ある日、「家のエアコンの調子が悪くて眠れない」と、着替えの入ったバッグを抱えて突然やってきた義母。夫は私に確認することもなく、「直るまで何泊でもすればいいよ」と当然のように答えます。
「本当にやさしい息子を持って幸せだわ~」と言って義母は何食わぬ顔で家へ上がり込みましたが、私は笑顔を返せませんでした。
義母の世話を私に押しつける夫
義母が突然泊まりに来たのは、その日が初めてではありませんでした。給湯器の調子が悪い、近所で工事をしていてうるさいなど、毎回さまざまな理由をつけて泊まろうとするのです。
しかも、義母は自分のことを何ひとつしようとしませんでした。
「夕食の前にお風呂へ入りたいから、早く準備して」
「タオルは新しくて、ふわふわしたものにしてちょうだい」
「まだ布団を敷いていないの? 気が利かないわね」
私は食事の支度や娘たちの世話をしながら、義母の要求にも応えなければなりません。
耐えきれなくなり、夫に「あなたが泊まっていいと言ったんだから、お義母さんの布団くらい敷いて」と頼んだ私。すると夫は、面倒そうにスマートフォンから顔を上げてこう言いました。
「俺は仕事で疲れているんだよ。母さんの世話くらい黙ってやってくれない?」
その言葉を聞いた義母も、夫をかばいました。
「息子は外で働いて家族を養っているのよ。妻なら、夫とその母親の世話をするのは当たり前でしょう?」
わが家は共働きで、私のほうが家事や育児の多くを担っていました。それでも夫と義母は、私が義母の世話までして当然だと考えていたのです。
さらに、義母は娘たちにも容赦がありませんでした。
「テレビの音がうるさい」
「走り回らないで。私は静かに休みたいの」
娘たちは自分の家で普段どおりに過ごしていただけです。それなのに義母から何度も注意され、次第に顔色をうかがうように……。
私が夫に「せめて泊まりに来る前に相談してほしい」と伝えても、夫は聞く耳を持ちませんでした。
「相談したら、お前は嫌だと言うだろ。母親を家に泊めるのに、どうしてお前の許可が必要なんだよ」
夫は義母を大切にしている自分に満足していたようですが、実際に義母の世話をしていたのは私でした。
わが家のお出かけを待ち伏せていた義母
決定的な出来事が起きたのは、家族4人でテーマパークへ出かける日でした。
何日も前から、その日を楽しみにしていた娘たち。ところが朝、家を出ると、義母がバッグを持って待っていたのです。
驚いて夫を見ると、夫は悪びれもせずに言いました。
「母さんも行きたいと言ったから誘ったんだ。別に1人増えるくらいいいだろ?」
私は何も聞かされていません。「今日は家族4人で出かける約束だったよね?」と尋ねても、夫は「母さんだって家族だろ」と言い返すだけ。
娘たちが「ばあばも一緒に行こう」と言ったため、その場で言い争うこともできず、結局5人で出発することに。
しかし、テーマパークへ到着すると、義母はすぐに私へ荷物を渡しました。
「これ、私の代わりに持っておいて」
その後も「トイレがどこにあるか見てきて」「日陰のベンチを探して」「冷たい飲み物を買ってきて」と、次々に私をこき使う義母。自分で探してほしいと伝えると、義母は露骨に顔をしかめました。
「せっかく一緒に来てあげたのに、その言い方は何? 嫁なんだから私を気遣いなさいよ」
夫も私の味方をしてくれません。
「母さんを怒らせるなよ。お前さえ言うことを聞いてくれれば、みんな楽しく過ごせるだろ?」
まるで、私ひとりが我慢すればいいと言われているようでした。
そしてしばらくすると、義母が「もう疲れた。帰りたい」と言い始めました。一方で、娘たちはまだ乗りたいアトラクションがあり、帰りたくないと訴えます。
そこで私が「お義母さんだけ先に電車で帰ってもらったら?」と提案すると、夫は信じられないことを口にしました。
「母さんをひとりで帰せるわけないだろ。俺と母さんは車で帰るから、お前は娘たちと電車で帰ってこい」
家族で乗ってきた車を夫と義母だけで使い、私と幼い娘たちを置いて帰るというのです。
「娘たちを連れて、荷物を持って、混んでいる電車で帰れっていうの?」と私が尋ねると、夫は苛立った様子で答えました。
「大げさなんだよ。電車くらい乗れるだろ。母さんは疲れているんだから、少しは我慢しろよ」
娘たちは、不安そうに私と夫を見比べていました。
夫と義母を沈黙させた娘たちの言葉
そのとき、娘たちからポップコーンが欲しいと頼まれました。私は気持ちを落ち着かせるためにも、その場を少し離れることにしました。
「すぐ買って戻ってくるから、パパとここで待っていてね」と伝え、夫に娘たちを任せて売店へ。
私が離れてすぐ、娘たちは夫と義母に「喉が渇いたからジュースが欲しい」と頼んだそうです。しかし義母は、「私は疲れているんだから、ママが戻るまで待ちなさい」と相手にしなかったそう。夫も「少しくらい我慢できるだろ」と言い、スマートフォンを見始めたといいます。
私がポップコーンを手に娘たちの元に戻ろうとすると、娘たちの声が聞こえました。
「ばあば、一緒にジュース買いに行ってくれないの?」
「どうして私が行かなきゃいけないの。あなたたちのママに頼みなさい」と義母が答えると、そろって首をかしげた娘たち。
「でも、ばあばはいつもママに『あれやって』『これ持って』って言ってるよね。ばあばは自分ではやらないの?」
その言葉に腹を立て、「子どものくせに、大人に口答えしないの!」と声を荒らげた義母。
すると娘たちは、今度は夫を見てこう言ったのです。
「パパも、自分は何もしないのに、いつもママにばっかりやらせてるじゃん」
「ママはごはんも作って、私たちのお世話もしてるのに、パパとばあばはママにお願いしてばっかり。どうして?」
夫は周囲を気にしながら、「いい加減にしろ。家の話をこんなところでするな」と娘たちを叱りました。しかし、その声が大きかったため、逆に注目を集めることに。
慌てて娘たちのもとへ戻ると、義母は私に向かってこう言いました。
「あなた、子どもたちに私の悪口を吹き込んでいるでしょう。こんな失礼なことを言わせるなんて、どういう育て方をしているの?」
すると娘たちが、すぐに言い返しました。
「ママは何も言ってないよ。私たちがずっと見てたんだよ」
「ばあばが来ると、ママずっと忙しくなるもん。パパも助けないし、私、それが嫌だった」
娘たちがそこまで嫌な思いをしていたとは知らず、私は胸が痛くなりました。
周囲の視線に耐えられなくなったようで、「もう帰る」と言い、ひとりで駅へ向かった義母。夫は慌ててその後を追おうとしましたが、娘たちが「パパも帰っちゃうの?」と尋ねると、戸惑った様子で足を止めました。
しばらく迷った末、夫は義母を駅まで送るだけにして、再び私たちのもとへ戻ってきました。その後は気まずそうに荷物を持ち、娘たちの希望するアトラクションにも付き合っていました。
帰宅後、私は夫と改めて話し合うことに。
娘たちが傷ついていることを伝えたうえで、今後は私の了承なく義母を泊めたり家族のお出かけに呼んだりしないこと、義母を招いた場合は夫が責任を持って対応することを求めました。
夫は最初こそ言い訳をしてごねていましたが、娘たちから「またママだけにやらせるの?」と聞かれ、ようやく受け入れました。
それ以降、突然訪ねてきた義母を勝手に泊めることをしなくなった夫。義母から不満を言われることは依然としてありましたが、夫が対応するようになったため、私のストレスも激減しました。
あの日、娘たちが口にしたのは、日頃から感じていたことをそのまま言葉にしたものだったのでしょう。私が何度訴えても聞く耳を持たなかった夫にも、娘たちの言葉は強く響いたようです。
◇ ◇ ◇
夫婦どちらかの親や友人を自宅へ招いたり、家族でのお出かけに誘ったりするときは、事前に相手の了承を得ることが大切です。親孝行のつもりでも、その負担を配偶者へ押しつけてしまえば、思いやりのある行動とはいえません。
また、子どもは、大人が思っている以上に家庭内の様子をよく見ています。家族の誰かひとりだけが我慢することのないよう、互いの気持ちや負担を尊重したいものですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。