夢を追い始めた私に向けられた冷たい言葉
ところが、私が創作活動に専念するようになってから、息子の態度はさらに厳しいものになっていきました。
ある日、息子は夫に向かってこんなことを言ったのです。
「父さんももっと遊べばいいじゃん。自分で稼いだお金なんだから、好きに使えば?」
その言葉には、暗に「私のためにお金を使う必要はない」という意味が込められているように感じました。
夫が「そういう言い方はやめろ。母さんにもう少し敬意を持って接しなさい」と注意しても、息子は反発。
「だって本当の母親じゃないし。俺にとっては他人じゃん。なんで俺が気を使わなきゃいけないの?」
胸が痛みましたが、思春期という難しい時期。無理に距離を縮めようとすれば、かえって関係が悪くなるかもしれない――そう思った私は、必要以上に口を出さないようにしていました。
しかし、今度はだんだんと夫の態度が変わり始めたのです。同じようなやり取りが続くうちに、夫は息子の言葉を笑って流すようになりました。それどころか、次第に夫自身の私に対する態度まで冷たくなっていったのです。
夫の帰宅時間は遅くなり、休日にもひとりで出かけることが増えました。夫婦で一緒に過ごす時間は、以前とは比べものにならないほど減っていきました。
夫があっさり認めた不倫
そんなある日、親友から突然こんな連絡がありました。
「あなたの旦那さんだと思うんだけど……別の女性と一緒にいるところを見たの」
親友から送られてきた動画を確認すると、そこには夫らしき男性が見知らぬ女性と親しげに腕を組み、ホテルへ入っていく様子が。
目の前が真っ暗になりました。それでも、夫本人の口から真実を聞かなければ納得できません。私は送ってもらった動画を保存し、その日の夜、帰宅した夫に見せました。
「この女性、誰?」
夫は慌てることなく、驚くほど冷静でした。
「あぁ……バレたか」
その一言で、私はすべてを察しました。
夫は不倫を認めたうえで、さらに信じられない言葉を続けたのです。
「息子が言ってたことは間違ってなかったんだよ。俺が稼いだ金を使ってまで、お前を養い続ける意味ってあるのかなって思った。もう離婚しよう」
耳を疑いました。
会社を辞める前、私の夢を応援すると言ってくれていた夫。それなのに、いつからそんなふうに考えるようになっていたのでしょう。
私はショックのあまり、その場では何も言い返せませんでした。その後もしばらくは気持ちの整理がつかず、創作活動にも手がつきませんでした。
たしかに私は夫の言葉に甘え、会社を辞めてから経済的に頼っていた部分がありました。そのことについて夫婦で話し合う必要はあったのかもしれません。しかし、それと不倫は別の問題です。
その後の話し合いで、不倫相手の女性も夫が既婚者であることを知ったうえで関係を続けていたことがわかりました。
考えた末、私は夫との関係を修復することは難しいと判断。話し合いを重ね、必要な手続きを進めた結果、私たちは離婚することになりました。
離婚から3カ月後、隣に越してきたのは…
離婚から3カ月ほど経ったころ、私は新しいアパートで生活を立て直していました。
ようやくひとりでの暮らしにも慣れ始めたある日、インターホンが鳴りました。モニターを見ると、知らない女性が立っています。
「隣の部屋に越してきた者です。ごあいさつに伺いました」
私は何の疑いもなく、「わざわざありがとうございます」と答えて玄関へ向かいました。
ところが、ドアを開けた瞬間、体が固まりました。女性の後ろに立っていたのは、元夫と息子だったのです。
そして、目の前にいた女性にも見覚えがありました。親友から送ってもらった動画で、元夫と一緒にホテルへ入っていった女性です。
こんな偶然があるのかと、しばらく言葉が出ませんでした。
女性は菓子折りを持って笑顔を浮かべていましたが、元夫は私を見るなり明らかに動揺。息子も驚いた顔をして、小さな声で「……マジか」とつぶやきました。
女性だけが状況を理解できていないようでした。そこで私は、できるだけ平静を装って伝えました。
「私、この人の元妻なんです」
女性の表情が固まりました。
私はさらに続けました。
「以前から、ずいぶん親しくされていましたよね」
その瞬間、先ほどまで浮かべていた女性の笑顔は完全に消えました。
私はそれ以上問い詰めませんでした。
「こんな偶然もあるんですね。これからはお隣さんとしてよろしくお願いします」
そう伝えると、引きつった表情のまま「……はい」と返事をした女性。私は菓子折りを受け取らず、静かにドアを閉めました。
再会をきっかけに弁護士へ相談
離婚した当時の私は、夫に裏切られたショックと新生活の準備で精いっぱい。不倫について慰謝料を請求することも考えましたが、当時はそこまで動く気力がありませんでした。
しかし、元夫と不倫相手を目の前にしたことで、あのときの出来事を曖昧なまま終わらせたくないという気持ちが強くなりました。
そこで私は、手元に残っていた証拠を持って弁護士へ相談することに。
離婚時の取り決めや手元の証拠を確認してもらい、これまでの経緯を伝えたうえで、元夫と不倫相手に対して慰謝料を請求できるか相談し、正式に手続きを進めることになりました。
しばらくして、不倫相手の女性がひとりで私の部屋を訪ねてきました。
「慰謝料のことなんですけど……どうにか取り下げてもらえませんか?」
以前とは違い、ひどく緊張した様子でした。しかし、すでに弁護士に依頼していた私は、直接話し合うつもりはありませんでした。
「あのときのことを、なかったことにはできません。今後のことは弁護士を通してください」
そう伝えると、女性はしばらく黙り込んだあと、そのまま隣の部屋へ戻っていきました。
隣室から聞こえる口論、そして突然の引っ越し
それからしばらくすると、隣の部屋から元夫と女性が言い争う声を耳にすることが増えました。壁越しだったため内容まではわかりませんでしたが、以前に玄関先で見た2人の雰囲気とは明らかに違っていました。
慰謝料の請求がきっかけだったのか、それ以前から問題を抱えていたのか、私にはわかりません。ただ、2人の関係がうまくいっていないことだけは伝わってきました。
そしてある日、隣の部屋から荷物が運び出されていることに気づきました。どうやら、元夫たちはアパートを引き払うことにしたようです。
どこへ行ったのか、その後2人の関係がどうなったのかは知りません。知ろうとも思いませんでした。
元夫に裏切られた事実は消せません。それでも、自分の気持ちを押し殺して泣き寝入りするのではなく、専門家に相談し、自分の意思で必要な手続きを進められたことで、ようやく過去に区切りをつけられたように思いました。
これからは元夫たちのことではなく、自分自身の人生に時間を使いたいと思っています。一度は手につかなくなってしまったイラストや絵本の制作にも、もう一度向き合うつもりです。
今度こそ、誰かの言葉に左右されるのではなく、自分の力で夢を叶えていきたいと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。