婚約者から突然告げられた別れ
ある日、A子に昼休みの食事へ呼び出されました。店へ行くと、なぜかそこには同僚のC野さんもいました。
何か話があるのだろうかと不思議に思っていると、A子は突然「婚約を解消してほしいの」と言いました。続けて、C野さんのほうを見ながら「私、彼と一緒になる。あなたなんかより絶対に出世するし」と言ったのです。
C野さんは私より後に入社した後輩で、同じ支店の商品開発を担当していました。過去にSNSで話題になった商品を手がけたことがあり、社内でも自分の実績をたびたび口にする人でした。
さらにC野さんから、「婚約者にも振られたんだし、このままこの会社にいるのも気まずいんじゃない? 後輩に抜かれる前に辞めれば?」とまで言われました。婚約者を奪われたうえに仕事まで見下すような言葉を重ねられ、私はしばらく返す言葉がありませんでした。
ランチを終えて会社へ戻ると、C野さんは部長に呼ばれました。その後、彼が翌月から本社へ異動することが社内で発表されました。以前からC野さんは「本社の大型案件を任されるのが出世コースだ」と話していたため、今回の異動も評価された結果だと思ったようです。
C野さんは私に、「俺の仕事はお前に引き継ぐらしいけど、お前なんかで大丈夫か?」と笑いました。
私は何も言い返しませんでした。私生活のことと仕事は別です。それよりも、引き継ぐことになった案件をきちんと進めることに集中しようと思いました。
見向きもされなかった地域の商品開発
私がC野さんから引き継いだのは、地方の道の駅と一緒に進める商品開発のプロジェクトでした。資料を確認すると、まだ企画はほとんど進んでいませんでした。以前C野さんと一緒に担当していた社員に話を聞くと、C野さんは「規模が小さいから大きな成果にはならない」と考え、あまり力を入れていなかったそうです。
そこで私は、まず現地へ足を運びました。どんな年代のお客さんが多いのか、何が売れて何が残っているのか、繰り返し訪れるお客さんはどんな商品を求めているのか。販売データを確認するだけでなく、店員や生産者にも話を聞きました。
その中で目をつけたのが、味には問題がなくても、形や大きさなどの理由で通常の商品としては販売しにくい野菜や果物でした。「これを加工品に使えないだろうか」と思った私は、地元の生産者や道の駅、製造を担う加工業者と相談し、価格や容量を検討しました。試作と改良を重ね、少しずつ商品を形にしていったのです。
派手な宣伝を仕掛けたわけではありません。それでも販売を始めると売れ行きは安定し、店頭でも「また買いたい」という声が聞かれるようになりました。その取り組みが地域の関係者の間でも知られるようになり、別の道の駅から商品開発について相談を受けることもありました。
本社案件で変わった私の立場
一方、本社へ異動したC野さんは、大手のDスーパー向けの商品開発を担当していました。しかし、先方が求めていた商品と提案内容にずれがあり、担当者とのやりとりもうまくいっていなかったようです。
そのころ私は、道の駅の商品開発で少しずつ実績を積み重ねていました。C野さんが異動してから数カ月後、社長から「Dスーパー案件の担当体制を見直す会議に参加してほしい」と連絡があり、私は支店から本社へ向かうことになったのです。
会議室へ入ると、そこにはC野さんの姿もありました。なぜ私が呼ばれたのかわからずにいると、社長がDスーパーの企画資料を私に差し出しました。
「この案件の立て直し、お前に任せたい。道の駅での仕事も見ていた。信頼してるからな」
思いがけない言葉に、私は驚きながら資料を受け取りました。するとC野さんは目を見開き、「えっ!? どうして支店のお前が?」と声を上げたのです。
後に資料を確認し、関係者から話を聞いたところ、C野さんは以前の成功体験をもとに、高級食材やSNSでの話題性を重視した企画を進めていたことがわかりました。しかし、店舗ごとの客層や価格帯とのずれがあり、先方から見直しを求められていたのです。
その後、社長から聞いたのは意外な話でした。
「道の駅の案件を君に任せたのは、地域案件を丁寧に進めてほしかったからだよ。数字だけでなく現場を見て商品を作れる人に任せたかったんだ」
私はずっと、本社へ行く人のほうが会社から評価されているものだと思っていました。しかし、会社側の考えは違っていたのです。
Dスーパーの案件でも、私はまず店舗へ足を運びました。売り場の担当者から話を聞き、客層や価格帯、既存商品の売れ方を確認。それまでの企画をすべて否定するのではなく、使える部分は残しながら内容を修正していきました。先方とも何度か話し合いを重ねた結果、企画を受け入れてもらい、新商品の販売まで進めることができました。
かつてC野さんから「お前なんかで大丈夫か?」と笑われた私が、今度は彼が担当していた案件の立て直しを任されることになったのです。
本社へ異動したA子とは、業務上必要な連絡以外は取らなくなりました。婚約を解消した以上、私は彼女とC野さんの関係についても、それ以上知ろうとは思いませんでした。
まとめ
婚約を解消されたときは、仕事でも私生活でもC野さんに負けたような気持ちになりました。
しかし今振り返ると、誰かと比べて自分の価値を決める必要はなかったのだと思います。任された仕事に向き合ってきた積み重ねが評価されたことで、自分の働き方にも以前より自信を持てるようになりました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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