってしまいました。すると、そばで聞いていた彼女の息子が、ぽつりとひと言。
「ママがたくさん笑ってるの、僕うれしいよ」
そのまっすぐな言葉に、お母さんはハッとしたように黙り込みました。そこで私も、「ご主人のことを忘れてほしいなんて、僕は思っていません。ただ、これから先、彼女たちのことを大切にしていきたいんです」と、自分の気持ちを正直に伝えました。
「今日は…」意を決して美容院へ
その出来事をきっかけに、私は彼女への思いをきちんと言葉にして伝えたいと思うようになりました。そして後日、意を決して美容院へ向かいました。
「今日、髪を切りに来たんじゃなくて……」
少し緊張しながらそう切り出すと、彼女はその先の言葉を察したように、ふわりと笑いました。その笑顔を見て、これからも彼女と息子の笑顔をそばで見ていたいと、心から思ったのでした。
◇ ◇ ◇
亡くなった大切な人との思い出を大事にしながら、新しい幸せに目を向けることもあるでしょう。周囲が良し悪しを一方的に決めつけるのではなく、本人や子どもの気持ちを尊重しながら、これからを見守っていきたいですね。
【取材時期:2026年9月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。