20年近いブランクを経て働き始めた女性
あるとき、以前の職場に新人の女性が入ってきました。
「働くのは約20年ぶりなので、ご迷惑をおかけするかもしれませんが……」
緊張した様子であいさつする彼女を見て、少しでも気持ちがほぐれればと思い、私は積極的に話しかけていました。
仕事を始めようと思ったきっかけを尋ねると、彼女は「実は……」と神妙な表情で事情を明かしました。
家にいることがつらくなった事情
彼女には受験生の子どもがいました。夫は仕事が忙しく、家を空けることが多かったため、夫が不在の間も自分が子どもを支えようと、日ごろから頑張っていたそうです。
そんな中、彼女が住むマンションの上の階に、幼い子どもがいる家族が引っ越してきました。
最初のうちは、「自分の子どもも小さいころはやんちゃだったから仕方がない」と考え、騒音にも目をつぶっていたそうです。
しかし、昼夜を問わず「ドタドタ」という音が響く日が続きました。受験を控えた子どもがいることもあり、彼女は穏便にお願いしようと、上の階の住人を訪ねました。
「うちには受験生の子どもがいます。マットを敷いていただくなど、少し配慮していただけませんか」
ところが、音は収まるどころか、以前より大きく感じられるようになったそうです。時には、大人がその場で跳んでいるようにも聞こえる「ドン、ドン」という音まで響くようになりました。
管理会社に相談しても状況は変わりませんでした。それどころか、やがて管理会社から「神経質な人ですね」とまで言われるようになったそうです。
「昼夜を問わず音が聞こえて、ノイローゼになりそうだったの。だから、昼間は働きに出ることにしたのよ」
彼女は心底疲れ切った表情で話してくれました。
家の外で過ごすようになった親子
彼女とは職場で毎日のように顔を合わせ、近況を聞くこともありました。
「最近も相変わらず上の階がうるさいの。夜は子どもを連れて、長くいられそうな店で食事をしながら勉強させることも多いのよ」
「家にいると、頭がおかしくなりそうで……」
それからしばらくたったある日、彼女は新たな悩みを打ち明けました。
「夫に家族カードの利用額を見られて、怒られてしまったの」
私が「どうしたんですか」と尋ねると、利用額が膨らんだ主な理由は、子どもを連れて店で過ごしていたときの食事代だというのです。
「夫は『外食ばかりでぜいたくをするな』って怒るの。家で音を聞いても、『これくらい我慢できるだろう』『子どもにも我慢させろ』と言うけれど、たまにしか帰ってこないから、そんなことが言えるのよ」
さらに、彼女はつらそうな表情で続けました。
「長くいられる店で食事をすれば、お金がかかるのはわかっているけれど、私たちだって、好きで外食しているわけではないの。持ち家だから、簡単に引っ越すこともできないし……」
まとめ
彼女の話を聞き、私は、騒音そのものだけでなく、つらさを身近な人に理解してもらえないことも、彼女の心を追い詰めていたのだと感じました。
外食を繰り返しているという事実だけを見れば、ぜいたくをしているように映るのかもしれません。しかし彼女にとって、それは騒音から離れ、子どもが落ち着いて勉強できる場所を確保するための行動でした。
目に見える行動だけでは、その人が抱えている事情まではわからないことがあります。彼女の体験を通して、行動の背景に思いを向けることの大切さを改めて感じました。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。
著者:磯辺みなほ/30代女性。ゲーマー。発達障害がある夫と2人暮らし。大変なことも多い中、それ以上にネタと笑顔にあふれる毎日を送っている
イラスト:ゆる山まげよ
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年8月)
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