懇親会で用意されていなかった席
その日は、A食品が取引先を招いて毎年開いている懇親会でした。うちの会社も例年参加しており、今回も事前に開催日時や会場の案内を受け取っていました。当日、各社の社名が記された席を確認していると、うちの会社の席だけが見当たりません。
妻はA食品で経理事務を担当しています。席が見当たらないことを尋ねると、妻は「ああ、あなたの席はないわよ」と平然と答えました。
理由を聞くと、「案内を出した後で、お父さんたちが今年はあなたの会社の席を用意しなくていいって決めたの。私は聞いていたけど、あなたも一度くらい、自分の会社が周りからどう見られているのか知ったほうがいいと思って、あえて言わなかった」と言われたのです。
妻は以前から私の会社の規模を見下しているところがあり、この日も「今日は大手の取引先も来ているの。あなたの席は用意されていないって、もう現実はわかったでしょう。さっさと帰って」と口にしたのです。
そこへ義父もやって来て、「うちも付き合う会社が変わってきたんだ。これからは取引先を選んでいかないとな」と、周りに聞こえるように続けました。私は言い返すことはせず、「わかりました。今日は失礼します」と告げました。
実は少し前から、A食品との取引には変化を感じていました。以前より納期の相談が通りにくくなったり、小口の依頼への対応が後回しになったりすることが増えていたのです。
一方、うちの会社は調味料の開発や受託製造にも事業を広げ、A食品以外との取引も少しずつ増えていました。そのため、A食品に頼らなければ事業が成り立たない状況ではありませんでした。
帰宅後、感情だけで判断しないよう、A食品との取引額や利益、契約期間に加え、委託している製造のうち他社へ切り替えられるものがどの程度あるかを確認しました。その結果、事業への影響は限定的だと判断し、現在進んでいる取引にはこれまで通り対応したうえで、更新時期に合わせて取引を段階的に縮小していくことにしたのです。
1本の電話から始まった新しい取引
数日後、A食品の取引先であるBカンパニーの営業担当・C田さんから電話がありました。懇親会の席で私に相談しようと思っていたものの、私が帰宅してしまったため、改めて電話をくれたようです。
Bカンパニーでは、新しく香辛料を使った商品の開発を計画していました。C田さんによると、うちの会社も以前から製造委託先の候補に入っていたとのこと。「香辛料を扱ってきた実績もありますし、一度詳しく話を聞かせてもらえませんか」と相談されたのです。
懇親会では軽く扱われましたが、長年扱ってきた香辛料の知識や、調味料の開発・受託製造の実績を評価してくれる人もいたのです。
私はC田さんの申し出を受け、商品企画や製造条件について打ち合わせを重ねることになりました。
積み重ねてきた経験が新たな仕事へ
新商品の開発が始まると、既存の品質管理基準に加え、今回の商品に合わせて製造工程を細かく確認しました。
試作と調整を繰り返し、商品化のめどが立ったころ、C田さんから「今後予定している別の商品についても、御社に相談したいです」と言ってもらえるようになりました。
もちろん、一度の仕事ですべてが変わったわけではありません。それでも、新商品の実績をきっかけにBカンパニーからの相談が増え、ほかの取引先から声をかけてもらう機会も少しずつ増えていきました。
妻とも何度も話し合いました。私が引っかかっていたのは、懇親会で席を用意されなかったことだけではありません。以前から私の仕事を軽く扱う言動があり、今回の出来事で、夫婦として大切にしたい価値観に大きな隔たりがあることを改めて感じたのです。
話し合いを重ねた末、私たちは離婚することになりました。
まとめ
今振り返ると、長く続いてきた関係だからという理由で、違和感に目をつぶっていた部分もあったのだと思います。懇親会での出来事をきっかけに、仕事でも家庭でも、付き合いの長さより互いを尊重できる関係なのかを考えるようになりました。
会社の規模ではなく、積み重ねてきた仕事を評価してくれる人がいたことで、自分が何を大切にしたいのかもはっきりしました。苦い経験でしたが、仕事と家庭の両方を見直す転機になったと感じています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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