兄と一緒に結婚のあいさつへ
両親を亡くした当時、私はまだ小学生でした。
兄はそのころ高校に通っていましたが、家計を支えるために中退。その後は働きながら私の生活を支え、いつも不自由がないよう気にかけてくれました。もちろん親戚にも助けてもらいましたが、私が大学まで進学できたのも兄のおかげだと思っています。
そんなある日、交際していた彼からプロポーズを受けました。
兄に報告すると、自分のことのように喜んでくれました。兄と彼は以前から何度か会っており、私たちの結婚にも賛成してくれていたのです。
その後、彼の両親との顔合わせをすることに。両親がいない私にとって、兄は家族を代表して出席してくれる大切な存在でした。
当日、最初は穏やかに会話していたものの、しばらくすると彼の父が自分の会社について話し始めます。
彼の父は会社を経営しており、「うちは大手とも取引している」「会社をここまで大きくするのは簡単じゃなかった」などと、何かにつけて自慢げに話していました。
「中卒が身内なんて恥だ!」
やがて話題は兄の経歴へ。兄が「高校には通っていましたが、家庭の事情で途中で辞めました」と答えると、彼の父は驚いたように聞き返しました。
「じゃあ、最終学歴は中卒なのか?」
兄がうなずいた途端、露骨に表情を曇らせます。
「中卒が身内になるなんて、恥ずかしい。息子はいずれ会社を継ぐ立場だ。悪いが、そんな経歴の人が身内になる結婚は認められない」
私は耳を疑いました。兄が高校を辞めたのは、私を支えるためです。それなのに事情を理解しようともせず、学歴だけで見下す態度が悔しくてたまりませんでした。
彼の父はさらに、「社会では学歴も信用のひとつだ。うちが付き合うような会社の経営者に、中卒なんて聞いたことがないよ」と続けました。彼が「いい加減にしろよ!」と止めても、父親は悪びれる様子もありません。
その間、兄は黙って話を聞いていました。そして、静かに口を開いたのです。
「そうですか。それなら……御社とうちの会社は、あまり相性がよくないのかもしれませんね」
「どういう意味だ?」と不思議そうにする彼の父へ、兄は名刺を差し出しました。
名刺を見た義父の顔色が一変
名刺を見た瞬間、彼の父の表情が固まりました。
実は兄は、長年働いて経験を積んだあとに起業し、現在は会社を経営しています。そして少し前から、私も兄の会社で働いていました。
もちろん彼は、私が兄の会社で働いていることも、兄が会社を経営していることも知っていました。ただ、彼の父には私や兄の仕事について詳しく話していなかったようです。
そして偶然にも、兄の会社と彼の父の会社では新規取引の話が進んでいたのです。まだ正式契約前で、担当者同士が条件を詰めている段階。彼の父も会社名は知っていたものの、代表者である兄とは会ったことがありませんでした。
「まさか……あなたがあの会社の社長?」
兄はうなずき、「今日のお話を聞いて……御社と長くお付き合いしていけるのか、一度考え直す必要がありそうですね」と告げました。
すると彼の父は慌てて、「さっきのは言いすぎた」と言い訳を始め、さらには「こんな立派なお兄さんがいるなら安心だ」と手のひらを返したのです。彼もあきれ、「肩書きを知った途端に態度を変えるのかよ」と怒っていました。
その後、契約は…
兄は後日、先方の担当者に今回の出来事を伝えたうえで、改めて取引について話し合ったそうです。もともと金額やスケジュールなど条件面で折り合っていない部分もあり、最終的に契約は見送られることになりました。
その後、兄は私に「ごめんな。俺のせいで話がややこしくなってしまって」と申し訳なさそうに言いました。
けれど、私はすぐに首を振りました。兄は何も悪くありません。むしろ、私のために高校を辞めて働き、ずっと支えてくれた兄を見下されたことのほうが、私にはずっとつらかったのです。
「お兄ちゃんは悪くないよ。私はずっと、お兄ちゃんのことを誇りに思ってる」
そう伝えると、兄は少し照れくさそうに笑っていました。
彼も父親に、「僕たちの結婚は自分たちで決める。これ以上、彼女やお兄さんを見下すようなことは言わないでほしい」と、はっきり伝えてくれました。
その後、私たちは予定どおり結婚し、兄にも見守られながら無事に挙式を迎えることができました。
学歴だけでは、その人がどんな人生を歩み、何を積み重ねてきたのかまではわかりません。改めて、私にとって兄はずっと誇れる存在だと思った出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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