突然の110番通報
よく晴れた週末の午後。夫とドライブに出かけようと、私は運転席に乗り込み、エンジンをかけました。「ちょっと! 何してるんですか!」突然、見知らぬ若い男性が我が家の駐車スペースに駆け込んできました。血相を変え、車の前に立ちはだかるように両手を広げています。その後ろからは、以前から挨拶を交わしていた近所の女性が小走りで追いかけてきました。
何事かと驚いた私は、出発するのをやめて窓を開けました。男性は興奮した様子で私に詰め寄ってきます。何が起きているのか尋ねようとしたそのとき、遠くからサイレンの音が聞こえてきました。そして、我が家の前にパトカーが停まり、警察官がこちらへ向かってきたのです。
「警察です。こちらの車について110番通報がありました。状況を確認したいので、一度車から降りていただけますか」突然のことに、私も夫も何が起きているのかわかりません。
「えっと……。これ、私の車ですけど」戸惑いながら答えると、男性が眉を吊り上げました。「嘘をつくな! それは彼女の車だ! 勝手に乗り込んで、どこへ持っていくつもりだ!?」男性は近所の女性を指さして叫びました。
男性が警察を呼んだワケ
警察官が間に立ち、双方から事情を聴くことになりました。男性の話によると、彼と近所の女性は最近親しくなり、その日は一緒に近所を歩いていたそうです。我が家の前を通りかかったとき、男性はSNSで何度も見ていたクラシックカーに私が乗り込むところを目撃したといいます。投稿には車のナンバープレートも写っており、目の前の車と一致していたため、男性は彼女の車だと思ったそうです。
「あれ、君の車じゃないの!?」男性が女性に尋ねると、彼女は明らかに動揺。その様子を見た男性は、彼女の車が知らない人に持ち去られようとしているのではないかと思い、110番通報をしたといいます。「彼女、いつもSNSにこの車の写真を載せてるんです。父から譲ってもらった愛車だって書いてたし、休日はこの車でドライブしてるって……!」
男性の言葉に、私は思わず夫と顔を見合わせました。
警察が確認した結果……
「この車は私のものです」そう伝えると、警察官から所有関係を確認できるものを見せてほしいと言われました。私は車内に保管していた車検証などの書類と免許証を取り出し、警察官に提示します。警察官が書類と車の情報を確認していきます。
やがて、警察官が口を開きました。「確認できました。書類上、所有者はあなたになっていますね」このクラシックカーは、父から譲り受け、名義変更の手続きも済ませた私の愛車です。自宅の駐車スペースで、丁寧に手入れをしながら大切にしてきました。
警察官の言葉を聞いた男性は、驚いたように近所の女性を振り返ります。「……え? じゃあ、今までの話は……?」問いかけられても、彼女はうつむいたまま何も答えませんでした。
見栄が招いたのは
警察官から事情を聞かれた女性は、しばらく黙り込んだあと、我が家の駐車スペースに停めていた私の車を無断で撮影し、自分の所有物であるかのようにSNSへ投稿していたことを認めました。
「クラシックカーに憧れていて、自分の車のように投稿してしまいました……」その言葉を聞いて、私は以前、庭の駐車スペースで愛車を磨いていたときのことを思い出しました。そういえば彼女から、「素敵な車ですね。クラシックカーって憧れます」と声をかけられたことがあったのです。
そのときは「車が好きな方なのかな」くらいに思い、「ありがとうございます」と答えただけ。その後も顔を合わせれば挨拶をする程度だったため、あのときの言葉を特に気に留めることもありませんでした。
「父から譲り受けた、私にとって本当に大切な車です。今後は勝手に撮影して、ご自分の物のように扱うのはやめてください」私がそう伝えると、彼女は何度も頭を下げました。警察官は一通りの事実確認を終えると、引き揚げていきました。男性はしばらく黙ったまま彼女を見つめていましたが、「信じてたのにな……」と小さくつぶやき、その場をあとにしました。
それ以降、彼女から車について声をかけられることはなくなりました。近所で顔を合わせても、軽く会釈を交わす程度です。我が家の駐車スペースには、夫が念のためにと防犯カメラを設置してくれました。その後、同じようなトラブルは起きていません。
◇ ◇ ◇
自分をよく見せたい気持ちがあったとしても、他人の所有物を無断で撮影し、自分の物であるかのようにSNSへ投稿することは、思わぬトラブルにつながります。投稿の内容によっては、プライバシー侵害などの問題になる可能性もあります。
また、写真をSNSに投稿する際には、車のナンバープレートや自宅の場所など、本人や居住地の特定につながりうる情報が写り込んでいないかにも注意が必要です。今回のように他人の車や自宅周辺を撮影した写真を、本人の許可なく投稿することは避けましょう。
SNSでは、「自分がどう見えるか」だけではなく、その投稿によって誰かのプライバシーを侵害したり、迷惑や不利益を与えたりしないかをよく考えて発信したいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。