高級食材しか認めない義母
ある日の夕食前、義母が突然わが家を訪ねてきました。
ちょうど私が夕食の支度をしていたところだったのですが、キッチンに置いてあった食材を見た義母は、開口一番こう言ったのです。
「またそんな安っぽい材料を使っているの?」
義母は、高級な食材を使えば料理もおいしくなると思っていたようです。
私はスーパーの特売品なども利用しながら、家族がおいしく食べられるように献立を考えていました。浮いたお金を娘の教育費や将来のために貯めておきたいという思いもありました。
しかし、義母にはそんな私の考えが理解できなかったようです。
「特売品ばかり買うのはやめなさいよ。もっとちゃんとしたものを食べさせないと、娘ちゃんがかわいそうじゃない」
何度説明しても、義母は聞く耳を持ってくれません。
食材は値段だけで良し悪しが決まるものではないと私は思っていましたが、毎回反論するのにも疲れ、次第に聞き流すようになっていました。
運動会のために朝4時から作った特別なお弁当
娘の小学校で運動会がおこなわれた日のこと。
私は朝4時に起き、家族みんなで食べるお弁当を作りました。娘が好きな唐揚げや卵焼きをはじめ、彩りを考えたおかずやおにぎりなどを詰め、前日から準備していたものも合わせると、かなりの時間をかけたお弁当でした。
起きてきた娘は、お弁当の中身を見るなり大喜び。
「お昼、楽しみ!」
そう言って学校へ向かった娘を見送りつつ、私もうれしい気持ちになりました。
その日は義両親も運動会を見に来ることになっていました。義父は用事があったので、義母だけ先にわが家へ来てもらうことに。
レジャーシートや折りたたみ椅子、カメラなど荷物が多く、私と夫で手分けして持っていました。すると義母が、お弁当の入ったクーラーバッグを見て言ったのです。
「あなたたち荷物が多いでしょう? そのお弁当は私が持ってあげるわよ」
義母は自分の大きなバッグも持っていましたが、「まだ持てるから大丈夫よ」と言ってくれたので、私はその言葉に甘えてクーラーバッグを任せることにしました。
そのまま3人で小学校へ向かい、到着してからは娘を応援するのに夢中になって、お弁当のことを確認することすら忘れていたのです。
「あなたのお弁当は置いてきたわ」義母の言葉に絶句
そして午前中の競技が終わり、待ちに待った昼食の時間。娘が合流すると、義母は大きなバッグから見覚えのない立派な重箱を取り出しました。
「それ、何ですか?」
私が尋ねると、義母は得意げにフタを開けました。中に入っていたのは、見るからに豪華な料理の数々。しかし、それは私が作ったお弁当ではありません。
嫌な予感がして、「私が作ったお弁当は?」と聞くと、義母は悪びれる様子もなく答えました。
「置いてきたわよ。だって、あんな貧乏くさいお弁当を運動会で広げるなんて恥ずかしいでしょう?」
耳を疑いました。
義母によると、運動会に合わせて有名店のお弁当を事前に注文していたそうです。
「せっかくみんなで食べるんだから、こっちのほうがいいでしょう?」
義母はそう言いましたが、私は返す言葉が見つかりませんでした。朝4時から娘のために作ったお弁当を、私に一言も相談せず家に置いてきたというのです。
高級なお弁当を用意されたことよりも、私や娘の気持ちを無視して勝手に決められたことが悲しくて仕方ありませんでした。
「ママのお弁当がよかった!」と泣き出した娘
私が言葉を失っていると、隣にいた娘が重箱の中をじっと見つめていました。
義母が用意したお弁当には、普段なかなか食べる機会のない豪華な料理が並んでいます。しかし、娘が楽しみにしていたのは高級な料理ではありませんでした。
「ママのお弁当、ないの……? ばあば、なんで置いてきたの?」
私は何も言えず、義母を見ることしかできませんでした。
すると義母が、「こっちのほうがおいしいわよ。せっかくの運動会なんだから、豪華なものを食べたほうがいいでしょう?」と言いました。
その瞬間、娘の目に涙が浮かびました。
「いや! 私、ママのお弁当が食べたかった!」
楽しみにしていた娘を泣かせてしまったことがつらく、私まで涙が出そうになりました。
すると、それまで黙っていた夫が義母に言いました。
「母さん、さすがに勝手すぎるよ。娘が楽しみにしていたお弁当を置いてくるなんてひどいだろ」
義母は、「でも、こっちのほうが高いのよ?」と納得できない様子。
夫はさらに、「値段の問題じゃないだろ。朝早くから家族のために作ってくれたものを、黙って置いてくるなんてありえないよ」とはっきり言ってくれました。
少し遅れて到着した義父も事情を知り、義母に厳しい表情を向けました。
「いい加減にしろ! 人が朝早くから家族のために作ったものを、『貧乏くさい』なんて勝手に決めつけて置いてくるなんて、何を考えてるんだ!」
普段は義母に強く言うことの少ない義父が声を荒らげたことに、私も驚きました。義母もさすがに何も言い返せず、黙り込んでしまいました。
義父のファインプレー
すると義父が、何かを思い出したように口を開きました。
「そういえば、玄関近くにあったクーラーバッグ、一応持ってきたんだよ」
義父はわが家の合鍵を持っていました。その日は予想よりも気温が高かったため、小学校に着いたあと、遅れて来る義父に連絡し、わが家に立ち寄って冷えた飲み物を追加で持ってきてもらうようお願いしていたのです。
そこで玄関に置かれたままになっていたクーラーバッグに気づいた義父。私たちが忘れたのだと思ったそう。
「運動会の弁当じゃないかと思って、一応持ってきたんだよ」
そう言うと、義父は見覚えのあるクーラーバッグを私たちに差し出しました。
「それです!」と思わず大きな声が出ました。娘もすぐに気づき、「ママのお弁当だ!」と、先ほどまで泣いていたのが嘘のような笑顔を見せました。
私たちは、義父が持ってきてくれたお弁当をみんなで食べることに。
大好きな唐揚げを頬張りながら、「やっぱりママのお弁当がいい!」とうれしそうに笑う娘。その顔を見た瞬間、朝早くから頑張って作ってよかったと心から思いました。
高級だから良いとは限らない
一方の義母は、すっかり気まずそうにしていました。しばらくしてから、「……ごめんなさい。喜んでもらえると思ったのよ」と小さな声で謝ってきました。
義母なりに、豪華なお弁当を用意すれば家族が喜ぶと思っていたのでしょう。
しかし、自分が良いと思ったものを押しつけるために、誰かが大切にしているものを勝手にないがしろにしていいわけではありません。
その後、義母が料理について何も言わなくなったわけではありませんでしたが、以前のように食材の値段だけを理由に強く否定されることは減っていきました。娘が泣いた姿や、夫と義父から厳しく注意されたことで、少しは思うところがあったのかもしれません。
高級な食材や豪華な料理には、もちろんそれぞれの良さがあります。それでも、値段が高ければ必ず相手が喜ぶとは限りません。
あの日、私が娘のために作ったのは、特別高価なお弁当ではありませんでした。それでも娘が満面の笑みで食べてくれたことで、私にとっては何よりも思い出に残るお弁当になりました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。