自宅にいる間、ほとんどずっとスマホを見ている夫。食事中でさえ画面から目を離さなかったため、夫婦の会話はほとんどありませんでした。
私が話しかけても、返ってくるのは「うん」「そうなんだ」といった生返事ばかり。あとで同じ話をすると、初めて聞いたような反応をされたことも一度や二度ではありません。
その一方で、帰宅時間や夕食が必要かどうかを尋ねるメッセージには、なかなか返信してくれませんでした。いつもスマホを触っていたのに、肝心な連絡だけは見落とす夫に、私は何度も腹を立てていました。
妻よりスマホが大事な夫
ある日、我慢の限界を迎えた私は、食事中の夫からスマホを取り上げました。
「食事のときくらい、こっちを見て話してよ」
そう伝えれば、少しは反省してくれると思っていました。しかし夫は、私の手からスマホを取り返すと、ものすごい剣幕で怒鳴ったのです。
「勝手に触るなよ! 返せ!」
もちろんスマホを取り上げた私にも非はありましたが、そこまで激怒されるとは思わず、私はすっかり気持ちが冷めてしまいました。それ以降は注意することさえ虚しくなり、夫がスマホを見ていても放っておくようになりました。
助けを求めても無視する夫
そんなある日、自宅で突然、激しい腹痛に襲われた私。しばらく休めば治まるだろうと思っていましたが、痛みは次第に強くなり、冷や汗まで出てきました。
とうとう立っていられなくなった私は、廊下にうずくまりました。リビングには夫がいたため、私は声を振り絞って助けを求めました。
「お願い、来て……。おなかがすごく痛いの」
ところが、夫からはいつものように「ふーん、そうなんだ」「今忙しいから」くらいしか返事がありません。何度か呼びかけても様子を見に来なかったため、私は震える手で自分のスマホをどうにか操作し、119番に電話しました。
救急隊が到着してインターホンを鳴らすと、ようやくスマホから顔を上げた夫。玄関へ向かう途中で倒れ込んでいた私を見つけ、初めて事態の深刻さに気づいたようでした。
「えっ、救急車を呼んだの? そんなに具合が悪かったのか?」
その言葉を聞いた瞬間、怒りより先にむなしさがこみ上げました。私は何度も助けを求めていたのに、夫の耳には届いていなかったのです。
病院で診察と検査を受けた結果、感染性胃腸炎と診断されました。幸い入院は必要なく、点滴と薬の処方を受け、その日のうちに帰宅できました。
大事に至らなかったことには安堵しましたが、いざというときに夫を頼れなかった事実は、簡単には受け入れられませんでした。
夫に同じことをした結果
それから1カ月ほどたったころ、今度は夫が体調を崩しました。帰宅した夫は「熱がある」「何か食べるものを用意してほしい」と、何度も私に訴えてきます。
体温を測ると37.5度。私は念のため、水分が取れていることや、息苦しさなどの強い症状がないことを確認しました。そのうえで、あの日の夫と同じようにスマホへ目を落としました。
「私、今スマホを見ていて忙しいから。自分でどうにかしたら?」
私がそう告げると、腹を立て、声を荒らげた夫。
「具合が悪いって言っているのに、どうして助けてくれないんだよ!」
そこで私はスマホを置き、夫の顔を真正面から見てこう告げました。
「私も同じことをされたよ。動けなくなって何度呼んでも、あなたは来てくれなかった。救急隊が来るまで、私がどれだけ怖くて不安だったか、わかる?」
何も言い返せず、黙り込んでしまった夫。その後、夫は自分で食事を用意し、横になって休んでいました。
そしてしばらくすると、私のスマホにメッセージが届きました。
そこには、私の声を無視したことへの謝罪と、スマホに夢中になって周囲が見えなくなっていたことへの反省が……。
「謝るなら、画面越しではなく直接言って」
そう返信すると、夫はスマホを置き、改めて私に謝罪しました。
その日の謝罪だけで、これまでの不満がすべて消えたわけではありません。それでも夫は、食事中にはスマホを別の場所に置き、私が話しかけたときには画面から目を離すようになりました。そして緊急の連絡にすぐ気づけるよう、スマホの使い方や通知設定についても2人で見直しました。
夫を許せるかどうかはいまだにわかりません。これからの夫の行動を見ながら、私自身も考えていきたいと思っています。
◇ ◇ ◇
スマートフォンに夢中になるあまり、目の前の相手の言葉や異変に気づけなくなれば、夫婦の信頼関係は大きく損なわれてしまいます。特に、体調不良や緊急時に助けを求められたときは、まず相手の様子を確認することが必要です。
一緒に暮らす相手だからこそ、日ごろから相手の声や変化に意識を向けたいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。