もしご近所トラブルでも勃発してしまったら、夫の出世にも影響してしまうかもしれない……そう思って、引っ越す前はビクビクしていた私。しかし、そんな心配は取り越し苦労でした。
社宅の奥様たちはみんな、やさしくて親切。引っ越し作業がひと段落して、お隣へごあいさつに行くと、「よかったら近所のスーパーに一緒にお買い物に行かない?」と誘ってくれて、他の奥様にも声をかけてくれました。
そのまま数名の奥様たちと一緒に安くて品質がいいと教えてくれたローカルスーパーへ出かけ、いろいろ話をして打ち解けたころ、私は安心しきって「上司の奥様には逆らえないなんて、あれは小説やドラマの世界だけだったんですね。実は、引っ越してくる前はそれが心配で……」と冗談ぽく打ち明けました。
すると、それまでにこやかだった奥様たちの表情が急に曇ったのです。
夫の上司の奥様が社宅のボスママ
やはり、この社宅にもボスママは存在していました……。
私が引っ越してきた日は、ちょうど出かけていたようで不在でしたが、ボスママが帰ってきたらきっとわが家に突撃してくるだろう、と奥様たちから言われたのです。
ボスママは、夫の上司の奥様。自分の夫の部下の妻は、自分の子分だと思っているようです。子どもの塾の送迎やゴミ出しなど、自分を抜いた当番制にして他の奥様たちに押し付けているのだとか。
ひとりの奥様が「働かされるだけならまだいいわよ……」と、ボソッとつぶやいていました。私は、一体どういうことだろうと不思議に思っていましたが、その奥様の言葉の意味は、すぐにわかることになるのです。
ボスママの突然の訪問と不当な要求
買い物から帰るとすぐ、玄関のチャイムが鳴りました。出てみると、見知らぬ女性が立っています。その女性がボスママでした。
私は玄関を開け、あいさつをしたのですが、ボスママはムスッとしたまま。そして、「上司の家には真っ先にあいさつにくるべきじゃないの?」とチクリ。続けてボスママは、私に手を差し出してきて「あいさつするのに、手ぶらってことはないでしょう?」と言います。私は慌てて用意していた菓子折りをお渡ししました。
しかし、私が差し出した菓子折りを見て、ボスママは不満げな表情。そして、贈り物は、相手がもらって困らないものを渡すのが常識だと言われました。私がキョトンとしていると、なんとボスママは「察しが悪いわね」と舌打ちして、「現金か金券はないのって聞いてるのよ」と言ってきたのです。
まさかの要求に私が驚いていると、さらにとんでもない要求をしてきました。管理会社へ支払う管理費とは別に、ママたちとのランチ会費として毎月1万円の管理費の支払いが必要だと言うのです。
高すぎるランチ会に隠された真実
ランチ会の会費1万円。専業主婦の私の身の丈には合わない金額です。しかし、ランチ会へ参加するか否かで夫の会社での評価が変わると脅され、断りきれませんでした。
しぶしぶ、ランチ会への参加を受け入れた私。しかし、開催するレストランの名前を聞いてホッとしたのです。ボスママは、「この辺りでは有名なレストランで、普段はランチ営業をしていないのよ。でも常連の私のお願いならって特別にお店を開けてくれるの」と自慢げに話してきました。
「私が参加しても大丈夫ですか?」
私はいろいろ言いたいことはありましたが言葉を飲み込み、せっかくお誘いいただいたので、参加させていただくことに決めました。
そして迎えたランチ会当日。
お店に到着すると、ボスママが「はい、じゃあ一人一万円ね~」とさっそく会費の回収を始めました。
私はにっこりほほ笑んで支払いを拒否。他の奥様たちにも「今日はお代は大丈夫です。ご馳走させてもらいますので、これからよろしくお願いいたします」と告げました。
厨房からシェフが出てきて、「みなさん、うちの孫と仲良くしてやってください」とあいさつ。そう、このお店は祖父の店です。
そして祖父は、「本日のコースは3000円とご相談いただいていましたが、通常の1万円のコースをご用意させていただきますね」と言ったのです。それを聞いた奥様たちはあ然! ボスママは大慌てです。普段はランチ営業をしていないお店だから、他の奥様たちは騙せたかもしれませんが、私は騙せません。
ボスママにランチ会に誘われた日、会場が祖父のお店だと知った私は、祖父に連絡。これからお付き合いしていく奥様たちだから、お代よりも良いコースをお願いできないかと相談したのです。「じゃあ5000円くらいのコースを考えようか?」と祖父に言われ、どういうことかと祖父に詳細を聞き、私はボスママがお願いした金額が1人3000円だと知りました。
私はボスママの企みを知り、腹を立てていると祖父が「じゃあお代は貰わないにしよう」と提案してくれたのです。当日、事実を知れば他の奥様たちは、その後も私と仲良くしてくれるだろうし、ボスママは大人しくなるだろうと言ってくれました。
そんなワケで、他の奥様たちは怒ってボスママへ「説明して」と責め立て、ボスママは嘘がバレて窮地に立たされてしまっています。
私を参加させたことでボスママ失墜!
みんなから「今までも騙していたんでしょ! お金、返してもらえる!?」と怒鳴られると、ボスママは「うるさい! 私はあんたたちの旦那の上司の妻よ? あんたたちの旦那が出世できなくしてやる!」と最初は逆ギレして息巻いていました。
そこで私は、静かにスマホを取り出して見せました。
「実は先ほど、夫に一部始終を連絡しました。夫からボスママさんの旦那様(夫の上司)へ、この状況を伝えてもらいました」
それを聞いたボスママは、「な、なんですって…!?」と一気に顔を青ざめさせました。追い打ちをかけるように、ボスママの旦那さんから、激怒の電話がかかってきたのです。
お店の中にまで響き渡る大音量で、「お前、社宅の奥さんたちから金を騙し取ってたって本当か!?」と怒鳴りつけられるボスママ。夫に悪行と贅沢のからくりがすべてバレて完全に退路を断たれたボスママは、その場で泣き崩れ、「だって、上司の妻としてちゃんとしていないといけないと思ったんだもの! 人前に出る機会も多いし、身なりにだってお金がかかるのよ!」そう言って、彼女は悪びれる様子もなく、ブランド品やエステにお金を使っていたことを明かしたのです。
その後、夫から猛烈に激怒されたボスママは、これまで騙し取り続けていたお金を全員に全額返金。社宅内での権威や信用は完全に失墜し、誰からも相手にされなくなって自業自得の惨めな末路をたどることになりました。
社宅にはようやく平和が訪れ、ホッとひと安心。今は気兼ねなく、みんなで仲良くやっています。みんなでスーパーに買い物に行ったり、祖父のお店に食事に行ったり、楽しい社宅ライフを満喫しています。
◇ ◇ ◇
社宅という特殊な環境下では、家族の会社での立場が気になってしまい、理不尽な要求にも強く言えないことがあるかもしれません。しかし、会社での立場を盾にした身勝手なマウントやお金のトラブルには、勇気を持って毅然と対応することが大切ですね。
近すぎず遠すぎず、お互いを思いやれる適度な距離感を保ちながら、ストレスのない良好な関係を築いていきたいものですね。
※今回のように架空の管理費を徴収したり、実際の代金を偽ってランチ会費を着服したりする行為は、単なる「お付き合い」の問題では済みません。相手をだまして金銭を支払わせる行為は「詐欺罪」に、また、夫の出世に影響するなどと脅して金銭を要求する行為は「恐喝罪」に問われる可能性があります。
たとえ少額であっても、またどのような人間関係の中であっても、これらは決して許されることではありません。取り返しのつかない事態を招いてしまわぬよう、お金のやり取りや人付き合いには注意しましょう。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。